中学生編
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「昨日の帰りに、レオを見掛けた」
昼休みにぽつりと豪炎寺が言う。
この間、俺と虎丸が話をしていたのを盗み聞きしていた豪炎寺と鬼道は、礼生を目撃するたびに逐一俺に言ってくるようになった。
なんかすごい…居心地が悪い。
「どこでだ?」
「本屋だ。昨日、数学の問題集を買いに行って、その時にな」
「へ、へえ…」
鬼道も何かすっげえ楽しんでいるような気がする。
いや、楽しんでるよな?絶対に!
「まあ、本屋で見掛けただけならわざわざ話題にする必要もなかったんだが…」
「何かあったのか?」
「ああ…あいつ、ずっと絵本を眺めてたんだ」
「「絵本?」」
俺と鬼道の声が重なった。
なんで、絵本?
「レオは一人っ子じゃなかったか?」
「虎丸もあいつも兄弟はいないはずだ」
「じゃあ、なんで絵本?」
「さあ、それは俺にもわからない。気になったからお前達に話しただけだ」
「なんだよ、それぇ」
ふっと鼻で笑うと、豪炎寺は空になった弁当箱を片付けた。
鬼道も丁寧に箸を箸箱へ入れ、優しく微笑みながら続けて言う。
「気になるなら、行ってみたらどうだ?」
「本屋にか?」
「ああ、絵本売り場に行くか、本人に聞くかくらいしか答えは出ないだろうからな」
「まーそうだな、」
絵本かあ…最後に読んだのはいつだったっけ?
部活が終わって、豪炎寺の家の方にある本屋へ行ってみた。
案外広いし、児童書売り場が充実してる。
「へえ、いっぱいあるんだなあ…あれ?」
いっぱいある絵本の中で、ぱっと惹かれるあったかい絵の表紙。
すごくやわらかいタッチで描かれたそれは、ライオンとトラの子どもが主人公らしく、二匹が仲良く並んでいた。
「ししのみや じん 作、ししのみや ともえ 絵…って、まさか、違う…よな?」
『何をしていらっしゃるんですか、円堂キャプテン』
「うええぇ!?礼生!?」
『…驚きすぎですよ』
吃驚して慌てて振り返ると、少しだけ笑って礼生が言った。
『一体児童書売り場で何をされているんですか、貴方は』
「え、いや、別に、その…」
『言い訳は見苦しいですよ、どうせ誰かに聞いたのでしょう?私が絵本売り場で眺めていたのを』
「…まあ、そうなんだけど」
はあ、と溜め息を吐いて俺を見る。
『貴方は嘘が吐けない人なんですから、いっそのこと直球で聞いてくれた方が楽です』
「え…」
『貴方は空気なんか読まなくていいんです、きっとそういうのが許されるような人柄してますから』
「そ、う…かなあ」
『自覚は…まあ、ないでしょうね』
礼生はさっきまで俺が見ていた、その表紙の絵本を手に取って、とても幸せそうに微笑った。
その笑顔がとてつもないほど綺麗で、目が離せなくなった。
『これ、名前気になったでしょう?』
「あ、“ししのみや”って…」
『ええ、私の両親です』
「親御さん?」
『はい、絵本作家とその絵を担当する絵描きなんですよ』
家族のことを話す礼生の表情は、部活の時には絶対に見せない柔らかい表情。
『私も、幼い頃から両親の絵本で育ちました…その所為か、未だに絵本が好きで』
「でもさ、普通の小説とかも好きなんだろ?」
『まあ、基本的に本は好きですよ。小学生の頃はお小遣いを貯めて、よく絵本を買いに本屋さんへ通っていました。しかし、さすがに中学生だと…買いづらくは、なってしまいますね』
「そんなに絵本好きなのか?」
『…おかしいでしょう?普段は堅物なのに、絵本が好きだなんて』
「うーん、でも好きなもんは好きでいいんじゃないか?」
『そう、でしょうか?』
「俺は別にいいと思うけど」
にっと笑って見せれば、少し安心したような表情をしてくれる。
「あのさ、絵本の何が好き?」
『ああ、そうですね…短い物語の中で、当たり前だけど大切なことを教えてくれるってところでしょうか』
「例えば?」
『ごはんを残してはいけないとか、手を洗わないと病気になるとか、友達を大切にするとか…そんな“当たり前”のことですよ』
「へえ…ほんとに、絵本好きなんだな」
『はい、絵本好きです』
ちょこっとだけ照れくさそうに言う礼生が可愛かった。
また、心臓がどきどきしてうるさい。
『うちの両親は親バカで、このライオンとトラは私と虎丸をモデルにしているんです』
「あ、やっぱり?」
『ええ…恐らく次の絵本は、このライオンとトラがサッカーをし始めるんじゃないでしょうか』
「かもなあ。いいじゃん、楽しそうで」
『そうですね』
そんな風に絵本のことを話している礼生はどこか小学生の面影を残していて、少しだけ幼く見えた。
みんなの知らない一面。
そう思うと、やっぱりドキドキした。
好きなモノ。
(もしかして、美術得意なのか?)
(ええ、まあ絵を描くのはわりかし…)
(マジ!?)
(母ほど上手くはないですよ、)