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クリームパン争奪戦(あさって通訳マン)

「3つ、買うんだよな……?」

昼休憩になり、購買部へ向かって、颯爽と走りながら会話する2人。季肋の自信のなさそうな声に、あく太は快活に同意した。

「ああ! 宗氏、季肋、オレの3つだ」

「仮に買えなかった、としても……俺たちは神名さんの弁当がある……」

季肋は、「今日はたこさんウインナーの日だ」と微笑んで渡してくれた神名の弁当を思い出した。何故だろう。季肋の頭に「弟たちよ、頑張ってこい」とサムズアップする穏やかな顔をした神名の姿が浮かんだ。

「だな。昼飯の心配はなし。思う存分戦おうぜ」

あく太が悪戯っぽく笑う。走っているからか、オレンジ色の髪は軽快に跳ねていた。

「先にレジに辿り着いた方が一気に3個分買おう。んで、後で合流して、買ってない方が自分の分のお金を買ったやつに渡す」

「ああ」

走っている間に確認をして、準備を整える。ほどなくして、2人は購買部に着いた。

「さーて、到着! って、ああ!」

頭を抱えるあく太。無理もない。もうすでに購買部は混沌の戦場と化していた。飴に群がる蟻のように、購買部の前には人だかりが出来ている。あの中に飛び込まなければならないのか……と、季肋は青ざめた。

「列……作って並べば……平和なのに」

季肋が眉をひそめて難色を示すと、あく太が力なく首を振った。

「欲望は戦争をもたらす……! まさにグラトニー。人間は愚かだぜェ」

意を決して、あく太は群衆に飛び込んだ。その後ろ姿は勇者のように引くことを知らぬ無謀さと力強さがあった。

「オラァ! オレにもクリームパンくれェ!」

こうしてはいられないと季肋も飛び込む。

「俺も……行く……!」

しかし中々前に進まない。人をかき分けてもかき分けても人がいる。かき分けた相手にすまないと心で詫びながら、季肋はクリームパンを目指す。

「ひでぶっ」

「五十竹……!」

何者かに肘鉄を喰らったあく太。虚を突かれたあく太の一瞬の隙を逃さず、別の生徒があく太を押しのけて前に突き進んだ。
隙を見せたのが悪かったのだろう。他の生徒からも押しのけられ、あく太はどんどん後ろに戻されていってしまった。

「季肋……後は頼んだ……」

「任せて……くれ……!」

あく太は犠牲となったのだ。蠢く人の波の間から、弱々しいあく太のサムズアップが見えた。
覚悟を決めよう。
季肋はもう振り返らずにクリームパンを目指した。犠牲を無駄にはしたくない。頑丈な身体と固い決意を胸にした季肋を止められる者は誰もいなかった。
そしてついに。

「お会計……お願いします」

戦いで髪が乱れた季肋は、3つのクリームパンを丁寧にレジに置いた。完全なる勝利の瞬間だった。

続く
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