俺だけがいない未来(よなよなラーメンブロス)
「來人さーん!!!」
あく太が突撃して、映画のジャケットを見せつける。
「この間、借りてきたやつ! 一緒に見ようぜ」
にっかりと笑い、眩しい白の歯が現れた。
「ああ。それはサメが台風に乗ってペンシルベニア州を襲うB級映画だな。面白そうだ」
有名なサメシリーズの映画だ。知る人ぞ知る、そこそこの怪作。
「そう! 來人さんは詳しいなァ」
「あく太の影響さ。たくさん面白い映画の話を聞かせてくれるから、興味が湧いたんだ」
情報を暇な時に仕入れておけば、次に会った時に話が弾むかもしれないだろう?
「へぇ! じゃあ早速見ようぜ!」
ほら、こんな風に。先にリビングルームに走るあく太に、
「はは。そんなに慌てなくても大丈夫だぞ」
と朗らかに声をかける。あく太のことはまるで弟のように可愛がっていた。コロコロと変わる表情が、犬のようで可愛らしいから。
こんな温かい時間も、あと幾ばくかで終わってしまう。その事実だけは、目を逸らさずに受け入れていた。
あく太と一緒に映画を見終わって、俺はすぐにベッドで横になった。
あく太には、才能がある。俺は確信していた。夜班のおもてなしライブで咄嗟に機転を利かせ、ささやかな夜を演出する仕掛けを作った。機材についての知識は、目を見張るものがある。
そして、何より。俺は、サメの映画に食い入るようにのめり込むあく太の横顔を思い出した。
「うおー! すっげー! サメかっけー」
こんな風に映画を本気で楽しめるところが、何よりも才能だと思う。
「何こっち見てんだ? 映画見ようぜ! 映画」
「ああ。すまないな」
不思議そうな目を向けられて、俺はすぐに映画へ視線を戻したのだった。
あと何日、俺はあく太と一緒にいられるだろう。時計を見ると、今日はあと数分で終わりを迎えようとしていた。期限が刻一刻と迫る。俺がこの生を終える期限が。
何かあく太に出来ることはないか? 俺が周りの大人に助けられて事業を成功させた時と同じように、俺もあく太に手を貸したい。
もう、俺はあの頃の未来ある少年ではない。次の世代の少年に、手を貸す番だ。
次の朝、俺はあく太に声をかけた。
「なあ、あく太。映画に俺を出してくれるんだよな?」
「もち!」
「協力して企画立案しよう。良い映画を作ろうじゃないか」
「お! いいねぇ! 早速会議しようぜ!」
窓から差し込む朝の白い光の中で、あく太は曇りなき笑みを浮かべた。純粋無垢な、向日葵のような顔。
対して、俺は光の当たらない影の中で微笑んだ。
たとえ、お前の未来に俺がいないとしても。お前と撮った映画の中で、お前の思い出と共に生きられるのなら、どんなに良いだろう。
「あれ、なんか元気ない感じ? 大丈夫そ?」
「気にしないでくれ。眠いだけだ」
俺が手を振って否定したのも構わずに、あく太は俺の手を引いた。
「眠いなら、太陽の光浴びなきゃ! おはようございまーす!」
手を引いた。引いてくれたんだ。気づけば、俺は光の中に飛び込んで、あく太と一緒に朝の光を浴びていた。
「っていうか。本当に眠い? なんかよく分かんないけど、悩みとかあったら、言ってくれよな。深夜のラーメン共犯者の仲だろ?」
「眠いだけだ。本当に」
「そうかぁ? 眠かったら、もっと口悪くね? 元ヤンの血!」
「はは! 確かにそうだ」
あく太はたまに鋭い時がある。それが時に脅威で、嬉しくもあった。俺たちは朝の光に包まれて、快活に笑い合っていた。
あく太が突撃して、映画のジャケットを見せつける。
「この間、借りてきたやつ! 一緒に見ようぜ」
にっかりと笑い、眩しい白の歯が現れた。
「ああ。それはサメが台風に乗ってペンシルベニア州を襲うB級映画だな。面白そうだ」
有名なサメシリーズの映画だ。知る人ぞ知る、そこそこの怪作。
「そう! 來人さんは詳しいなァ」
「あく太の影響さ。たくさん面白い映画の話を聞かせてくれるから、興味が湧いたんだ」
情報を暇な時に仕入れておけば、次に会った時に話が弾むかもしれないだろう?
「へぇ! じゃあ早速見ようぜ!」
ほら、こんな風に。先にリビングルームに走るあく太に、
「はは。そんなに慌てなくても大丈夫だぞ」
と朗らかに声をかける。あく太のことはまるで弟のように可愛がっていた。コロコロと変わる表情が、犬のようで可愛らしいから。
こんな温かい時間も、あと幾ばくかで終わってしまう。その事実だけは、目を逸らさずに受け入れていた。
あく太と一緒に映画を見終わって、俺はすぐにベッドで横になった。
あく太には、才能がある。俺は確信していた。夜班のおもてなしライブで咄嗟に機転を利かせ、ささやかな夜を演出する仕掛けを作った。機材についての知識は、目を見張るものがある。
そして、何より。俺は、サメの映画に食い入るようにのめり込むあく太の横顔を思い出した。
「うおー! すっげー! サメかっけー」
こんな風に映画を本気で楽しめるところが、何よりも才能だと思う。
「何こっち見てんだ? 映画見ようぜ! 映画」
「ああ。すまないな」
不思議そうな目を向けられて、俺はすぐに映画へ視線を戻したのだった。
あと何日、俺はあく太と一緒にいられるだろう。時計を見ると、今日はあと数分で終わりを迎えようとしていた。期限が刻一刻と迫る。俺がこの生を終える期限が。
何かあく太に出来ることはないか? 俺が周りの大人に助けられて事業を成功させた時と同じように、俺もあく太に手を貸したい。
もう、俺はあの頃の未来ある少年ではない。次の世代の少年に、手を貸す番だ。
次の朝、俺はあく太に声をかけた。
「なあ、あく太。映画に俺を出してくれるんだよな?」
「もち!」
「協力して企画立案しよう。良い映画を作ろうじゃないか」
「お! いいねぇ! 早速会議しようぜ!」
窓から差し込む朝の白い光の中で、あく太は曇りなき笑みを浮かべた。純粋無垢な、向日葵のような顔。
対して、俺は光の当たらない影の中で微笑んだ。
たとえ、お前の未来に俺がいないとしても。お前と撮った映画の中で、お前の思い出と共に生きられるのなら、どんなに良いだろう。
「あれ、なんか元気ない感じ? 大丈夫そ?」
「気にしないでくれ。眠いだけだ」
俺が手を振って否定したのも構わずに、あく太は俺の手を引いた。
「眠いなら、太陽の光浴びなきゃ! おはようございまーす!」
手を引いた。引いてくれたんだ。気づけば、俺は光の中に飛び込んで、あく太と一緒に朝の光を浴びていた。
「っていうか。本当に眠い? なんかよく分かんないけど、悩みとかあったら、言ってくれよな。深夜のラーメン共犯者の仲だろ?」
「眠いだけだ。本当に」
「そうかぁ? 眠かったら、もっと口悪くね? 元ヤンの血!」
「はは! 確かにそうだ」
あく太はたまに鋭い時がある。それが時に脅威で、嬉しくもあった。俺たちは朝の光に包まれて、快活に笑い合っていた。
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