とぼける父親の右腕と不器用な父親
「(融通が効かないところはカイドウさんにそっくりだ)」
「あっ」
「?」
「だからこの前まっずいご飯を届けたのか!?」
「・・は?」
「ぼくがおでんだから、わざとまずいご飯を作らせてぼくに届けたんだろ!」
「・・・・・・」
ヤマトのその言葉にキングはこれまで届けたご飯を思い出す。
「(俺がヤマトお嬢にメシを届けるのを知った部下がわざと作ったのか?それとも俺に不味いメシを食わせようと・・?どちらにせよ許さん。)
俺が届けたわけではないのでわからないが、どんなご飯だった?」
「まっ黒にこげておさけの味がして、ピーナッツバターがぬったやき魚!」
「Σ―――!!!」
「カイドウさん、ソレ、なんだ?」
「ん?今日のメシだ」
「メシって・・・お酒に浸けた魚が真っ黒に焦げてるんだけど・・・」
「なんだキング、お前酒が苦手か?じゃあこのピーナッツバターを塗ってやる。ほれ食え」
「ぇぇ・・・・・・ΣΣぶっっ!!」
まだカイドウと2人だけの海賊だった頃、珍しくカイドウがご飯を作ってくれた事があったが、あまりの見た目と不味さが衝撃的で、キングはすぐに思い出し、そして誰が届けたのかもすぐにわかった。
「(アレは確かに不味かった・・・なのにカイドウさんはおいしそうに食ってたな・・・・・だがアレを自分の子供に食わすなよ。というかあんたもメシあげてるじゃねぇかっ!)」
「キング?」
「! あ、あぁ・・・それは、災難だったな・・・」
「しらじらしい。ぼくがねてる間に落としたくせに」
「(そういえばこの前の満月の夜、屋敷の外に出てすぐに戻って来た事があったな・・・アレはあの(クソマズ)メシをヤマトお嬢に届ける為だったんだな。
だけどカイドウさん、それは間違いだ!)」
「とにかく!あんなまっずいご飯なんかじゃぼくは折れないんだから!!じゃあね!」
ヤマトは空になった包みと折り畳んだ風呂敷を地面に置いてその場から去っていった。
カイドウが作った(不味い)焼き魚をキングが部下にわざと作らせて届けたという誤解をしたまま。
キングは追いかけて誤解を解くべきか悩んだが、やめた。
空になった2つの包みと風呂敷と持って屋敷に戻れば出掛けていた(自殺巡りをしていた)カイドウが戻っていた。
「キング、どこに行ってた?」
「・・・外でご飯を食べていました」
「またか」
「えぇ。そしたら
「ほぅ?どんな話だ?」
「なんでも酒の味がした上にピーナッツバターが塗られた焦げた魚が寝てる間に落ちてたらしいと」
「ぶーーー!!」
酒を呑みながらキングの話を聞いたカイドウが酒を吹き出した。
予測していたのかキングはさっと避け、咽るカイドウに追求する。
「昔、あんたが作ってましたよね?」
「・・・・・・」
「それを作ってヤマトお嬢に届けた。違うか?」
「・・・・・・知らねぇよ。ただ」
「ただ?」
「久しぶりに食べたくなって作って、気分がいいから外で食べようと出たが、
キングに目を合わせずカイドウがそう応えた。
「・・・そうか。
「・・・そういう事になるな。あーー俺とした事がドジった」
カイドウは額に手を当ててやってしまったとばかりに首を振った。後半棒読みだが。
「・・・・・まぁ、そういう事にしときましょう」
「だからそうだって言ってんだろ!!」
「だけどカイドウさん。どうせなら食べられるものを持って外に出た方がいい」
「おいキングそれはどういう意味だ!?俺の作ったものが食べられないゲテモノだと言いたいのか!?」
「さぁ?それはどうでしょう?」
怒るカイドウをほっといてキングはその場から立ち去っていく。
「(結局のところ、俺もあんたもヤマトお嬢に甘いな・・・)」
マスクの下で、キングは小さな苦笑を浮かべた。
後日、「うまいだろ!」と同意を求めるようにカイドウがあの焼き魚(と言う名のメシマズ)をクイーンや部下達に振る舞った。
カイドウにとっては美味であってもクイーン達は「(コレなんの拷問!?!?!?)」と泣きながら食べた。
そしてキングは・・・逃げた。
終わり