境界の庭
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雨の日だった。
「おい、交差点の真ん中で何してんねん」
『あれ?私…』
大きな交差点の真ん中に、私は立っていた。
「なにボーっとしてんねん…点滅してるしはよ行くで」
顔の見えない男性に傘を無理矢理持たされて、少し強引に腕を引かれる。
その背中はとても大きくて
着ていた紺色のパーカーは、雨粒に打たれるたびに少しずつ濃く染まっていった。
「で?中学生がこんな雨の日に傘も差さんと交差点で…何してるん」
商店街に入り、雨に濡れた鞄から薄手のハンカチを出して、私に差し出す。
『あ、あの…』
「ないよりマシやろ。拭いとき」
『ありがとう…ございます』
ハンカチを受け取ろうと顔をあげると
見覚えのある顔だった。
…いや、正確には
見覚えのある顔が、信じられないほど大人になっていたのだ。
『光…?』
「…は?」
ハンカチを持った手がピタリと止まり、眉間に皺が寄る
「なんで俺の名前…あんた、誰?」
間違いじゃなかったと同時に、胸の奥が冷たく沈んでいく。
初めて会った頃と同じような、冷たい目。
冷めたようで、どこか見透かされるような、あの財前光の瞳だった。
いつまで経っても答えられない私を見つめる彼は、長い沈黙に耐えきれないように、渋々口を開いた。
「まぁええわ。はよ拭き」
ハンカチをグイッと突きつけられ、思わず受け取る。
20代後半くらいだろうか。
濡れた前髪を無造作にかき上げた仕草ひとつでさえ、私の知っている財前光ではなかった。
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