男主/影山の息子
FFI本選編
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初めて来たアメリカエリア。カントリーだなあ…風景がまるで西部劇。
「あれ?…時雨?時雨じゃないか!」
後ろから声を掛けられて振り返る。そこにいるのはフィールドの魔術師。
『一哉!』
「やぁ、久しぶりだな。試合凄かったよ」
そう言って、一哉は笑った。僕は先日アメリカ代表・ユニコーンと戦って引き分けたばかりだ。その試合の後、一哉と飛鳥から彼の身体のことを聞いた。
『無理、してない?』
「大丈夫だよ、してない」
一哉の身体に残る、幼少時代の事故の後遺症。それは間近で見た飛鳥や秋ちゃんにはショックなことだと思う。でも、イナズマジャパンとの試合を最後にアメリカで手術をすると決めた一哉。一哉との約束で、守たちはもちろん、秋ちゃんにも黙っていると約束した。
「土門が結構面倒見てくれるからさ」
『…飛鳥らしいな』
「だよね、俺もそう思うよ」
やっぱり飛鳥は面倒見がいい。そんなしっかり者の、僕の親友。
「一之瀬…と、時雨?」
「あ、土門」
『近くまで来たから、寄ったんだ』
笑って見せれば、飛鳥も安心したように笑った。僕は一哉の手術のことを聞いたときに、父さんのことを二人に話していた。人には口外しないと言う約束で。二人とも、世宇子戦や真・帝国戦にいたから即座に頷いてくれたけど。
「今日の試合見たよ」
『飛鳥、』
「今んトコは、何もないみたいだな」
『うん』
「土門ってばずっと心配してたんだ。影山のこともあるけど、変な虫付かないかとかね」
「一之瀬、」
「本当のことだろ」
二人とも、心配してくれてたんだ。一哉のことがあるから、人の心配してる場合じゃないのに。やっぱり仲間なんだなって、友達なんだなって実感した。
「オルフェウスの居心地はどう?」
『父さんと、親子だってことはみんな知ってるけど。僕のことはチームの一員として受け入れてくれてるよ』
「そっか」
「あのプレー見てれば、なんとなくわかるけど」
一哉も飛鳥も優しく笑う。二人は明日、イナズマジャパンと戦う。
そして、それが一哉の最後の試合。僕は信じてる、明日が最後じゃない…きっと一哉は戻ってくる。
『明日、頑張ってね』
「いいのか、俺たちにそれ言って」
「豪炎寺は日本代表だろ?鬼道や円堂だっているのに」
『いいの、いいの。明日の試合はどっちも応援するから。それに修也にも有人や守にも、会いに行かないって決めてるから』
そう言うと、二人とも不思議そうな顔をしていた。
「なんで?」
『なんとなく、かな。試合を楽しみにしてるっていうのが大きいと思うけど』
飛鳥は大きな手で、僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。その様子を見ながら、一哉は優しく微笑んでいた。
「俺も、時雨試合できてよかったよ」
「そうそう、お前とライバルチームなんて今までなかったしな」
『そうだ…飛鳥は帝国からずっと同じチームで、一哉は雷門の一員だもんね』
「たまにはこういうのも悪くないかな」
『また、一緒にやろうね!』
「もちろん、な、土門」
「あぁ、当然だろ」
二人とも笑っていた。本当は手術の不安もあると思うけど、それを隠して笑っている。強いな、やっぱり。
『明日楽しみにしてるね』
それだけを言い残して、僕はアメリカエリアを後にした。宿舎に戻れば、門の前でフィデオが待っててくれていた。
翌日のイナズマジャパンとユニコーンの試合。宿舎のテレビにかじりついて見ていた。接戦、白熱するシーソーゲーム。
一哉の想い、それに答えるユニコーン。そして、イナズマジャパン…守が全力で戦う。
『…凄い、』
仲間同士のぶつかり合い。だけど、気持ちは痛いくらい伝わってくる。やっぱりスタジアムに行けばよかったかな。
『…あ、』
こうやって見ていると、ふと思うことがある。父さんはどうしてサッカーに戻って来たんだろうか。あの潜水艦の沈んだ後、どこにいたんだろうか。すぐに海外に逃亡したのか…
僕には皆目見当も付かなくて、試合を見ながら考えていた。
「時雨!」
『えっ、フィデオ?』
「もう…俺、何回も名前呼んだんだよ?」
『ご、ごめん』
首を傾げるフィデオに謝る。全然聞こえてなかった。父さんのことを考えていたら、何も聞こえなくなってた。
「…守たちの試合見てたんだ?」
『うん、』
「イチノセとドモンも、友達なんだっけ」
『そうだよ』
フィデオは僕の隣に座った。守のことが気になるのかな…なんか気に入ってるというか、仲良くなったみたいだし。
正直、不思議な感じだ。海の向こうのチームと戦うって言うだけですごいのに。あの白い流星、世界のヒデ・ナカタのいるオルフェウスに僕はいる。
「時雨ってさ、仲間想いだよね」
『え、そうかな』
「だって、いつも人のこと考えてる」
『…確かに』
昔から、そうだったかもしれない。父さんのやり方に疑問を抱き、帝国の仲間を育て、帝国を去った。いつか父さんを見限って、自分達のサッカーをやってくれると信じて。
『でも、それは僕の自分勝手さかもしれないな』
「…自分勝手、か?」
『うん、結果論として…誰かのためになってるけど』
実際に、動いている時は自分一人勝手なことをしている。今回だってそうだ。みんなはいいと言ってくれた。でも、これは自分の役目を放棄して勝手なことをしているに過ぎない。相談もしなかった。勝手に決めたことだ。
『本当は僕の我儘なのかも』
本当は、みんな嫌なのかもしれない。そう思うと、ふと怖くなった。
何のためにやって来たんだろうか、と。
「そんなこと、ないと思うけどな」
不意にフィデオはそう言った。テレビ画面には、喜ぶイナズマジャパンの姿があった。みんな、勝ったんだね。凄い試合だったよ、一哉、飛鳥。
「俺は、時雨はみんなが大事だろ?マモルたちも時雨が大事なんだと思う」
にこっと笑って、優しく頭を撫でられる。
「だから、時雨がやってることは我儘でも何でもない。君にしかできないことなんじゃないかって、俺は思うな」
『…フィデオ、』
「じゃなかったら、一人でチームを離れてオルフェウスに来ないだろ?」
フィデオの言葉は僕の心にすんなりと入ってきた。浸透するように、じーんと。
「勇気ある行動に、俺は感謝してるよ」
チームを助けれてくれたんだから、そう続けたフィデオ。そうだ、僕は守りたかった。イナズマジャパンも、オルフェウスも。父さんに、これ以上誰かを傷付けて欲しくないから。
でも、それはみんなのため?父さんのため?
突然それが自分の中に、疑問として残った。
『ありがとう、フィデオ』
「俺たちの方がありがとうだよ」
フィデオの優しさに、少し泣きたくなった。
数日して、ヒデから手紙が届いた。手紙と言うよりは、少し大きな茶封筒。そこに入っていたのは、ヒデの書いたものではない手紙と数枚の楽譜だった。
『…これ、は』
その手紙を見て驚いた。それは「ルシェ」という女の子からの手紙。
内容としては、目の見えない彼女は手術をするとのことだった。目が見えたあかつきには、Kのおじさんの試合を見に行きたいとある。
最後には、時雨お兄ちゃんにも会えるかなと締めくくられていた。
察するに、きっと過去の悪事に巻き込んでしまったいたいけな少女。それが彼女・ルシェであり、父さんはそこに責任を感じていたのか、ルシェに会ったのだろう。彼女が盲目だということを知り、手術代を出してやったのだとのことだ。
『父さんが?』
不思議で仕方が無かった。あの人は何を思って、ルシェを助けたのか。どうして僕のことを彼女に話したのか。
…もしかすれば、父さんは彼女に癒されていたのかもしれない。うっすらと、そう考えた。
(…不思議だ、)
僕のことを話した理由がいまいち掴めない。父さんのお気に入りは有人であり、同じ最高の作品であろうと、有人が優位にいるのはわかっている。
そして、この楽譜。
明らかに母の字体である。母さんの作った曲なのだろう。
ただ、なんだろう…この感じは。
僕はその楽譜を鼻歌程度に歌ってみた。後から思えば、失敗だった気がする。鼻歌程度でしか歌っていていないのに、僕は涙が止まらなくなってしまった。この歌はきっと、母さんが父さんのために作ったのものだ。
最後の一枚は、五線譜に手紙が書かれていた。
親愛なる零治さんへ、という書き出しで始まる手紙。元々、父さんとは仲のいい友人だったようだ。しかし、父さんはサッカーへの復讐をするために一度母さんとの縁を切った。母さんを、自分の復讐劇には巻き込みたくなかったようだ。その後、時久さん…梅雨ちゃんのお父さんと結婚。
そこからだった、驚くべき事実は。
時久さんは、父さんに仕組まれた事故ではなく突然の心臓発作で事故を起こしてしまったらしい。それから母さんは再び、父さんに出会い、復讐の様子を知った。家族のいない孤独感から、僕を生み、父さんに預けたのだという。
母さんは僕に、父さんの人生を変えて欲しかったんだ。
それを知って僕は再び、自分のできることを考え込んでしまった。キャプテン…教えてくれてありがとう。ずっと、誤解していた。
もし、これを帝国の時に知っていたら、僕はあの場に残ったかもしれない。世宇子にも、真・帝国にもいったかもしれない。
『…よかった、僕は、ここにいる』
父さんの指揮するチームに僕はいる。キャプテンがくれたチャンスだ。母さんの願いを叶えてあげられる、父さんを解放できる、最後のチャンス。
有人も僕と同じように葛藤しているかもしれない。尊敬の大量が憎むべき相手になってしまった彼にとって、裏切られた気持ちが心を蝕んでいる。有人も父さんから解放してあげないと。もう、いいよって。
イナズマジャパンとオルフェウスの試合が近づく中で、突然父さんに呼ばれた。
「…来たか」
『呼んだの、自分でしょ』
父さんは一人静かに珈琲を飲んでいた。時雨、と静かに名前を呼ばれる。今まで感じていた重圧感は、ここ最近感じられない。
今日も、今この時名前を呼ばれても感じられなかった。噛み痕も疼きさえしない。
「カテナチオカウンターをやる」
『は?』
「私は今までずっと考案していたこのタクティクスを使う気は無かったが、気が変わった…この重要な局面でカテナチオカウンターを使用する」
『…考案っていうか、完成させられそうになかっただけだよね』
難易度の高いタクティクス。ゆえにできれば、戦力となることは間違いない。だけど、これを習得するにはあまりにも。
『時間が、なさすぎるんじゃないの?』
「それで出来なければ、私の知ったことではない」
いつものように冷たく言うものの。この大会、アルゼンチン戦やイタリア決定戦以来この人に動きは無い。何より、知った事実はこの人を見る目を変えてしまった。
『フィデオならできるって?』
「どうした」
『いや、新しいお気に入りかなって』
「私には合わない」
そんな風には思えない。随分と気にしているように思う。
『自分のことは案外見えてないね。フィデオのこともだけど、サッカーのことも』
まっすぐと目を見る。サングラスの奥にあるその瞳がどんな色を孕んでいるのかはわからないけれど。
『父さんはサッカーも好きだよね』
「なんだと?」
『…だって、諦めきれないでいるでしょ、ずっと』
「憎んでいる、ただそれだけだ」
『そんなことないよ。あんなに怖かったのに、ずっと僕の心の傷だったのに今目の前にいる父さんは何一つ怖くない』
もう、止まらない。全部伝えて、ぶつける。
『…知ってるんだ。母さんのこと、時久さんの事故のこと。じいさまのこと、それからルシェのこと、全部知ってるんだ…』
「…」
『なんか言いなよ』
父さんはサングラスを外した。素顔を見たのはいつぶりだろう。近づいてきた父さんは僕に手を広げ、ゆっくりと抱きしめた。
「全て、知ったのか」
『父さんの気持ち以外はね』
「…そうか」
『父さん』
「なんだ」
『温かい』
普通の親子なら、わが子を親が抱きしめることが普通のことだ。だけど、僕はこうして抱きしめられたのは指で数えるくらいしかない。久しぶりの、親のぬくもり。
「そうだな、」
何を思っているのだろうか。お互いのこと知りもせず、知ろうともせず、分かり合えないと、向き合って来なかった。どこかで向き合うべきだった。そうしなきゃいけなかったのに、受け止めるには僕は幼過ぎたし、父さんは囚われ過ぎていた。
『父さん』
「どうした」
『随分遠回りをしてしまったし、知ったからと言って全部を許せるわけじゃない。そして、許されるわけじゃない』
「…ああ」
『だけど、もう終わりにしよう。自分だって、しんどいでしょ、もう』
「時雨…」
『俺もここで止められなかったら、母さんに合わす顔がない』
母さんは願っていた。父さんが復讐から解放されること。恨むことでしか愛せないこの人を、救いたかった。
『もう一回、黒の俺になるから』
お願い、これで悲しいことはやめよう、消えそうな声でそう言うも、父さんは何も言わなかった。
ただ、抱きしめる腕に力がこもる。
やっぱり、この人はサッカーが好きだ。好きどころじゃない。愛してやまないはずだ。僕はそんな父さんと一緒にサッカーをする。否定されても、罵倒されても、もう逃げない。
僕はその日を境に、黒い長いスカーフを首に巻くようになった。それはかつて、帝国で戦っていた頃の僕のトレードマーク。長い髪と共に靡く黒いスカーフは、有人の赤いマントと対照的だった。
「時雨、そのスカーフは?」
『僕の原点』
「原点?」
『…それからトレードマーク』
そう言って笑うと、フィデオはくすりと笑った。
「なんだか鬼道みたいだな」
『昔は僕もこれを纏ってたんだよ』
「鬼道と一緒に?」
『有人は昔から赤いマント、僕は黒』
「…そうなんだ」
『うん、懐かしい』
フィデオは似合うね、と言って微笑む。昔はさして嬉しくもなかった言葉が、少しだけ嬉しく感じる。父さんのしてきたことは許されることじゃない。でも、僕は父さんを愛するべきだった。あの人は、家族の、仲間の温かみを知らなかったのだから。
イナズマジャパンとの試合前日、カテナチオカウンターの練習を言いつけられた。結局、完成しないまま日は暮れてしまい、みんなさっさと練習をやめてしまう。フィデオは一人、練習を続けている。僕も一緒にカテナチオカウンターの完成を目指した。
「まだ練習するのか?」
『タクティクスとは別の、練習もしたいから』
「そうか、怪我しないように気をつけて」
『ありがとう、フィデオ』
フィデオが一旦部屋に戻った後も、練習を続けた。明日で色んなことが終わり、変わっていく気がする。僕だけでなく、父さんや有人、そしてフィデオ…僕は東吾じいさまのサッカーをしてみたい。昔、それはやめろと、言われたプレー。
でも、これが一番僕にあっていた気もする。
『東吾じいさま…』
すっかり日が暮れてしまった、暗い夜のグラウンド。僕は精一杯思い出す。初めて、あのビデオを見つけたときのこと。父さんにサッカーを教えてもらったときのこと。有人に出会ったこと。それを思い返しながら作った新しいシュート。
「時雨!」
『あれ、どうしたの?』
「時間の限り、練習しようと思ったんだ。影山東吾のサッカーを」
『じいさまの?』
「そうか、君のおじいさんなんだよな」
『うん』
フィデオも何か答えに辿り着いたらしく、自分にはこれが必要なんだとわかっていた。それは、やっぱり東吾じいさまのプレー。フィデオ曰く、当時の映像と雑誌がキャプテンから送られてきたらしい。
「一緒にやってくれるか?」
『もちろん、元々僕たち問題だから』
その夜、僕らは必死になってマスターした。東吾じいさまのプレーを。
『明日は、きっと大変な試合になる』
「そうだな」
母さんの願いがきっと叶う。僕とフィデオ、有人と明王…父さんの手元で育った似た者同士のプレイヤー。試合は、始まらなければわからない。
『…白と黒』
光と影。星と夜。
光あるところに影があるとはいえ、あまりにも長い暗闇だった。それぞれが出口を見つけられず、見つけたと思ったらまた足を踏み入れてしまっていた。きっと明日は二度と入り込むことがない出口を見つけられるはず。
『君に会えてよかったよ、白い流星』
この奇跡が明日更なる奇跡になることを祈って。
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