男主/影山の息子
FFIアジア予選編
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「時雨」
今日も久遠監督との作戦会議。
最近いやに厳しい表情が増えた気がする。
『…守は厳しいと、言いたいんですか。僕もこの間のネオ・ジャパン戦で感じました』
「あぁ、だがそれは円堂自身が気が付かなければいけないことだ」
『そうですね、確かに…』
どうにかしてあげたいけど、こればかりは自分で何とかしなくちゃ。
「お前にはわかるんだろう。どんな状況も円堂は乗り越えられると」
『はい、もっときついこといっぱいあったから…これくらいじゃ倒れません』
「そうか」
久遠監督は何かを考えているようだった。
『それと、ジョーカーは一か八かですけど』
「なるようになる、それがお前達だ」
『そうですね』
笑えば、珍しく久遠監督も笑った。
その後はみんなが練習を終えて、各々過ごしていた。まぁ、リカちゃんが冬花に何かけしかけたみたいで…勘違い大騒ぎしてた。
僕は僕で修也と一緒にのんびりしていた。
ーーーまさか、突然別れが来ることも知らずに。
昨夜から、修也の元気が無い。一回家に洗濯物を取りに行ってから、どこか沈んでいるみたいで。
元気が無いって言うか、鬼みたいに気迫放っていてちょっと怖い。
『修也、』
春菜も秋ちゃんも、冬花も気合いが入っているって言うけど。
違うよ、これは…何かを背負っているような、そんな感じ。どこか少し、エイリア学園への出発のときみたいな。
『修也っ』
たたたっと駆け寄れば、眉を下げ、寂しそうな顔をする修也。胸が痛い。なんで、なんでそんな顔するんだろう。どうして何にも言ってくれないんだ。
「どうした、時雨」
『…何かあったのかなって』
「っ、別に何も」
『黙っててもわかるから、何か抱えてることくらい』
「… 時雨」
『修也が僕のこと気付くみたいに、僕も修也のことわかるんだよ』
「すまない、少し調子が悪いだけだ。心配をかけたな」
無理に微笑う修也を僕は見ていられなくて、きゅっと手を握れば、頭を優しく撫でられた。修也を元気にしてあげなきゃいけないのに、なだめられてるのは僕の方。…悔しいな。
『僕は、無力だ』
最近、修也は家に帰るたび表情が暗くなる。夕香ちゃんに会う度に元気になっていたのに。
今は違う。
修也は僕に無理するなって言うけど、修也はもっと、もっと無理するから…心配なんだよ。
翌日、修也は一時帰宅して、やっぱり顔を暗かった。でも、虎ちゃんと連携技を作るために頑張っている。そうでもしなくちゃいけないような使命感を持っているような気さえする。
『…修也』
「時雨?」
『守…何でもないよ、練習頑張って』
「え、あぁ…サンキュ」
修也が練習途中、響木監督に呼ばれ理事長室へ行ってしまった。どうしたんだろう?嫌な胸騒ぎがする。それは、修也の抱えているものと関係しているのかもしれない。
気になってこっそり付いて行った。中にまで入る勇気はなく、扉の前で待っていた。中から、理事長、響木監督、修也の会話が僅かながらに聞こえてくる。
どうやら、修也のお父さんはサッカーをよく思っていないらしい。だから、修也に医者になる為の勉強をさせたい。その為にサッカーを辞め、ドイツ留学をさせたいと。
『修也は、きっと行く』
だって、いつだって自分の気持ちは後回しなんだから。大好きなんだもん。なんだって、わかるんだよ。
僕は理事長室を静かに去った。
この日から、背番号10番を見ているのが辛くなった。僕以上に辛いのも、苦しいのも、名残惜しいのも修也なのに。
僕は修也に何をしてあげられるんだろう。
練習が終わっても、特訓を続ける修也と虎ちゃんを僕はベンチで眺めていた。修也のために何をしてあげられるのか、ずっと考えていたせいもあった。
「時雨くん」
『秋ちゃん、守…』
「なぁ、豪炎寺ちょっと変じゃないか?」
「元気がないみたいなの…」
『うん…今の修也は変、っていうか怖い』
「時雨にもわからないのか?」
『様子がおかしいのはわかるんだけど、聞いても話してくれないから』
秋ちゃんと守は心配そうな目で修也を見ていた。
守と修也は相棒みたいなものだもん。
やっぱり、わかるよね。
…修也。
もうしばらく二人を見ていると、校門前に見たことのある女の人。僕はゆっくりと、その人の下へ歩み寄った。
『こんにちは、フクさん』
「時雨さん、こんにちは」
『…修也のこと心配して、見に来たんだね』
「時雨さんもご心配でしょう。あんな修也さんを見ているのは」
『うん、修也に何をしてあげられるのか、わかんないし』
伏せ目がちにそう言うと、フクさんは僕が事情を知っていることを察したらしい。
「ご存知、なんですね」
『盗み聞き、しちゃったんだ…心配だったから』
「時雨さん…」
フクさんは僕の手を取って、優しく手の甲を撫でた。温かい、母さんみたいなぬくもり。
「修也さんを、大好きなままでいてあげてください。それが修也さんにとって一番嬉しいことだと、フクは思います」
『…フクさん、ありがとう』
「いいえ、修也さんをお願いします」
『うん』
フクさんは一旦洗濯物を取りに戻ると言って、豪炎寺家へ向かった。
『修也を大好きなままで…例え、日本に置いていかれたとしても』
僕はもう一度ベンチに座って、二人が特訓を止めるまで見ていた。修也に貰ったペンダントを首元できゅっと握り締めたまま。
ずっと、見ていた。修也と虎ちゃんの特訓を。最後の一回だけ、シンクロした連携技。
その瞬間の修也の瞳を、僕は絶対に忘れない。忘れられない、何かを決意したあの瞳を。
修也はもう決めたんだと、悟った。
そう思ったとき、頬を一筋の涙が伝った。修也の決めたことを僕がぐだぐだ文句をいうコトは出来ない。だけど一緒にいられる時間を、精一杯尽くしてあげられたらと思った。
その後も涙が止まらなかった。
だって、修也のことが大好きだから。
夜にフクさんが来た後、僕は修也の部屋の前で待っていた。ちょっとでも一緒にいたいから。
「… 時雨」
『ごめん、聞いちゃった』
それだけ言うと、何のことかすぐにわかったらしく修也は俯いた。がらっと扉を開けて、「まぁ入れ」と言って先に部屋に入った。後に付いて入ると修也は真っ直ぐ僕を見ていた。
「すまない、俺の口から話すべきだったのに」
『ううん、僕が盗み聞きしただけだから』
「…そうか」
修也の表情は暗い。そんな顔、してほしくないのに。
『僕、修也を引きとめない』
「…ありがとう」
『うん、でもね、待ってるよ』
「時雨、俺には待っててくれと言える資格はない」
『そんなの関係ない、僕が待ちたいだけ。医者でもサッカー選手でも、修也だから…僕は、修也の帰りを待ってるよ』
「…ありがとう、本当にすまない。あと、」
『夕香ちゃんのことも、心配しないで』
先回りして言えば、修也は苦笑した。
「本当に、俺のことをよくわかってるな」
『当たり前だよ、大好きだからわかるんだ』
「…俺もだ。好きだよ、時雨」
修也に腕を引かれ、抱きしめられる。この温もりも、もうすぐ感じられなくなる。寂しいけど、僕も決めたから。
『好きだよ、大好き』
「ありがとう、時雨」
優しくキスされると、頬を伝う涙が止まらない。
また涙が止まらなくて。今、修也が受け止めてくれる間に、たくさん泣いて、甘えておこう。
君といた時間は僕にとって大切なものだから。
翌日、修也はお父さんの病院へ、ドイツ留学を決めたことを伝えに行った。
そんな中、チームに大介さんらしき人物からの手紙が届き、波紋を呼んだ。特に冬花の様子が何か気になる。守はそれでもプラスに考え、みんなを練習に戻させた。
夜、修也に付いて河川敷で練習をしていた。
『次!』
「はあぁぁぁ!!!!」
シュートを打ち込む修也。一向にゴールが決まらないのは、ドイツ留学が引っかかっているから。何よりも時間がないと、焦っているから。
『ダメだよ、打つのが遅い』
「どっちにずれてる?」
『左、でも…意識しすぎると右に寄るからあんまり気にしないで』
「わかった」
「豪炎寺!!」
「円堂…」
そこへ現れたのは守だった。どこかへ行った帰りだろうか…昼間の様子からすれば、きっと雷雷軒だと思うけど。
『今日はおしまいにしよっか』
「…あぁ」
「そうか…二人とも、また明日な」
帰ろうとしていた修也。ふと、足を止め、守を振り返る。三人で草むらに座って、空を見ていた。
修也は守に告げた。
サッカーをやめることを。
「どうしてそんなことになっちゃってんだよ!!」
守はやっぱり納得できなくて、声を荒らげる。修也に、何故今でなくちゃいけないのかと、自分の想いをぶつけた。
『守…』
守の気持ちもわかるけど。僕だって、本当はこんな風に言ってしまいたいと思うから。修也は歯を食いしばっている。
悔しいんだ、一緒にサッカーできないことが。大好きなサッカーができないことが。
その日、修也はそのまま帰ってしまった。
「いいのかよ、時雨」
『よくない…だけど、僕は修也のあの目を見たら止めらない。何よりも一番辛いのも苦しいのも修也で、一緒に行けないのが悔しいんだ』
「…っ、」
『僕は修也を止めない、これ以上迷ってくるんで欲しくないから』
「… 時雨」
守は優しく手を差し伸べてくれた。一緒に宿舎に戻ると、守は久遠監督の下へと向かった。
翌日の修也は今まで以上に怖かった。みんなを世界に連れて行きたい、その一心で特訓している。自分にも、虎ちゃんにも厳しく。
胸を抉られるようだった。
久遠監督はそんな僕を見兼ねたのか、泥のフィールドを作って置くように命じた。そして、韓国戦まで残りの残りの日をそこで練習するようにみんなに指示した。
最後だからと、僕も一緒に。
誰も入らない泥の中へ、修也が、僕が、守が順番に入り走る。みんなはその後へ付いてきた。
何の為に必要なのかも知らないまま、泥まみれになっていた。
それからも、僕は修也の練習に付き合った。
力を尽くせる限り。
決勝戦当日。
みんなでバスに乗って、スタジアムへ向かった。
キャラバンが急停止した。
