男主/影山の息子
FFIアジア予選編
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久遠監督に言われ、2回戦の相手を見学に行っていた。
相手はカタール代表・デザートライオン。
砂漠で鍛えられた戦士たち。
オーストラリアといい、カタールといい、暖かい気候のチームだなぁと思った。
『と、いうわけで、次の相手はカタールのデザートライオンです』
「そうか…カタールか」
久遠監督は少し厳しいような表情をしていた。
正直、カタールと戦うには体力が劣ることを気にしているんだろう。
『どうしますか、今回は』
「基礎体力と身体能力の強化、選手に自主的にやらせる」
『っ、そう…ですか』
「なんだ、その顔は」
きょとんとしている僕に、久遠監督は怪訝そうな表情でそう言った。
『いえ、なんかどぎついメニュー組むのかなぁって思ってたので』
「お前は私をなんだと思っているんだ…」
『す、すいませんっ』
がたっと、席から立ち上がる。
どうやら選手に指示を出しに行くようだ。
食堂で久遠監督がミーティングを行ったすぐ後、帰り支度をした虎ちゃんに出会った。
『虎ちゃん』
「あ、時雨さん、お疲れ様です」
『虎ちゃんこそ、練習お疲れ様』
僕は虎ちゃんの早退する理由を知っている。
修也には誤魔化して言ってないけど、虎ちゃんの家には事情がある。
虎ちゃんが、家に帰らなきゃいけない理由が。
『あんまり無理しないように、身体気をつけてね』
「はい、ご迷惑お掛けしてます」
『気にしないで、各々事情を抱えてる奴ばっかだから』
「ありがとうございます!今日はこれで失礼します」
深々と頭を下げ、虎ちゃんは慌しく帰って行った。
久遠監督の変則的な練習時間は、虎ちゃんのことを考慮しているような気がする。
『…偉いな、虎ちゃん』
僕は彼が羨ましいようにも思えた。
それと同時に、とてもいい子なんだって思う。
少しぼーっとしていると、背後から声を駆けられる。
「… 時雨?」
『あぁ、修也。どうしたの?』
その後うろうろしていた修也。
「虎丸のことが気になってな」
『そういえば、さっき守と秋ちゃんが虎ちゃんのこと何かわかったみたいだったよ』
「円堂と木野が?」
『うん、追いかけてみようか?』
そう言うと、修也はふっと微笑って頷いた。
僕は修也と一緒に守を追いかけ、秋ちゃんも含め4人で虎丸の元へ向かった。
この時、僕はなんだか少し嫌な予感がしていたんだ。
虎ちゃんの元へ行く途中、冬花と会い一緒に行くことにした。
その矢先だった。
自転車の音がして、嫌な感じのチャラい口調。
デコチャリに乗って現れた、短ランの不良少年はナンパを始めた。
『…みんな、気をつけて』
「時雨くんの言う通り、試合前に問題なんか起こしたら」
「わかってる…急いでるんだ、行こうぜ、みんな」
怖がる冬花、警戒している秋ちゃんと修也。
鬱陶しいから横をすり抜けようとしたそのとき、瞬時に危ないと思った。
『っ、冬花!』
「!? 時雨くんっ!」
不良少年と冬花の間に割って入り、相手の腕を掴んだ。
「あぁん?離せよ」
『だったら、やめてくれる?仲間なんだ』
ぎりっと掴んだ手に力を込める。
すると、舌打ちして「わーったよ」と観念したように吐き捨てた。
「…それにしても、アンタどっかで見たような」
相手の少年が呟くと、背後から聞きなれた声。
「何やってる、お前たち」
彼らが振り返れば、そこには飛鷹が立っていた。
守が呼ぶより先に彼が飛鷹の名を呼んだ。
さん付けってことは、元舎弟だろう。
飛鷹は掟のことを言っていたけど、カラスと呼ばれる彼はふざんけんなと言わんばかりの返答だった。
『…この間より、一人足りない、気がする』
「っ!?スズメはどうした?」
「スズメ?あいつなら追い出したよ、ボコボコにしてな。
アンタの時代は終わったんだよ、飛鷹さん」
やる気のない、というより、やらされている感が否めない舎弟たち。
彼らはカラスの号令に従って、飛鷹に向かって行った。
飛鷹が足を引いた、あれは…
『やめろ、トビー!手ぇ出すな!!』
叫んだときにはもう遅く、竜巻が舎弟たちを襲う。
それを見たカラスは自らやり合おうと、指を鳴らす。
「やめろ!飛鷹は大事なチームメイトなんだ」
「!?」『守…』
「殴りたいなら、俺を殴れ」
「キャプテン…」
「お前もだ、飛鷹」
守が飛鷹を宥め、カラスに喧嘩をやめさせた。
カラスはまた来るようなように言っていたけど、正直もう来るなと思った。
カラスが去り、飛鷹は守の横を抜けて舎弟たちに歩み寄る。
そうだ、さっき真空魔を受けたんだった。
「手荒なことをして済まなかった」
「飛鷹さんっ…」
『怪我とかない?』
「あ、グレさんも…」
顔を上げた彼らに、飛鷹は問いかける。
何故、こんな真似をしたのか。
カラスが新リーダーとなり、チームの方針はすっかり変わってしまったらしい。
だからこそ、彼らは飛鷹を頼ってきたんだ。
「これはお前達の問題だ、俺にはどうすることもできない」
『…飛鷹、』
「グレ、お前もこれ以上関わるな」
『…っ、』
がっくりと肩を落として、彼らは戻っていった。
本当に飛鷹を慕い、信頼していることがわかる。
飛鷹は守に彼らの行いを詫びた。
今はまだ、過去のことを言えない飛鷹。
だから僕も言わないでいる、飛鷹が自分で話すまでは。去りゆく飛鷹の背を見て、やっぱり放ってはおけなかった。
『ごめん、僕飛鷹の様子見に行くね。虎ちゃんのことは任せたよ』
「時雨…お前、」
守が言い掛けて、困ったように笑えば守は言葉を打ち切った。
『…僕からは話さない、飛鷹が自分で言わない限りは絶対に』
「そっか、わかった。虎丸のことは俺たちで見てくる。な、豪炎寺」
「あぁ、そうだな」
修也は優しく笑いかけてくれる。
この優しさに、僕は毎回救われ、勇気を貰っている。
四人と別れ、僕は飛鷹の後を追った。
辛いことも苦しいことも、分かち合うことで乗り越えてきた。
飛鷹にもそうやってほしいから。
『トビー!』
「…よく、追いついたな」
『お陰で随分走っちゃったけどね』
飛鷹は難しい表情をしている。
なんとかしてあげたい。
もう一度立ち上がる勇気をくれた君の力になりたいんだ。
『ちょっとさ、付いてきて』
「…どこに?」
『来ればわかるさ!というわけで、行こう』
「お、おいっ…」
僕は飛鷹の腕を引き、ある場所へ行くために走り出した。
「ここは…」
連れて来たのは、一軒のケーキ屋さん。
商店街の裏道にある小さなケーキ屋さんは僕と飛鷹が出会うきっかけをくれた仲間の場所。
『いいから入って、入って』
「お、おい…」
「いらっしゃいませーって、えぇ!?飛鷹さんにグレさん!?」
「…篝火?」
そう、このケーキ屋さんはアカリこと篝火灯二の実家。
僕と飛鷹の大事な仲間。
『久しぶり、アカリ』
「お、お久しぶり…です」
「グレ、お前…」
『トビーが煮詰まってるから、なんか甘いものでもご馳走しようかと。アカリ、何か一番のオススメがあったりとかしない?』
「ちょ、ちょっと待っててください」
バタバタと慌てた様子で準備をしだしたアカリ。
飛鷹はアカリの手際のよさに驚いていた。
『…アカリに会えば、前に進むヒントになるんじゃないかって思って』
「グレ…」
話をしていると、アカリが店の二階、つまりアカリの家に招いてくれた。
彼の部屋に通され、用意されたミニテーブルの前に座った。
「俺のオススメなんですけど」
ミニテーブルの上に、皿を二つ置いた。
皿の上には違う種類のケーキが乗っかっている。
「飛鷹さんにはチョコケーキ、ビターなんでそんなに甘くないです。グレさんのはかぼちゃのモンブランです、モンブランって言っても栗入ってませんが」
『美味しそー』
「あぁ、吃驚だな」
「まぁまぁ、まずは食べてみてください」
にこっと笑ったアカリ。
僕と飛鷹は一口食べて、驚いた。
甘すぎず、さわやかですごく食べやすい。
『美味しい!』
「本当に、甘すぎない…俺も食える」
飛鷹の言葉に、アカリは嬉しそうに答えた。
「甘いもんが得意じゃなくても食えるような、甘さ控えめを心がけてます」
『アカリらしいね、食べてほしい人がすぐにわかる…優しい味』
本当に三人揃うのは久しぶりなのに、いつも会っているような安心感。
離れていても、会わなくても、仲間なんだってわかる。
「飛鷹さん、疲れは吹っ飛びましたか?」
『そうだねぇ、糖分は疲れを癒してくれる…それに』
「「?」」
『久々に仲間に会ったんだ、元気にならないわけないよね?』
「お前…」
二人は優しく笑っていた。
「そうだな」「うん!」
こうして、アカリの家でケーキをご馳走になった僕達。帰り道に響木監督と出会い、お咎めを食らってしまった。
飛鷹は次喧嘩したら、代表を辞めさせられてしまう。
その夜、飛鷹を雷雷軒に送り出してから、久遠監督と最後の作戦確認。みんなの状況をチェックして、危険信号のある選手をマークしておいた。
例えば、士郎は北国育ちだから明日の気温はきついかもしれなし、リュウジの無理な練習も気になる。
みんな焦っているんだっていうのをひしひしと感じていた。
久遠監督の部屋を出ると、修也が待っていた。
『…修也、待ってたの?』
「あぁ、虎丸の事情はわかった。だが、」
『まだ納得してない、よね?』
僕の問いかけに、修也はこくりと頷いた。
まるで、謎が深まったみたいな、そんな感じ。
「あいつの事情はわかったが、どうしてあんなプレーをするのかわからない。シュートチャンスを潰してまで、目立たないようなプレーをする…」
『かえって気になるプレーってことか、』
「そうだな、あいつは何を考えているんだろうな」
悩む修也。
僕は、僕からは話してはいけない。
このチームは自ら歩み寄ってくるまでは、サポート側が口を割ってはいけない。
自分の力で、仲間に伝えるべきことがあるから。
『…わからない時は、ボールから想いを汲み取るしかないよね』
「時雨…」
『僕達はサッカーしてるんだもん、サッカーで理解してあげるのが一番だよ』
「あぁ、そうだな。明日、試合の中ででもわかってやれたらいい」
『うん…あ、でも、イラついてボールで攻撃しないように!ね?』
そう言うと、一瞬口を噤んだ修也。
あ、これは誤魔化しているような気がする。
「それは…約束できない」
『…厳しいねぇ、豪炎寺くんは』
僕がそう言い残して歩き出すと、慌てて後を追ってきた修也。
不意に腕を掴まれて、そのまま抱きしめられた。
『…っ、何?』
「ちゃんと名前で呼んでくれ」
『っ!?』
ちょっと茶化しただけなのに、あんまりにも寂しそうに言う修也。
度々離れていた時間があった所為か、名前を呼ばれないのが不安なのかもしれない。
『…ごめん、修也』
「時雨、」
伏せ目がちに謝ると、耳元で名前を呼ばれる。
…なんかドキドキする。
こういうの久しぶりかもしれない。
「お前が傍にいるだけで、安心するんだ。だから、ちゃんと名前で呼んで欲しいよ」
『う、うんっ…』
修也は軽くキスをして、僕を抱きしめる力を緩めた。
『しゅー、や…』
「我慢できなかった、すまない」
悪戯っ子のように笑う修也。
こうして翻弄されているのも幸せだって思うのはやっぱり修也が好きだから。
『…修也、』
「ん?なんだ?」
『明日、頑張ってね』
「頑張るよ、支えてくれるお前のためにも」
優しく微笑う。
その笑顔は僕と夕香ちゃんにだけであってほしいと思うのは我儘かもしれない。でも、ずっと修也の傍にいたいと思うんだ。
修也が部屋に戻った後、隠れていた明王に「場所を考えろ」と呆れられた。よくよく考えれば、ここは玄関に向かう廊下で人が通るのだった、恥ずかしい。
二回戦は本気を出した虎ちゃんのお陰で、勝利を収めることができた。
修也の悩みの種もすっかりなくなっている。
いい後輩ができたなぁ、と思うと、喜ばしいことに感じた。
「どうだ、調子は」
『まぁ、悪くは無いですね。地味に右肩上がりです』
「そうか」
そう言って、響木監督は笑った。
雷雷軒に来るのは久しぶりで、こうして話をするのも久しぶりだった。
『サポートする上で、久遠監督から学ぶことはたくさんあります。それに、フィールドの外から見ていると、気付くこともたくさんあって…このサポートの役目は凄くいい経験になってるって思いますよ、響木監督』
響木監督が優しく頭を撫でてくれる。
「そうか、いい勉強になってるか。そいつはお前さんの兄貴も喜ぶだろう」
『そうですね』
「久遠もお前のお陰でスムーズにできると褒めていた。本人には言わないところがあいつらしいと思うがな」
久遠監督が別に労ってくれないわけじゃない。
些細な気遣いはくれるし、不満はない。
それにあの無愛想な表情もあまり不快に思わない。
『別に褒めて欲しいわけじゃないんで、いいんです。代わりに得るものが多いので、常に報酬を貰っている感じです』
「そうか、」
響木監督はその後は何も言わないで、ラーメンを出してくれた。
僕の大好きな、雷雷軒の醤油ラーメン。
『今度、雷雷丼も食べさせてくださいね。あれ覚えたいんです』
「覚えておく、あんなもの…材料さえあればお前は作れると思うがな」
『そんなこと…』
「以前の合宿の時の差し入れは相当な腕前だったと思うぞ、時雨」
『響木監督…』
世宇子戦の前日の合宿。
確かにあの時、おかずを作っていったけど。
響木監督に評価を貰えるようなものだとは思っていなかった。
「今度、ここでも何か作ってみろ」
『ここで、ですか?』
「あぁ、飛鷹の練習に付き合った日でもいい。まかないを作ってみたらいい」
『…、はいっ!』
それから数日して、僕がこの約束を果たしたのは別の話。
(飛鷹と一緒に練習しようかな、身体なまるし)
