FF編

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豪炎寺連載
男主/影山の息子
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あだ名(世界編~)

この章の夢小説設定
影山の息子

決勝当日、僕らは電車で帝国に向かった。
夏未ちゃんは電車が嫌みたいで自家用車で向かっていたみたい。
帝国に着いてからは響木監督はわざとらしい警戒をしていた。
みんなの緊張を解しているのか、素なのかは怪しい所だ。

『監督、あの人はそんな地味な嫌がらせはしませんよ』
「そうは言うが、お前な」
『心配なら僕が先頭を歩きますよ』

そう言って、当然のように歩き出す。
修也は何気なく歩幅を合わせて、並んで歩いてくれた。
恐らく、いつ倒れるかわからない僕のことを心配してくれているんだろうと思う。

ロッカールームに着くと、中から鬼道が現れた。
既に見回りをしてくれているんだと、僕は悟った。
でも、みんなは警戒心を剥き出しにしていた。

染岡の怒りに鬼道は素直に謝罪の意を述べた。
去り際、一瞬だけ修也と睨み合ったような気がする。
そのまま、鬼道はスタジアムの方に去って行った。
その後、僕自身も見回りに向かった。
みんなはロッカールームを執拗に調べていたけど、放っておくことにした。
響木監督もどこかへ行ってしまった。
もしかしたら、父さんに宣戦布告をしに行ったのかもしれない。

父さんの妨害が直接的なものだけとは限らない。
みんなに個人行動を取るなと言いそびれてしまった…
大丈夫だろうか。
これで円堂や修也に何かあったら雷門は戦えない。

心配なのはそれだけじゃない。
鬼道と春奈の兄妹関係も崩れてしまっているかもしれない。
それは鬼道自身の問題だから、僕には何も成す術はない。

この決勝戦には色んなものが渦巻いている。

結局、何も見つけられずスタジアムに戻る。
ちょうど、宍戸目掛けてボルトが落ちてきた。
…まさか、天井に罠が?
そう思って、スタジアムを見渡すと鬼道も不審そうに上を見ていた。

スタジアムに入場する前、両チームが一列に並ぶ。
その時、鬼道はまだ気付いていないのか唇を噛み締めていた。

『…鬼道』

小声で言って、小さなメモをこっそり渡した。
僕はメモに「天に唾を吐けば、自分にかかる」と書いた。
鬼道なら、それで気付いてくれると信じて。

試合前、両者が握手をする。
鬼道は気付いてくれたのか、円堂に耳打ちをしていた。
ポジションに着く前に、修也に肩を叩かれた。

『…修也?』
「これはお前と、帝国の問題だ。俺が口を挟んでいいとは思わない」
『…』
「だが、俺がついてる。お前はお前のやりたいようにやれ…時雨
『…ありがとう、修也』

そう言うと、修也はまた優しく頭を撫でてくれた。
これが僕に勇気をくれる。
大丈夫、僕は雷門の影山時雨だ。

試合開始のホイッスル。
それと共に上から無数の鉄骨が落下し、スタジアムに突き刺さった。
しかし、父さんの行いも虚しく雷門は全員無事だった。
鬼道から円堂へ、そしてみんなへこのことは伝達されていたからだ。
僕と鬼道は有無も言わずに、父さんのところへ急いだ。

「総帥、これが貴方のやり方ですか!?」

黙っている父さんに鬼道は言い放つ。
僕も黙っていることが実に腹立たしい。

『父さん、父さんは間違ってる!!』

つかつかと父さんのもとに向かう僕ら二人を追って、円堂たちが来た。
そう、鬼道は父さんに僕のメモと同じことを言われていた。

「私が細工したという証拠でもあるのかね?」

しらじらしくそう言って、笑う父さんに刑事さんの声とボルトが降ってきた。
僕らは父さんを睨みつけていた。
刑事さんたちによって暴かれた細工。
そして、鬼道の決意。

「俺はもう貴方の指示では戦いません」

その言葉に源田と寺門も賛同した。
これでいいんだ、もう…父さんの「勝利」だけを求めるサッカーはいらない。

鬼瓦刑事によって、連行される父さん。
出て行く間際の父さんに僕は駆け寄った。

『父さん!!!!』
「…忘れるなよ、時雨

父さんは振り向いて、僕の目線に合わせてかがんだ。
久しぶりに見た父さんの顔。
サングラス越しからでもわかる悪意と勝利への執念はちっとも変わっていなかった。

にやりと笑った父さん。

『…?』

何を考えているのかわからず、油断していたその時だった。
父さんが僕の首筋に噛み付いた。

『…っ!!?』
「「「!?」」」
「貴様、自分の子供に!?」

刑事さんも予想していなかっただろう。
間近に顔を寄せ、笑う父さん。

「忘れるな、お前にも…この私と同じ血が流れていることを。
 そして、いつか現れる本当の自分のことを…決して忘れるなよ」
『……?』

そう言い残して、父さんは刑事さんに連行された。
噛まれた首筋にはくっきりと歯型が残ってしまった。
血がにじみ、痛いはずなのに…
最後の最後に植えつけられた恐怖のせいか、全く痛みを感じなかった。
父さん…本当に最後まで僕に恐怖と逃れられないことを思い知らされた。

他人と接することなく、育てられた僕。
サッカーも強制的にやらされていた、はずだった。
あの日、有人に出会うまでは…
初めて会った日、誰かとサッカーをすることがこんなに楽しいと知った。
有人のお陰で、感情や常識的な知識、色んなことを知った。

でも、有人も父さんに魅せられてしまった。
偽りの勝利であることを知らないから…
僕がどんどん父さんのサッカーで壊れていくのを一番間近で見ていた。

今思えば、僕と有人は幼馴染だった。

それから、僕の前に土門飛鳥が現れた。
何故か、辛い時には飛鳥が黙って傍にいてくれた。
雷門に来てから気が付いた。
それが、飛鳥なりの優しさだったことに。
逆に言えば、僕は他人の優しさにさえ気が付かない人間だったんだ。

雷門に来てから、僕は変わった。

“女帝”ではない、本来の僕。
雷門の一員である僕には仲間ができた。
そう、いつも傍にいてくれる…仲間。
それから、それから…修也。

時雨!!」



僕が目を開けると、心配そうな修也の顔があった。
…父さんに噛まれた後に倒れたのか。

「よかった…」

そう言って、修也に抱きしめられる。
あぁ、そうだ…この安心感。
身体に力が入らない僕は修也に身を預けた。
瞼が重い、相当父さんの恐怖は僕を縛り付けるらしい。
横から、秋ちゃんがひょっこり顔を出す。

「噛まれたところ、消毒して絆創膏貼っておいたから」
『あ、き…ちゃ』
「まだ無理しないで」
「あぁ…ここまで鬼道が背負ってきてくれたんだぞ」

にっと笑った円堂がそう言った。
そっか、だから…有人の記憶が甦ったんだ。
ちらりと円堂の横を見れば、監督が立っていた。

『…監、督』
「お前の言いたいことはわかってる」
『はい…』
「試合再開まで少し時間がある、調子を整えろ」

監督の言葉に驚いた。
今日はもう、ベンチだと思ってた。
すごく嬉しくて、涙が出た。

『ありがとう、ございます…』
「それは試合に勝ってから言え」

零れた涙は珍しく夏未ちゃんが拭ってくれた。
少し修也がむすっとしたのが可笑しくて、笑ったら拗ねた。
なんだか、可愛いなって思ったのは修也の心音が聞こえてたからかもしれない。
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