驚異の侵略者編

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豪炎寺連載
男主/影山の息子
名前
あだ名(世界編~)

潜水艦のあちこちで爆発が起こる。
上空には鬼瓦さんの乗るヘリが飛んでいた。
父さんに対して、観念しろと叫んでいる。

「佐久間たちをあんな目に遭わせて満足か!!?」
「満足?できるわけなかろう!!」

有人の問いに父さんは言い切った。
常に勝利するチームを作るまでは満足できない、そう告げる。
また、父さんの最高作品は僕達だとも。

『僕は、父さんの作品なんかじゃないっ』

暴れ、叫ぶ僕を見て父さんはにぃと笑った。
ぞくっと嫌な感じが背筋を駆け巡る。

「最高の作品はこの手で葬る」
『っ…とう、さ…』
時雨っ!!!!」

有人に名前を呼ばれるも、その姿は見えない。
父さんにこの海の中へと投げ捨てられた。
そんな僕が最後に見たのは救出される有人を背に、爆発が父さんを飲み込む様子だった。

―父さん!!!!

叫びたくても、声が出ない。海が僕の呼吸を奪ってしまう。
僕の意識は薄れていく。
もがいても、もがいても、僕は海底へと沈んで行った。
そんな時でも思い浮かぶのは君だった。

修也、約束守れなかったら…ごめんね―

目を開けると、真っ白な天井だった。
僕は目を開けた。ということは生きているらしい。

「お、起きたな」

横からひょっこり僕の視界に現れたのは、

『あ、すか…』
「おはよう、時雨

そう言って、にこっと笑う飛鳥。
「助かったのか」とでも言いたげな顔をした僕に飛鳥は説明してくれた。
いわゆる、トッキューという人たちが僕を救出してくれたという。
ちなみにここは稲妻総合病院の一室。

『よかった、これで約束守れるよ…』
「約束?」

安堵の息と共に吐き出した僕の言葉に飛鳥は首を傾げた。
僕は約束のペンダントを握り締める。

『うん、修也とサッカーするって…』

そう言うと、飛鳥は「あーあ」と溜め息を吐きながら言った。

「豪炎寺との約束か。いいなぁ、豪炎寺は」
『何が?』
「だって、時雨の特別だろ?」

僕は身体を抱き起こして、飛鳥と目を合わせた。

『…そ、かな。修也は確かに特別、だけど』
「だけど?」
『飛鳥だって、特別だよ。僕の親友だもん』
「…親友」

目を見開く飛鳥。僕が「違うの?」と聞くと、嬉しそうに笑った。

「違わない」

(そうだ、俺はこいつの一番の友達だったんだ)

飛鳥が僕の頭をわしゃわしゃと掻いた。
竜吾みたいに力が強くないから、心地いい。

「なぁ、一緒にキャラバンに来ないのか?」

不意に飛鳥の声音が変わる。
飛鳥はきっと、僕が一人でいるとまた同じことを繰り返すと思ったんだろう。

『…どう、かな』
時雨、まだ何か隠してるのか?」
『そうじゃないよ、僕で役に立つのかなって…』
「そんなに自分を弱いと思うなよ!!
 お前は真・帝国に立ち向かう、強い心を持ってるだろ」

その時、色んな記憶がフラッシュバックで蘇る。

(信じる心が人を強くするの)
(影はいつも誰かを守る守護神のようだ)
(お前達は私の手がけた最高の作品だ)

(約束するよ、時雨)

僕はもう…サッカーで戦うべきなのかもしれない。

「…怒鳴って悪い、大丈夫か?」

心配そうに僕の顔を覗き込む飛鳥。
ごめんね、いつも心配かけてたよね…

『ううん、大丈夫。キャラバンの方は次の出発まで考えておくから』
「わかった、もう無茶するなよ。
 お前がいなくなるって思ったら、怖くてしょうがないからさ」

飛鳥は僕に一哉を重ねているんだ。
目の前で失った悲しみを、飛鳥は知っている。
最後はいつもの笑顔で、飛鳥は僕の病室を後にした。

それから、少し眠った。
その夜、月の光が明るくて眠れなかった。
コンコンとドアをノックする音。

時雨、起きてねーか?」
『…竜吾?』

ゆっくりと扉が開く。僕の目に映ったのは、松葉杖姿の竜吾。
慌てて、ベッドを降りて竜吾に駆け寄る。

『やっぱり、真・帝国の時の…』
「あぁ、やっぱダメだった」
『…あの後、ワイバーンブリザードやったんだね』
「あぁ…」

竜吾は悔しそうに言う。
この先、彼は足を治さない限りキャラバンに戻れない。

『っ、…竜吾、まで…』

彼の前に泣き崩れる僕。
松葉杖でしゃがめない竜吾は僕を見ていた。
一番悔しくて、無念なのは竜吾の方なのに…僕が泣いちゃダメなんだ。

「俺の代わりに泣いてくれる奴、今までいなかったな…」
『…りゅ、ご…』
「なぁ、お前は決勝の時も俺の代わりにシュート決めてくれた。
 いつだって、お前は俺が倒れた時に立ち上がってくれる頼もしい奴だ」
『ぅ、…りゅ、う…ご……』
「だから、俺の代わりにキャラバンに戻ってくれよ」

妙に竜吾も涙声で顔を上げなくても、泣いてるのがわかった。
床には僕の涙に混じって、もっと高い位置から涙が落ちていた。

『行く、行くよ…竜吾の分も、修也の分も…仁や真一たちの分も戦う』
「やっぱお前はカッケーよ」
『竜吾には、敵わないってば…』

その晩は気が済むまで二人で泣いた。
僕達二人を、月が明るく照らしていた。
随分と体調はよくなり、身体も軽くなった。
僕は一度、世宇子スタジアムを訪れる。
テルが優しく出迎えてくれた。

「大丈夫だったかい?」
『うん、心配かけたね…』
「心配はした。だけど、信じていたよ」

ふふっと、優しく微笑むテル。

『あのね、僕みんなと行くことにした』

こくりと頷いて、テルは僕の手を取り握った。
温かくて優しい人の温もり。

「君が決めたのなら、それが一番いいと思う」
『…テル』
「人数的にも戦力的にも、雷門には何か欠けているものがあるからね」
『確かに、そうかもしれない』

テルはすごく優しい。テルだけじゃない、世宇子のみんなも。
「それから」と言って、テルは僕にUSBメモリーを手に握らせた。

「君の忘れ物だろう?」

きっと、それが何なのかはわからないんだろう。
ただ、僕のものであることはわかっていた。

『ありがとう、探してたんだ』
「そうか、もう失くしてはいけないよ」

笑顔で返事をして、僕は身を翻す。
出口で振り返って大声で叫んだ。

『みんな、いってきますっ!!』

僕はみんなと世宇子で身につけた必殺技でスタジアムから飛び降りた。
お陰で衝突することなく、地に降り立った。

「お前、今の凄いな」
『鬼瓦さん』

あらかじめ呼び出していた鬼瓦さんはフロンティアスタジアムに来ていた。
入り口の壁に寄りかかって、僕を見る。

「で、具合はいいのか?」
『随分よくなったよ、みんなと一緒に行くつもり』

そう言うと嬉しそうに目を細めた鬼瓦さん。

「それより、お前…あの日豪炎寺と一緒に病院にいたんだろ?」

あの日、というのは恐らくエイリア学園が修也を誘いに来た日。
僕は伏せ目がちにこくりと頷いた。
鬼瓦さんは僕の頭をぽん、と叩いた。

「豪炎寺のことは、お前の兄貴に任せてある」
『…え』

兄貴って…、僕にはあまり記憶がない。
誰だっけ、兄貴って…誰、だっけ。

「水無月梅雨、お前さんの父親違いの息子で俺の部下になる」
『つ、ゆ…』

梅雨、その名を聞いて思い出した。
一回りくらい、歳の離れた僕の兄で水無月財閥の一人息子だったっけ。

「あぁ、今は梅雨に預けてある。だから、お前は安心して、サッカーをやれ」
『鬼瓦さん…』

そうか、あの日一緒にいた僕も父さんの一件とは別にエイリアには狙われる可能性があった。
鬼瓦さんはそれを考えていてくれたんだ。

『ありがとう、鬼瓦さん。兄さんにも言っといて』
「わかった、伝えておく」
『それから…これも』

そう言って、さっきテルから返してもらったものを渡した。

『パソコンのウイルスバスターと、どんなロックも解除できるコンピューターウイルス。
 父さんのコンピューターから作ったから効果はあると思うよ』
「…末恐ろしいガキだな」
『影山の息子だもん』

そう言って笑うと、鬼瓦さんは切なそうな目をした。
僕は「大丈夫だから、修也をお願い」と言い残して走り去る。
あんな、切なそうな瞳を見ていられる自信はないから。

でも、修也は無事だ。
本当によかった。
僕は久しぶりに雷門のジャージを着て、鞄を背負う。
新しい写真立てに母さんの遺影を入れて、リビングの机に置いた。

『行って来ます、母さん』

写真立てにそれだけ残して、家を飛び出す。
未だ、壊れたままの学校の校門にイナズマキャラバンが停車している。
外に立っていた、瞳子監督と守が気が付いてくれた。

時雨、お前…その格好」

守が吃驚しながらも、嬉しそうな顔をする。
僕は守にこくりと頷いて言った。

『僕も一緒に行くよ』
「サンキュ、時雨!!」

守が僕の手を取って、嬉しそうに言った。
瞳子監督が僕と守に歩み寄る。
何を考えているのかわからない表情。
そう思ったら、ふっと一瞬優しく笑って僕に手を差し出した。

「歓迎するわ、影山時雨君」

僕は監督の手を取り、握手する。
なんだか強い意志と使命を感じる人だと思った。

『ありがとうございます、瞳子監督』

僕が言うと、あの力強い声が聞こえた。

時雨、頼むぜ」
『うん、行って来るね…竜吾』
「おう」

昨日あれほどに泣いたとは思えない竜吾。
不安がらせないようにするその男気はやっぱりかっこいいよ。

キャラバンに乗り込むと、みんなの元気な声が聞こえた。
あぁ、戻って来た。雷門の雰囲気だ。
僕を加えてくれたイナズマキャラバンは次の場所…
大阪・ナニワランドに向かって発進した。


***

時雨の母親の墓に行った俺は、ある人と共に行動を取っていた。
全く似てないのに、どこか似ている。
兄弟とは不思議なものだと思った。
今、俺は沖縄に来ている。

「…梅雨さん」

そう、俺が梅雨さんと呼ぶその人は俺の大切に想う時雨の兄だった。

「俺、あいつに兄が居るなんて知りませんでした」
『…ほとんど一緒にいたことないから、忘れてんのかもな』
「そう、ですか…」

少し寂しそうに笑う梅雨さん。
もし、俺が夕香に忘れられたら…そう思うと寂しくなった。

「でも…本当にありがとうございます」

この人がいなければ、俺はここにいない。
鬼瓦さんから紹介された、この梅雨さんは俺を連れて沖縄に来た。
土方の家に転がり込んで、匿ってくれている。
それだけじゃなく、俺の特訓にも付き合ってくれている。

『いいんだよ、修也。俺も知りたかった。
 あいつの大事な人がどんな奴か、今のあいつがどんな奴か…さ』

笑顔がどこか幼く可愛く見えるのは、あいつに似ていた。
この人も同じなんだ、兄弟の為に何かしたかった…俺と同じだったんだ。

時雨、夕香…俺は必ず戻る。
信じて、待っていてくれ。

俺はペンダントを握り締め、祈るように誓った。
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