何度でも撫でるよ
この役目を誰かに譲る気はない。
✭何度でも撫でるよ✭
いつものように父上に洗濯物を届けに忍術学園に来るが、職員室に入れば父上の姿はなく、机に肘をついて頭を抱えてる土井先生の姿が目に入る。
挨拶をすれば顔を上げて返してくれたが、目の下に隈ができていて元気が無い。
体調でも悪いのか?
私は土井先生に近付いて座り、話しかける。
「土井先生、元気が無いようですが・・・」
「・・・利吉君、聞いてくれるかい?」
「私でよければ」
「実は・・・」
「実は?」
「夢の中で・・・練り物に潰される夢を見たんだ」
―ガクッ
思わずずっこけてしまった。
「そ、それは災難、でしたね・・・。けど夢ですよね?」
「夢だけどっ!私にとっては最悪だよ!!悪夢だよ!!」
何とか声をかけるも土井先生にとってはこたえてる様子。
「練り物に潰された時思わず飛び起きたよ。けどまたあんな悪夢を見るんじゃないかと思うと眠れなくて・・・おかげで寝不足だよ」
ハァ~、と溜め息を吐いて項垂れる土井先生。
思わず可愛いと思ってしまう。
・・・そうだ。
「土井先生、少し横になられてはいかがですか?」
「利吉君・・・でもまた・・」
「大丈夫です。私がそばにいますから」
「う〜ん・・・」
土井先生は少し迷われたが、やはり眠いのだろうノッてくれた。
私は急いで布団を敷き土井先生に声を掛ける。
「土井先生、さあどうぞ」
「利吉君、なんか楽しんでない?」
「そんな事ありませんよ。さあ」
土井先生は忍び装束のまま布団に入られ、目を瞑られ、少ししたら寝息が聞こえてきた。
気を許してくれてると思ったら嬉しい。
私はそっと土井先生の頭を優しく撫でる。
こうしてると思い出す。まだ土井先生が氷ノ山にいた時の事を・・・
*****
その日の夜は冷え、思わず目を覚ました私は厠へと布団を出た。
そして部屋に戻る途中、微かに聞こえるうめき声に足を止め、お兄ちゃんが寝ている部屋の戸をそっと開けた。
「やめ・・・殺さ、な、ぃで・・・ち・・うえ・・・はは、ぅ・・・誰か・・・」
目に映ったのは苦しそうに眉間に皺を寄せて目をギュッと瞑り、額にはにじみ汗が浮かび、布団を強く握るお兄ちゃんの姿が。
今まで見たことのないお兄ちゃんに驚き、部屋に入る。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
声を掛けるが起きる気配も無く、どうしようとオロオロしてしまう。
自分ではどうすることもできないのかと涙が出てきた。
ふと、以前怖い夢を見た時母上に頭を撫でてもらい寝付けさせてくれたことを思い出した。
私は母上がしてくれたようにお兄ちゃんの頭を撫でた。
ただひたすらに、祈るように。
「大丈夫。大丈夫ですよ。・・・お兄ちゃんっ」
こんなことしかできないけど、これしかできない。
泣きそうになるのをぐっと堪えながら撫で続けていたら、お兄ちゃんの表情がだんだんと和らいでいることに気付いた。
よかったと、安堵したら急に眠くなり、そのままお兄ちゃんの布団で一緒に寝た。
*****
それから暫く、理由をつけては土井先生と一緒に寝るようにしてたっけ?
またこの人がうなされる事があったらすぐに頭を撫でれるように、と。
そんな思い出を思い出していたらいつの間にか自分の口元が上がっている事に気付く。
そして土井先生を見れば穏やかな寝息を立てている。
今度は練り物の夢ではないようですね。
「頭を撫でる事 で貴方から悪夢を払う事が出来るなら、私は何度でも貴方の頭を撫でます。
貴方に悪夢は似合わない。
良い夢を、お兄ちゃん」
他の人が見たら驚くであろう、私は優しい笑みをお兄ちゃんに向けた。
終わり
おまけ→
✭何度でも撫でるよ✭
いつものように父上に洗濯物を届けに忍術学園に来るが、職員室に入れば父上の姿はなく、机に肘をついて頭を抱えてる土井先生の姿が目に入る。
挨拶をすれば顔を上げて返してくれたが、目の下に隈ができていて元気が無い。
体調でも悪いのか?
私は土井先生に近付いて座り、話しかける。
「土井先生、元気が無いようですが・・・」
「・・・利吉君、聞いてくれるかい?」
「私でよければ」
「実は・・・」
「実は?」
「夢の中で・・・練り物に潰される夢を見たんだ」
―ガクッ
思わずずっこけてしまった。
「そ、それは災難、でしたね・・・。けど夢ですよね?」
「夢だけどっ!私にとっては最悪だよ!!悪夢だよ!!」
何とか声をかけるも土井先生にとってはこたえてる様子。
「練り物に潰された時思わず飛び起きたよ。けどまたあんな悪夢を見るんじゃないかと思うと眠れなくて・・・おかげで寝不足だよ」
ハァ~、と溜め息を吐いて項垂れる土井先生。
思わず可愛いと思ってしまう。
・・・そうだ。
「土井先生、少し横になられてはいかがですか?」
「利吉君・・・でもまた・・」
「大丈夫です。私がそばにいますから」
「う〜ん・・・」
土井先生は少し迷われたが、やはり眠いのだろうノッてくれた。
私は急いで布団を敷き土井先生に声を掛ける。
「土井先生、さあどうぞ」
「利吉君、なんか楽しんでない?」
「そんな事ありませんよ。さあ」
土井先生は忍び装束のまま布団に入られ、目を瞑られ、少ししたら寝息が聞こえてきた。
気を許してくれてると思ったら嬉しい。
私はそっと土井先生の頭を優しく撫でる。
こうしてると思い出す。まだ土井先生が氷ノ山にいた時の事を・・・
*****
その日の夜は冷え、思わず目を覚ました私は厠へと布団を出た。
そして部屋に戻る途中、微かに聞こえるうめき声に足を止め、お兄ちゃんが寝ている部屋の戸をそっと開けた。
「やめ・・・殺さ、な、ぃで・・・ち・・うえ・・・はは、ぅ・・・誰か・・・」
目に映ったのは苦しそうに眉間に皺を寄せて目をギュッと瞑り、額にはにじみ汗が浮かび、布団を強く握るお兄ちゃんの姿が。
今まで見たことのないお兄ちゃんに驚き、部屋に入る。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
声を掛けるが起きる気配も無く、どうしようとオロオロしてしまう。
自分ではどうすることもできないのかと涙が出てきた。
ふと、以前怖い夢を見た時母上に頭を撫でてもらい寝付けさせてくれたことを思い出した。
私は母上がしてくれたようにお兄ちゃんの頭を撫でた。
ただひたすらに、祈るように。
「大丈夫。大丈夫ですよ。・・・お兄ちゃんっ」
こんなことしかできないけど、これしかできない。
泣きそうになるのをぐっと堪えながら撫で続けていたら、お兄ちゃんの表情がだんだんと和らいでいることに気付いた。
よかったと、安堵したら急に眠くなり、そのままお兄ちゃんの布団で一緒に寝た。
*****
それから暫く、理由をつけては土井先生と一緒に寝るようにしてたっけ?
またこの人がうなされる事があったらすぐに頭を撫でれるように、と。
そんな思い出を思い出していたらいつの間にか自分の口元が上がっている事に気付く。
そして土井先生を見れば穏やかな寝息を立てている。
今度は練り物の夢ではないようですね。
「
貴方に悪夢は似合わない。
良い夢を、お兄ちゃん」
他の人が見たら驚くであろう、私は優しい笑みをお兄ちゃんに向けた。
終わり
おまけ→