男主/影山の息子
FFI本選編
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勇気のことは春菜に頼んだ。
きっと、何か前向きな方法を見つけてくれると思うから。
僕は何かに引き寄せられるように、ある場所へと向かっていた。
『…こんにちはー』
それはイタリアエリア。
オルフェウスの宿舎、グラウンドだった。
「あれ、君は… 時雨」
『フィデオ』
練習していた選手達。
気が付いてくれたフィデオに手を振れば、彼はたたっと駆け寄ってきてくれる。
「どうしたんだ?あ、偵察か」
『いや、そういうつもりじゃなくて…』
「…何かあったのか」
『あの…キャプテンのこと、聞きたくて』
「キャプテンの?」
フィデオは首をかしげていた。
僕はキャプテンから送られてきたスカウト状を彼に見せた。
驚いている、それも無理は無い。
「キャプテン直々の手紙だ…」
『筆跡、合ってる?』
「合ってるよ、キャプテンのだ。どうして、君に…」
『僕がインペラトリーチェ・ディ・ネーロだったから、かな』
「この間、マークとディランの言ってた“黒の女帝”のことか」
『うん…多分そうだと思う』
フィデオは尚更不思議そうな顔をしていた。
「どうして、手紙のことを黙ってたんだ?」
『本物かどうか、疑いをかけていたから』
「用心深いな…」
『そういう性分なんだよ、ごめんね』
苦笑して言えば、フィデオは首を横に振った。
優しく笑っている。
「これで疑いは晴れたんだな?」
『うん、キャプテンのことは信じるよ』
「ありがとう」
『こっちこそ、ありがとう』
フィデオはスカウト状を眺めながら、何かを考えている。
「ところで、これを持ってきたってことはスカウトを受けるのか?」
『…それを決めるためにここに来たんだ』
「え、」
『僕がここに入っていいのかどうか、キャプテンの真意を知るために』
「俺たちを見定める気か?」
『違うよ、みんなが危険な目に遭うか遭わないか…それが判断材料』
「…危険?」
『まだ起こるかどうかもわからないから、みんなには黙っていて』
「うん」
『僕も、みんなには黙ってきたから』
フィデオは何かを考えている。
きっと、この人は賢いから…勘繰ってはいると思うけど。
あえて聞かないのは、やっぱり賢いからだと思った。
少しここで様子を見させてもらうことにした。
カギは、イタリアにあるはずだ。
今思えば、昔からイタリア語を耳にすることが多かった。
イタリア…なんでだろう。
昔見て感動した冬吾じいさまのプレーを思い出す。
なんで、今頃…
『カテナチオ、カウンター…』
掘り起こす気のなかった記憶、言葉、知識。
オルフェウスの練習風景を、ただベンチで見ていた。
華麗なるサッカーって、こういうことなんだろうな。
もし、父さんの魔の手がイタリア代表に迫っているのなら僕は迷わず彼らを守る。これ以上関係のない人を、巻き込みたくない。巻き込んではいけない。
もう、これ以上…父さんに誰かを傷付けて欲しくない。
有人の心の傷を抉り、痛めつけることになる。それは明王も次郎も同じこと。
何よりも、肌で感じるほどの父さんよりも大きな深い闇。僕たちは少なからずその存在に脅かされている。
インペラトリーチェ・ディ・ネーロ
日本語訳では黒の女帝を意味するこの名は、僕がまだ小さい頃、それも有人に出会う前のことだ。この名で呼ばれ始めたのは。
突然車の止まった音。
降りてきた金髪の長い髪、三角のサングラス。胡散臭さと、嫌な雰囲気を纏う。
ミスターK。
謎のマントイレブン、チームKを連れた男。彼は自分を新監督だと言い出した。この流れは、よくない。
『…まさか、Kは、』
その考えが頭を過ぎる。フィデオたちから代表の座を奪おうというのか。そんな簡単に誰かを貶めようとするのか。
フィデオたちは、奪われかけている代表の座を取り返すために試合をすることになった。オルフェウスとチームKの代表決定戦。
場所はここ、オルフェウスのグラウンド。
時間は…明日の午後。
「どうしたんだ、時雨」
追い出された門の前で、動かない僕にフィデオは問いかける。
問われて気づいた。動けないことに。
ミスターKが僕のことを見た瞬間記憶がフラッシュバックした。愛媛で父さんに、海へ突き落とされた…あの時ことが。
『…フィデオ』
「大丈夫かい?」
こくりと頷いて、スカウト状を差し出した。
『これ受けるよ』
「いいのか、チームを抜けても」
『みんな、わかってくれると思う。それより、』
フィデオはこくりと頷く。
『君達の窮地だ、キャプテンの代わりにはならないかもしれないけど…力になりたい』
この想いに嘘はない。
キャプテン、君はどういう思いで僕にこれを送ったんだ。
練習場所の確保のために、各々バラけて探しに行った。それがかえって仇となった。ブラージを始め、ラファエレ、ジャンルカ、ジョルジョ、ダニエレたち五人も病院送りになってしまった。
タイミングが悪すぎる。僕を入れても、七人しか残っていないオルフェウス。さらに、フィデオでも襲撃された。
『…この正確さ、さすがだね』
そこに居合わせた守、有人、次郎、明王。感づいたのか、ミスターKが仕組んだのか…いや両方かもしれない。
ミスターKは影山零治ではないのか。その考えは僕も、有人も拭えない。
「時雨、大丈夫か」
『ありがとう、大丈夫だよ』
「そうか?」
フィデオの気遣いは嬉しい。だけど、ピンチの陥っているのはオルフェウス。僕が迷っているわけにはいかない。
オルフェウスを、有人たちを守らなくちゃ。
「俺も円堂たちを追いかける」
『フィデオ…』
「君は、みんなといてくれ」
『…うん、気をつけて』
「ありがとう」
それだけ言うと、フィデオは行ってしまった。
『…フィデオに何もないといいけど』
「時雨、フィデオ大丈夫かな」
『アンジェロ…多分、大丈夫だと思う』
心配そうなアンジェロを抱きかかえて、僕はフィデオの向かった方を見つめた。みんな、無事でいてくれ。
夕方、戻って来たフィデオは守たちと一緒だった。僕は病院から戻って来たブラージたちと合流していて、正直驚いた。
「時雨、円堂たちが助っ人として出てくれることになった」
『…守、いいの?』
「あぁ、イタリア代表の座をみんなで取り戻すんだ」
そう言ったフィデオに意を唱えたのはブラージ。いや、ブラージだけじゃない。怪我したみんながその結論には納得していなかった。
「試合には俺が出る」
「ブラージ」
納得していないみんなに守が言う。怪我が酷くなり、その先の試合に出れなくなったらどうするのか。僕らは敵じゃない、世界を目指すライバルなんだと。お前たちと試合がしたいんだと、ただまっすぐ伝えてくれるその気持ちにみんなも警戒が薄れた。
『…ブラージ、いい?』
「あぁ、お前達を信じる」
『ありがとう』
「頼んだぞ」
「任せてくれ!」
ここにイタリアと日本の混成チームが結成した。
「それより、何故お前がいるんだ」
「朝から見ないと思えば、イタリアエリアにいるし」
『…ごめん』
「また何か、隠して勝手をしてるだろ、お前は」
ゴーグルの奥で有人の目が訴える。色んな感情が見えるけど、心配をかけてしまったことに罪悪感がないわけじゃない。
僕は朝からの経緯を四人に説明した。もちろん、まだ久遠監督には言ってない。修也も怒ると思う。
それでも僕はオルフェウスを守ると決めた。
『ごめん、黙ってて』
「時雨…」
『…明日は、よろしくね』
妙に納得してない有人を余所に、守はいつもの笑顔で頷いた。この時、イナズマジャパンに不幸が訪れるなんて少しだって考えてなかった。
噛み痕がズキンと傷んで、僕を呼んでいたのにも関わらず。
イタリア代表決定戦。現れたのは、影山零治とチームK。その司令塔デモーニオ・ストラーダは、有人にそっくりだった。
試合前、どこかに電話を掛けている。一体どこに、誰に?
そんな疑問を残しながら、試合が始まる。
チームKのキックオフ。
「これは、」
このプレー、このフォーメーション…まるで帝国学園そのものだ。
フィデオは帝国を知らない。帝国を知らないものに、これを攻略することは出来ない。
有人が戸惑い始めている。もちろんそれは露骨にわかるほど。一人で走り始めてしまった有人を放っておいてはいけない。
『明王、力を貸して』
「どうすんだ?」
『有人を呼び戻して、後は僕が繋ぐから』
「俺は荒いぞ」
『その方がいい!』
にぃと笑った明王は有人を叱咤し、スライディングでボールを奪った。
「時雨!テメーの親父に一泡噴かすぞ!」
『うん!』
明王だって父さんに一流と認められなかったことが悔しい。だったら、見返してやるって。僕は真・帝国で明王が悔しい思いをしたことを知っているから、だから…
有人を復活させることが出来るんだ。
「不動、佐久間、時雨!力を貸してくれ」
「鬼道!」
『今さら!』
「…お前が俺を手伝うんだよ」
流れが、戻ってくる。僕達がディフェンスを掻い潜り、ボールは白い流星に渡る。それでも、フィデオのシュートをなんなくキャッチしたチームK。形勢逆転され、デモーニオの打った必殺シュートは、まさに。
「皇帝ペンギンX!!!!」
守の身体に直撃し、彼ごとゴールに叩き込む。それは、皇帝ペンギン1号をも凌ぐパワー。
「打つだけで消耗する、未完成な技と一緒にするな」
「「「「!?」」」」
「究極のペンギン、皇帝ペンギンX!!」
『…未完成、』
そう、未完成だからこそ、中途半端な威力と消耗する体力・気力。だったら…完成させてしまえばいい。
『なんでも、Xとか付ければ強いと思って!何が究極だ!極めてから言えっての!』
「… 時雨?」
『有人、次郎…』
禁断の技を、最強のシュートにする。あの赤きペンギンを、僕が甦らせる。
『完成した赤いペンギンを、見せてあげるよ!』
「完成、だと…⁉︎」
「お前…1号を完成させたのか!?」
『ね!明王』
「あぁ…見せてやれよ、影山に」
派手にゴールを奪った皇帝ペンギン1号はかつて帝国学園の誰も使いこなせず、完成もせず、禁断とされてきた。だから、もし、次に父さんに会ったらこれを見せてやりたかった。
前半は均衡を保ち、そのまま後半のスタート。
有人のプレーがぶれている。重圧を感じて、動きが鈍くなっているんだ。再びデモーニオの独壇場、これ以上は許さない。
再び鳴る指笛、答えるように現れた黒いペンギン。
僕はゴール前にまで急いで戻る。
「時雨!?」
『任せてっ』
ぱんぱん、と手を鳴らす。すると、円を描くように舞う鴉たち。皇帝ペンギンXを打ち消し、ボールを奪い返した。
『クロウ・ゼロッ!』
「これって、ダークエンペラーズのときの⁉︎」
『うん、これも完成した!』
「よく間に合ったな、見事なブロックだ」
そう言っていつものように笑う守。
「行くぞ、時雨。こっちのペンギン見せてやろうぜ」
『うん!』
キーパー自ら駆け上がる。それが、円堂守。隣を共に走ってくれるプレイヤーなんだ。守を軸に、チームKをかわしていく。
「行け!」
『…皇帝ペンギン1号‼︎』
未完成版はじっとその場でエネルギーを溜める。それでは、身体への負担がかかりすぎる。だから回転を加えて、集めたエネルギーをボールを蹴りだすのと共に受け流す。後は赤ペンギンがボールを支えていってくれる。
ただ、シュートの軌道はゴールを捉えていない。だって、これはシュートじゃない。
『守、打ち返せ!』
「行くぞ、メガトンヘッドォ!!」
ヘディングシュートを叩き込み、オルフェウスは1点を返した。
「マモル!時雨!」
「やったな」
『まぁ、連携が噛み合ったからね』
オルフェウスのみんなや、有人、次郎、明王にも笑みが零れる。その後、衝撃の展開が…デモーニオの目に異変が起こった。プログラムの拒絶反応だという。
『…いつも、そうだ』
身体に、心に傷を負わせる。それが父さんのやり方なんだって、知ってる。与えられた力に溺れる、悲しい心。劣等感。誰に向けていいのかわからない憎悪、嫉妬。
有人と明王の考案した必殺技。そこに次郎が入ることで完成し、父さんの思惑を打ち破る。
『水と油の化学反応、現実では起こりえない凄まじいパワーになる』
皇帝ペンギン3号。今までのペンギンを越える、最強のペンギンだ。
仲間と共に未来に進む、それが日本代表の、有人たちの強さなんだ。
オルフェウスは逆転勝利を収めることができた。
『凄い、有人…』
「俺たちが作った最強のペンギン」
「皇帝ペンギンの最終進化だ」
『うん、1号よりも強いかもね』
「まだまだ強くなるさ」
「進化し続ける」
『そうだね』
デモーニオもまた、仲間との絆で目覚めた。ちゃんと仲間がいるじゃないか。そう思って、気持ちよく終わると思ったその時…父さんは笑みを浮かべていた。
アルゼンチン戦の日時が変更され、試合の中継が始まる。画面には修也たちが映っている。
…父さんの目的は、これだったのか!
『…修也、みんな、』
