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クリームパン争奪戦(あさって通訳マン)

「……ありがと」

クリームパンを渡すと、気まずそうな顔をして黒川は走り去っていった。黒川の背を見送って、季肋はあく太に視線を移した。

「どうして……分かったんだ……人にやらされているって……?」

「んー? 似たようなことが前にあってさ。それで分かった」

あく太は顔色を変えず、さらりとした拍子で答えた。しかし、季肋の心配は消えなかった。むしろ、あく太の代わりと言わんばかりに顔が曇った程だった。

「……大丈夫、だったか?」

「おう! 平気」

太陽のような笑顔だった。しかし、次の瞬間うってかわって眉を下げ、季肋に手を合わせた。

「それよりもさ、ごめんな。クリームパンを勝ち取ったのに渡してしまって」

「……気にしなくていい。また、買いに行けば良いから……」

季肋は眉を下げ、曖昧に微笑んだ。

「……また明日も、買いに行く……だろ……?」

「……! おう」

曇った顔が次第に晴れていく。それは雨上がりの夏空のようで。先ほどまでの曇りなど無かったかのような快晴の表情だった。

「じゃあ、戻ろうぜ。教室」

季肋が頷いて、今度こそ教室へ戻ろうとしたその時。

「おや、お2人とも。こんにちは」

すらりとした背格好の雁金が、袖の先までまっすぐにアイロンをかけた執事服を着て立っていた。

「あっ、雁セン! ハローっす!」

「こん……にち…は」

「元気で何より、と言いたいところですが」

雁金は眼鏡をクイと持ち上げた。

「衣川くんの顔が暗いですね。何かございましたか?」

「あっ……いや、えっと……」

季肋が目を逸らすと、あく太は手を振って誤魔化そうとする。

「何でもない! ダイジョーブ!」

「そういう時は何かを隠している時ですよ。伊達に1年も一緒にいませんからね」

鋭い眼光に負けた季肋たちは、正直に何があったかを白状した。もちろん、黒川の名前は伏せて。

「なるほど。そういうことですか」

雁金は眉根を揉んで、ため息を吐いた。散々、この学園の暗部は見飽きているようだった。

「彼にも事情があったようですが、かばわなくて良いのです。私の方から注意しておきましょう。名前を教えてください」

「嫌だ」

あく太のカラッとした返答に、雁金は目を大きく開いた。

続く
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