男主/影山の息子
驚異の侵略者編
名前変換
(ここは、どこ?)
僕は有人に頼まれて、帝国に来た。
帝国イレブンと和解して、一緒に練習して、家に帰ろうとした。
そこまでは覚えている。
でも、そこからの記憶がない。
あれから、どれだけの時間が経ったのか…ここは何処なのかわからない。
真っ暗で、どこか父さんのいた部屋を思い出す。
ディスプレイがいっぱい浮かび上がる天井。
わずかに残されたスポットライト。
『…どこ、だろう』
修也が、みんなが心配しているかもしれない。
もしかしたら、梅雨ちゃんも探してくれているのかもしれない。
(心細い…)
そう思って俯くと、後ろで聞こえる足音。
びくっと肩が跳ね上がるのを抑えて、振り返った。
『…誰?誰かいるの?』
暗闇に問えば、無言でこつこつと音を鳴らして近づいてくる。
不安で心細くて、凄く…怖い。
「影山時雨か」
そう言いながら、スポットライトの中へ入ってきた青い髪の少女。
あぁ、彼女は…ザ・ジェネシスの10番だ。
確か名前は、
『ウルビダ』
名前を口にすると一瞬面食らった顔をして、すぐにいつものクールな表情になった。
「覚えていたのか、私の名前を」
こくりと頷くと、きょとんとした顔で僕の顔をまじまじと見つめていた。
ウルビダは腕を組み、落ち着いた声音で話し出した。
「お前はグランに攫われて、ここへ連れられてきた」
『…基山ヒロトが?』
「あぁ、だが…奴が何を考えて、お前を連れ去ったのかは知らない」
『そう、なんだ』
ヒロトの意図がわからない。
なんで、ここに連れて来られたのか。
じゃあ…ここは、エイリア学園の本部。
『ここはアジトなの?』
ウルビダはこくりと頷いた。
でも、なんで彼女は僕に話してくれたんだろ。
『どうして、話してくれたの?』
「グランばかり勝手なことをしているのが気に入らない、それだけだ」
つまりはヒロトへの対抗心からの行動、ということなんだろう。
…僕をここへ連れてきたのはヒロト、今彼はどこに?
『…ヒロトは?』
「カオスを連れ戻しに行った」
『カオス?』
「バーンとガゼルが手を組んで、作ったチームだ」
『…え、』
それはダイヤモンドダストとプロミネンスの融合を意味する。
今みんなはカオスと戦っていて、それをヒロトが中断させようってことか。
『修也…テル、みんな…』
胸のペンダントをぎゅっと握り締める。
どれだけ不安でも怖くても、みんなを信じることはやめない。
仲間を信じることが僕らの強さだから。
『僕は、人質なのかな』
「恐らくはな」
ウルビダは冷たい目をして、落ち着いた声音をしている。
だけど、どこか寂しそうな感じがする。
『あの、さ』
「なんだ?」
『エイリア学園って、ジェネシスの称号って何なの?』
「……」
彼女は寂しそうな目をして、顔を背けた。
何か聞いてはいけないことを聞いたんだろうか。
「エイリア学園は、」
そう切り出して、彼女はぽつりぽつりと話し出す。
ザ・ジェネシスとはハイソルジャーと呼ばれる人間兵器。
それを完成させる母体として結成されたのがエイリア学園。
その、ザ・ジェネシスとなったチーム・ガイアは「おひさま園」と呼ばれる孤児院の子供たち。
「おひさま園」の子供たちは義父・吉良星二郎へ尽くした結果が今の現状なんだと。
『…力の強さ、か』
世宇子戦や真・帝国戦の父さんを思い出した。
あの人もサッカーを憎み、力だけを求めて、結局は破滅の道を歩んだ。
悲しい人だ、あの人は…
でも、これで瞳子監督の使命に納得することができた。
『お父さんのことが大切なんだね、ザ・ジェネシスのみんなは』
父親が好きか嫌いか。
それが、僕と彼らの違いだ。
瞳子監督もお父さんを大切に思っているからこその反抗だと思う。
それが意見の食い違いになっているんだろうな。
「お前は」
『ん、何?』
「お前は、自分の父さんが嫌いなのか?」
彼女の問いにこくりと頷けば、不思議そうな顔をしていた。
そりゃ、そうだとは思うけど。
『僕は父さんが嫌いで、勝つことが全てでそれが当たり前のサッカーが嫌だった』
「…試合に勝ちたいのは当然じゃないのか?」
『でも、試合の前に色々仕組んで努力なんて意味がないことになっちゃうような勝利…』
「お前は嫌なんだな」
『うん、嫌だった』
それは、仲間の努力を知っていたから。
その努力の結果が勝利だと信じる彼らに対して申し訳なく思ったから。
だから…そんな汚いやり方が嫌だった。
『同じように悪いことしてても、まだ星二郎さんの方が好きだ』
亡くした息子の仇を取りたい、そこからどんどん歪んでいった。
だけど、元々の理由を聞くと憎めない。
寧ろ、辛かったんだろうなと思ってしまう。
「憎いと、思わないのか」
『思わないというか、思えないかな』
だって…息子を愛した故の過ちなのだから。
真逆の感情をぶつけられてきた僕にはそれが羨ましくさえ思う。
父親の愛情なんて、どれだけ欲しくても僕には手に入らないものなんだ。
ザ・ジェネシスは父さんを愛し、尽くす子供たちだと知った。
『ウルビダ…』
「なんだ」
この暗闇には自分達しか居ない。
ウルビダは敵で、僕は人質の身だ。
だけど、守とヒロトは敵だけどきっと友達だから…そうだと信じたいから。
『…ウルビダとは友達になれないのかな?』
「お前と、私がか?」
こくりと頷けば、面食らったように顔をしかめるウルビダ。
普通はきっとそうなんだろうけど。
僕は悪事には理由があることを我が身でもって知っている。
だから、敵であっても友達にはなれると思う。
テルと友達になれたように、帝国のみんながわかってくれたように。
『僕はウルビダと友達になりたい』
「…変な奴だな、お前は」
そう言った彼女の顔は一瞬柔らかくなった。
この子も、根はやっぱり優しいんだろうなと思う。
「私は…敵だぞ」
『わかってるよ、でも…ヒロトと守だって友達だと僕は思う』
ふふっと笑うウルビダ。
普通にしてればいいのにな、なんて思う。
「そうか、友達か…変わった奴だな、お前は」
『まともな人生送ってないから』
笑ってそう返せば、ウルビダは「私も同じか」とこぼした。
どうして、この時ウルビダと友達になりたかったのかはわからない。
だけど、何かの予兆があったんだ。
…ウルを、止めなきゃいけないときが来る。
何の確信があったのかはわからないけど。
なんでだろうね、僕は人質だったのに。
それから何時間か経った。
僕には時間の感覚がわからなくなってしまっていて、時々現れるウルに外の様子を聞いていた。
足音が聞こえる。
だけど、ウルの足音じゃない。物凄くいやな感じがする。
「…やぁ、影山時雨君」
『基山ヒロト…』
連れ去ってきたくせに、ここに来てから初めて会った。
ヒロトは笑っていた。
「…さっき、円堂君たちが来たよ。君の大事な豪炎寺君も…みんなも、姉さんも」
『みんなが?』
「みんな揃って来てくれたよ」
ヒロトはニヒルな笑みを浮かべていた。
彼は僕にグラウンドの場所を教えて、立ち去ってしまった。
…ちょっと待って、僕この部屋から出たことないんだけど、と思ったけど遅かった。
いつの間にか彼はいなくなっていた。
『どうしよう、場所わかんない…』
だけど、みんなのところに行かなきゃ。
何時間か前に鬼瓦さんや梅雨ちゃんに連絡したものの返答はない。
でも、信じてる。
みんなが来たってことは、警察もここに来てくれていると思う。
とりあえず、今までいたこの暗い部屋を飛び出した。
『…父さんの潜水艦と比にならない、広すぎるっ』
飛び出したものの、吃驚した。
こんなに広いなんて思わないから…
ひるんでいても始まらない、まず走った。
試合は始まっているみたいだ。
『修也のシュート!!』
あの、強烈なシュートの音が聞こえた。
その音を頼りに、グラウンドを目指して走った。
僕がグラウンドに辿り着いた時には、先取点を奪われた雷門。
そして、ムゲン・ザ・ハンドを破られた勇気とそれをカバーした条介の姿。
『勇気っ、条介っ』
ゴールサイドに駆け寄れば、二人は驚いた顔をしていた。
他のみんなも同様に驚いていた。
「時雨さん、無事だったんですね」
「大丈夫か!?何かされてねぇか?」
『僕は平気だよ!!二人とも大丈夫!?』
「平気ですよ」「大丈夫だ」
何ともないのがわかってほっと胸を撫で下ろす。
士郎はまだベンチにいた。
すかさず、士郎の許に駆け寄った。
『士郎っ』
「時雨…」
テルがここにいないことから、恐らく士郎に何かを託してキャラバンを降りたんだろう。
僕がいない間にカオスと何があったのかはwからない。
だけど、何かあったことは確かだ。
「時雨…僕も、キャプテンや豪炎寺君と一緒に戦いたい」
その目には強い意志が宿っている。
みんなと同じように、士郎にも自分の意志が。
『行こう、みんなのところに』
「うん」
ピッチを見れば、修也と目が合う。
こくりと頷いた。修也はわかってるんだ。士郎の答えを。
「『監督!!僕らを試合に出してください』」
監督と目が合う。
目で何かを感じたのか、監督は手を挙げて選手交代を命じた。
リカちゃんに代わって士郎、夕弥に代わって僕を入れた。
みんなに衝撃が走る。
わかってるんだ、みんな。士郎の力が必要だって。
『行くよ、士郎っ』
「うん、行こう…時雨っ」
僕らはピッチに立った。
士郎は答えを出すために、僕は全てを知った上で彼らと戦うために。
雷門必死のディフェンス。
修也からパスを受けた士郎のシュートは止められた。
ディフェンスもヒロトに破られてしまう。
ヒロトが勇気に迫る。俯く勇気に条介からの怒号が走った。
「行くよ、綱海!!時雨!!ここはあたしたちが止めるっ」
「おう」『うん』
「パーフェクト・タワー!!」「『でりゃあぁぁ!!!!』」
塔子・条介とのディフェンスでヒロトを止めた。
これで勇気の心に何かが響いた。
だけど、士郎の意識は集中できてない。
そんな士郎に修也は容赦なくシュートを蹴りこんだ。
『やっぱりやったよ、修也ってば』
頭を抱えながらも、僕はディフェンスに集中する。
みんなの想いを、ボールを繋ぐために。
守から士郎へパスが通った。
その刹那に感じた、士郎の心のあり方が変わった。
『士郎、行けーっ!!』
「うん…僕はもう一人じゃない、みんながいる」
仲間がいる。
それがどれだけ心強いことか、士郎はわかってくれた。
動きも早さもさっきまでとはまるで別人。
答えを見つけ、アツヤと融合した士郎の「ウルフレジェンド」がゴールを決めた。
「ありがとう、豪炎寺君。ありがとう、時雨、みんな」
そう言った士郎の顔は迷いが晴れ、すっきりしていた。
『相変わらず乱暴なエースでごめんね、士郎』
「僕が悪かったから」
「時雨、お前な…」
「さすがの豪炎寺君も時雨には敵わないね」
「っ、吹雪!!」
こうやって、冗談まじりに話せるなんて思ってなかった。
このままいける、この勢いに乗っていかなきゃ。
今度はヒロトのシュートが勇気を襲う。
でも勇気の目には諦めない、その想いが映っている。
『雷門のキーパーはお前だ、勇気っ!!』
「はいっ、任せてください!!」
パワーアップしたムゲン・ザ・ハンドが流星ブレードを止めた。
ヒロトやウルは焦る様子もない。
だけど、これは雷門の反撃が可能ということだから。
『っ、!!?』
次の瞬間、アジトが大きく揺れた。
鬼瓦さんたちの仕業だということはわかったけど、それは無駄に終わる。
ジェネシスの真実をみんなに告げられる。
しかし、また雷門は追い詰められてしまった。
ウルフレジェンドは通用しない。
パワーアップしたムゲン・ザ・ハンドでも止められない。
『…どうしたらいい、』
(貴方は信じればいいのよ、仲間を、友達を)
久しぶりに聞いた母さんの声が頭に響く。
(今まで信じてきた仲間を)
『…母さん』
呼べば、落ち着いて聞きなさいと母さんは言う。
(貴方は一人じゃない、随分前にそう感じ、仲間を信じ、私に気が付いた)
『うん…』
(だけど、私が導けるのはきっとここまで)
『…消えるの?』
(そうね…恐らくは)
『そっか、母さん…ありがとう』
そう言うと、母さんはふっと笑ったような気がした。
(でも、消える前に…)
母さんがそう言うと、だんだん胸が熱くなるのを感じた。
なんだろう…この溢れてくる力は。
温かい…この力はなんだろう、温かくて優しい。
(貴方に水無月霧雨の力を託すわ、友達の為に、仲間の為に、使いなさい)
『…わかった』
心の底から溢れてくるようなこの感覚。
まるで、心臓が二つあるような鼓動の音。
あぁ、そうか…母さんの想いを僕は受け継いでいるんだ。
(梅雨と瞳子ちゃんに宜しくね、吉良さんを頼んだわよ…時雨)
『うん…わかった』
家族のことも、仲間のことも、僕に任せて。
母さんがすぅと、僕の中に溶け込んでいくのがわかった。
きっと、これが本当の最後だ。
もう…この声は聞くことが出来ない。
士郎の中のアツヤみたいに。
でも、大丈夫だから。もう、心配しないで…見てて。
『よしっ』
ヒロトも、ウルも、星二郎さんも止めてみせる。
みんなと一緒にこの試合に勝つんだ。
僕は有人に頼まれて、帝国に来た。
帝国イレブンと和解して、一緒に練習して、家に帰ろうとした。
そこまでは覚えている。
でも、そこからの記憶がない。
あれから、どれだけの時間が経ったのか…ここは何処なのかわからない。
真っ暗で、どこか父さんのいた部屋を思い出す。
ディスプレイがいっぱい浮かび上がる天井。
わずかに残されたスポットライト。
『…どこ、だろう』
修也が、みんなが心配しているかもしれない。
もしかしたら、梅雨ちゃんも探してくれているのかもしれない。
(心細い…)
そう思って俯くと、後ろで聞こえる足音。
びくっと肩が跳ね上がるのを抑えて、振り返った。
『…誰?誰かいるの?』
暗闇に問えば、無言でこつこつと音を鳴らして近づいてくる。
不安で心細くて、凄く…怖い。
「影山時雨か」
そう言いながら、スポットライトの中へ入ってきた青い髪の少女。
あぁ、彼女は…ザ・ジェネシスの10番だ。
確か名前は、
『ウルビダ』
名前を口にすると一瞬面食らった顔をして、すぐにいつものクールな表情になった。
「覚えていたのか、私の名前を」
こくりと頷くと、きょとんとした顔で僕の顔をまじまじと見つめていた。
ウルビダは腕を組み、落ち着いた声音で話し出した。
「お前はグランに攫われて、ここへ連れられてきた」
『…基山ヒロトが?』
「あぁ、だが…奴が何を考えて、お前を連れ去ったのかは知らない」
『そう、なんだ』
ヒロトの意図がわからない。
なんで、ここに連れて来られたのか。
じゃあ…ここは、エイリア学園の本部。
『ここはアジトなの?』
ウルビダはこくりと頷いた。
でも、なんで彼女は僕に話してくれたんだろ。
『どうして、話してくれたの?』
「グランばかり勝手なことをしているのが気に入らない、それだけだ」
つまりはヒロトへの対抗心からの行動、ということなんだろう。
…僕をここへ連れてきたのはヒロト、今彼はどこに?
『…ヒロトは?』
「カオスを連れ戻しに行った」
『カオス?』
「バーンとガゼルが手を組んで、作ったチームだ」
『…え、』
それはダイヤモンドダストとプロミネンスの融合を意味する。
今みんなはカオスと戦っていて、それをヒロトが中断させようってことか。
『修也…テル、みんな…』
胸のペンダントをぎゅっと握り締める。
どれだけ不安でも怖くても、みんなを信じることはやめない。
仲間を信じることが僕らの強さだから。
『僕は、人質なのかな』
「恐らくはな」
ウルビダは冷たい目をして、落ち着いた声音をしている。
だけど、どこか寂しそうな感じがする。
『あの、さ』
「なんだ?」
『エイリア学園って、ジェネシスの称号って何なの?』
「……」
彼女は寂しそうな目をして、顔を背けた。
何か聞いてはいけないことを聞いたんだろうか。
「エイリア学園は、」
そう切り出して、彼女はぽつりぽつりと話し出す。
ザ・ジェネシスとはハイソルジャーと呼ばれる人間兵器。
それを完成させる母体として結成されたのがエイリア学園。
その、ザ・ジェネシスとなったチーム・ガイアは「おひさま園」と呼ばれる孤児院の子供たち。
「おひさま園」の子供たちは義父・吉良星二郎へ尽くした結果が今の現状なんだと。
『…力の強さ、か』
世宇子戦や真・帝国戦の父さんを思い出した。
あの人もサッカーを憎み、力だけを求めて、結局は破滅の道を歩んだ。
悲しい人だ、あの人は…
でも、これで瞳子監督の使命に納得することができた。
『お父さんのことが大切なんだね、ザ・ジェネシスのみんなは』
父親が好きか嫌いか。
それが、僕と彼らの違いだ。
瞳子監督もお父さんを大切に思っているからこその反抗だと思う。
それが意見の食い違いになっているんだろうな。
「お前は」
『ん、何?』
「お前は、自分の父さんが嫌いなのか?」
彼女の問いにこくりと頷けば、不思議そうな顔をしていた。
そりゃ、そうだとは思うけど。
『僕は父さんが嫌いで、勝つことが全てでそれが当たり前のサッカーが嫌だった』
「…試合に勝ちたいのは当然じゃないのか?」
『でも、試合の前に色々仕組んで努力なんて意味がないことになっちゃうような勝利…』
「お前は嫌なんだな」
『うん、嫌だった』
それは、仲間の努力を知っていたから。
その努力の結果が勝利だと信じる彼らに対して申し訳なく思ったから。
だから…そんな汚いやり方が嫌だった。
『同じように悪いことしてても、まだ星二郎さんの方が好きだ』
亡くした息子の仇を取りたい、そこからどんどん歪んでいった。
だけど、元々の理由を聞くと憎めない。
寧ろ、辛かったんだろうなと思ってしまう。
「憎いと、思わないのか」
『思わないというか、思えないかな』
だって…息子を愛した故の過ちなのだから。
真逆の感情をぶつけられてきた僕にはそれが羨ましくさえ思う。
父親の愛情なんて、どれだけ欲しくても僕には手に入らないものなんだ。
ザ・ジェネシスは父さんを愛し、尽くす子供たちだと知った。
『ウルビダ…』
「なんだ」
この暗闇には自分達しか居ない。
ウルビダは敵で、僕は人質の身だ。
だけど、守とヒロトは敵だけどきっと友達だから…そうだと信じたいから。
『…ウルビダとは友達になれないのかな?』
「お前と、私がか?」
こくりと頷けば、面食らったように顔をしかめるウルビダ。
普通はきっとそうなんだろうけど。
僕は悪事には理由があることを我が身でもって知っている。
だから、敵であっても友達にはなれると思う。
テルと友達になれたように、帝国のみんながわかってくれたように。
『僕はウルビダと友達になりたい』
「…変な奴だな、お前は」
そう言った彼女の顔は一瞬柔らかくなった。
この子も、根はやっぱり優しいんだろうなと思う。
「私は…敵だぞ」
『わかってるよ、でも…ヒロトと守だって友達だと僕は思う』
ふふっと笑うウルビダ。
普通にしてればいいのにな、なんて思う。
「そうか、友達か…変わった奴だな、お前は」
『まともな人生送ってないから』
笑ってそう返せば、ウルビダは「私も同じか」とこぼした。
どうして、この時ウルビダと友達になりたかったのかはわからない。
だけど、何かの予兆があったんだ。
…ウルを、止めなきゃいけないときが来る。
何の確信があったのかはわからないけど。
なんでだろうね、僕は人質だったのに。
それから何時間か経った。
僕には時間の感覚がわからなくなってしまっていて、時々現れるウルに外の様子を聞いていた。
足音が聞こえる。
だけど、ウルの足音じゃない。物凄くいやな感じがする。
「…やぁ、影山時雨君」
『基山ヒロト…』
連れ去ってきたくせに、ここに来てから初めて会った。
ヒロトは笑っていた。
「…さっき、円堂君たちが来たよ。君の大事な豪炎寺君も…みんなも、姉さんも」
『みんなが?』
「みんな揃って来てくれたよ」
ヒロトはニヒルな笑みを浮かべていた。
彼は僕にグラウンドの場所を教えて、立ち去ってしまった。
…ちょっと待って、僕この部屋から出たことないんだけど、と思ったけど遅かった。
いつの間にか彼はいなくなっていた。
『どうしよう、場所わかんない…』
だけど、みんなのところに行かなきゃ。
何時間か前に鬼瓦さんや梅雨ちゃんに連絡したものの返答はない。
でも、信じてる。
みんなが来たってことは、警察もここに来てくれていると思う。
とりあえず、今までいたこの暗い部屋を飛び出した。
『…父さんの潜水艦と比にならない、広すぎるっ』
飛び出したものの、吃驚した。
こんなに広いなんて思わないから…
ひるんでいても始まらない、まず走った。
試合は始まっているみたいだ。
『修也のシュート!!』
あの、強烈なシュートの音が聞こえた。
その音を頼りに、グラウンドを目指して走った。
僕がグラウンドに辿り着いた時には、先取点を奪われた雷門。
そして、ムゲン・ザ・ハンドを破られた勇気とそれをカバーした条介の姿。
『勇気っ、条介っ』
ゴールサイドに駆け寄れば、二人は驚いた顔をしていた。
他のみんなも同様に驚いていた。
「時雨さん、無事だったんですね」
「大丈夫か!?何かされてねぇか?」
『僕は平気だよ!!二人とも大丈夫!?』
「平気ですよ」「大丈夫だ」
何ともないのがわかってほっと胸を撫で下ろす。
士郎はまだベンチにいた。
すかさず、士郎の許に駆け寄った。
『士郎っ』
「時雨…」
テルがここにいないことから、恐らく士郎に何かを託してキャラバンを降りたんだろう。
僕がいない間にカオスと何があったのかはwからない。
だけど、何かあったことは確かだ。
「時雨…僕も、キャプテンや豪炎寺君と一緒に戦いたい」
その目には強い意志が宿っている。
みんなと同じように、士郎にも自分の意志が。
『行こう、みんなのところに』
「うん」
ピッチを見れば、修也と目が合う。
こくりと頷いた。修也はわかってるんだ。士郎の答えを。
「『監督!!僕らを試合に出してください』」
監督と目が合う。
目で何かを感じたのか、監督は手を挙げて選手交代を命じた。
リカちゃんに代わって士郎、夕弥に代わって僕を入れた。
みんなに衝撃が走る。
わかってるんだ、みんな。士郎の力が必要だって。
『行くよ、士郎っ』
「うん、行こう…時雨っ」
僕らはピッチに立った。
士郎は答えを出すために、僕は全てを知った上で彼らと戦うために。
雷門必死のディフェンス。
修也からパスを受けた士郎のシュートは止められた。
ディフェンスもヒロトに破られてしまう。
ヒロトが勇気に迫る。俯く勇気に条介からの怒号が走った。
「行くよ、綱海!!時雨!!ここはあたしたちが止めるっ」
「おう」『うん』
「パーフェクト・タワー!!」「『でりゃあぁぁ!!!!』」
塔子・条介とのディフェンスでヒロトを止めた。
これで勇気の心に何かが響いた。
だけど、士郎の意識は集中できてない。
そんな士郎に修也は容赦なくシュートを蹴りこんだ。
『やっぱりやったよ、修也ってば』
頭を抱えながらも、僕はディフェンスに集中する。
みんなの想いを、ボールを繋ぐために。
守から士郎へパスが通った。
その刹那に感じた、士郎の心のあり方が変わった。
『士郎、行けーっ!!』
「うん…僕はもう一人じゃない、みんながいる」
仲間がいる。
それがどれだけ心強いことか、士郎はわかってくれた。
動きも早さもさっきまでとはまるで別人。
答えを見つけ、アツヤと融合した士郎の「ウルフレジェンド」がゴールを決めた。
「ありがとう、豪炎寺君。ありがとう、時雨、みんな」
そう言った士郎の顔は迷いが晴れ、すっきりしていた。
『相変わらず乱暴なエースでごめんね、士郎』
「僕が悪かったから」
「時雨、お前な…」
「さすがの豪炎寺君も時雨には敵わないね」
「っ、吹雪!!」
こうやって、冗談まじりに話せるなんて思ってなかった。
このままいける、この勢いに乗っていかなきゃ。
今度はヒロトのシュートが勇気を襲う。
でも勇気の目には諦めない、その想いが映っている。
『雷門のキーパーはお前だ、勇気っ!!』
「はいっ、任せてください!!」
パワーアップしたムゲン・ザ・ハンドが流星ブレードを止めた。
ヒロトやウルは焦る様子もない。
だけど、これは雷門の反撃が可能ということだから。
『っ、!!?』
次の瞬間、アジトが大きく揺れた。
鬼瓦さんたちの仕業だということはわかったけど、それは無駄に終わる。
ジェネシスの真実をみんなに告げられる。
しかし、また雷門は追い詰められてしまった。
ウルフレジェンドは通用しない。
パワーアップしたムゲン・ザ・ハンドでも止められない。
『…どうしたらいい、』
(貴方は信じればいいのよ、仲間を、友達を)
久しぶりに聞いた母さんの声が頭に響く。
(今まで信じてきた仲間を)
『…母さん』
呼べば、落ち着いて聞きなさいと母さんは言う。
(貴方は一人じゃない、随分前にそう感じ、仲間を信じ、私に気が付いた)
『うん…』
(だけど、私が導けるのはきっとここまで)
『…消えるの?』
(そうね…恐らくは)
『そっか、母さん…ありがとう』
そう言うと、母さんはふっと笑ったような気がした。
(でも、消える前に…)
母さんがそう言うと、だんだん胸が熱くなるのを感じた。
なんだろう…この溢れてくる力は。
温かい…この力はなんだろう、温かくて優しい。
(貴方に水無月霧雨の力を託すわ、友達の為に、仲間の為に、使いなさい)
『…わかった』
心の底から溢れてくるようなこの感覚。
まるで、心臓が二つあるような鼓動の音。
あぁ、そうか…母さんの想いを僕は受け継いでいるんだ。
(梅雨と瞳子ちゃんに宜しくね、吉良さんを頼んだわよ…時雨)
『うん…わかった』
家族のことも、仲間のことも、僕に任せて。
母さんがすぅと、僕の中に溶け込んでいくのがわかった。
きっと、これが本当の最後だ。
もう…この声は聞くことが出来ない。
士郎の中のアツヤみたいに。
でも、大丈夫だから。もう、心配しないで…見てて。
『よしっ』
ヒロトも、ウルも、星二郎さんも止めてみせる。
みんなと一緒にこの試合に勝つんだ。