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クリームパン争奪戦(あさって通訳マン)

喧噪から少し離れた廊下で、2人は落ち合った。まだ遠く、購買の方で死闘は繰り広げられているようだった。

「ありがとな、季肋!」

あく太はクリームパンを2つ抱えて、季肋に眩い笑顔を見せた。

「なんとか……なって……、良かった……。それより……怪我は大丈夫か……?」

「大丈夫。 この通り元気だぜ」

ピースサインをしたあく太の身体のどこにも、痣は見られない。申告通り何もないようで、季肋は胸を撫で下ろした。

「じゃ、お金を払うわ。SaySayはやってる?」

「やってる……。ちょっと待っててくれ……」

無事に金銭のやりとりを終えた季肋とあく太は、ふうと一息を吐いた。これで一安心だ。

「じゃあ、早く教室に戻って食おうぜ」

「ああ……。クリームパン、楽しみだな」

思わず、季肋は口元を緩ませた。噂のパンが、あと数分後には味わえる。そう思うと、心のときめきは抑え切れられなかった。

「あの、ちょっとごめん」

不意に、か弱い少年の声が背中に降りかかった。2人が振り返ると、そこには黒川がいた。

「黒川……どうした……?」

様子のおかしい黒川に気がついた季肋は、努めて穏やかに話しかけようとした。しかし、厚意を振り切るように、黒川は尖った声を返してきた。

「ごめんけど、そのクリームパン、全部、僕が貰うよ」

「どうしたァ? 急に」

あく太は、首をかしげて眉をひそめた。

「良いから、早くよこしなよ。最底辺が偉そうにしないで。2等級に逆らおうって言うの?」

語気は強いのに、言葉の端の震えが隠しきれない。黒川はこんな性格だっただろうか、と季肋は思い返す。前に話した時は、優しかったと思うが……と記憶の底から思い出を掘り返した。前に隣の席だった時、自分が休んだ時は黒川がノートを取って見せてくれた。それなのに、今日は様子が違う。一体どういうことだろう……と思案した時、あく太がこちらに目配せをした。

「……そっか。分かった。季肋、ちょっと耳貸して」

季肋にあく太が声をひそめて耳打ちをする。

「……多分、上の等級の奴らに命令されてる。クリームパン奪ってこいって」

驚きに目を開く季肋に、申し訳なさそうな声であく太は続けた。しかし、腑に落ちた答えでもあった。黒川はいつも教室で1人だ。1人で食べるのに、3つもクリームパンを奪う理由が無い。

「だからよ、せっかくクリームパンを買ってきたけど、渡してもいいか? 明日にまた買ってくるのでも良いし」

季肋は、黙って頷いた。

続く
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