東リベ×宝石の国
日が傾き影が長く伸びる、皆が見回りを終えた頃。
石の床にたくさんの足音が響き始めた。
その中の一つ、イエローダイヤモンドの乾青宗はとある宝石達を探していた。
「あぁ、いた。おい灰谷」
乾は早脚にその姿に近づいた。灰谷、と呼ばれたその宝石は少し離れた場所からその美しいアメシストの近眼を細めた。
「いぬい?」
灰谷が歩み寄らんとしたとき、二本の影の間を切り裂くように、ヒュゥと音を立てて一筋の風が通り抜けた。
「お、お世話になりますっっ」
その風を起こした張本人である花垣は自身のスピードにまだ慣れていないようで、予定より灰谷との距離が近くなる。ガバっと頭を下げたが、危ないところだった、と花垣は勝手に焦った。ぶつかって割れるのは三半の自分である。
「え?…………花垣か?」
灰谷は揺れる髪を確認すると目を開いて驚いた。こんなに速く動けたのか……! 中々向いた仕事が見つからず、この前ようやく博物誌の仕事を貰った末っ子だ。驚くのに無理はない。
乾は首を縦に振った。
「あぁ、足が速くなった花垣と組んでみろとのマイキーの判断だ」
「えぇ…足が速いのはわかったけど…」
これは大分、記憶が欠けているんではないだろうか。目立っていいかもな、と余計なことを考えながら、花垣の随分とカラフルになった足から全身へと視線を移していく。
「他は?」
「…す、据え置きとなっております……」
花垣は顔を上げて申し訳なさそうに答える。
「うっわきっびしー」
顎に手を置いて考える素振りを見せる。
「灰谷は剣の凄腕だ。ついでに習え」
「うす!」
「まぁな」
体育会系の返事をした花垣を他所に灰谷は満足気に薄く微笑んだ。そして、何か思いたったかのようにパチンと指を鳴らした。
「……あーーそうか」
「いきなり花垣と二人は危なねぇし、3人組だと息を合わせるのが難しい。だから」
石の床に落ちる灰谷から伸びた一本の影が二つに裂けた。
「二人でも一つの」
お決まりのルーティーンのように、互いの肩や腰に手を当てて、二本の影の持ち主が仲睦まじく絡み合う。その腕には一本ずつ左右対称な深い溝が刻まれていた。
「「俺ら、双晶アメシストでテストって訳だな」」
玲瓏なハモりで二つの声が重なった。
双晶は同じ石であるために、素手で触れ合っても傷つくことのない稀な関係だ。自分たちにしかできないと、灰谷達は見せつけるかのようにポーズをとり、鈍い音を響かせながら頭をぶつけた。
「げぇ」
「ひぃっ」
それに呆れのような声を漏らしたのはダイヤモンド属の乾。一方で三半の花垣は悲鳴に近い声を上げた。
「お前とはあんましゃべったことねーな」
いつも二人で行動し、周りを寄せ付けようとしたがらない灰谷に、花垣はちょっかいをかけることはなかった。だって怖いじゃん。
「俺はアメシストの灰谷蘭」
「俺は弟の竜胆」
「「よろしくな」」
癖であるのだろうか。二人の頭がまた鈍い音を立てる。
花垣はついに悲鳴を上げた。
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