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逆転SS

いつものように忙しく終わらない雑務をこなしていた、とある日のこと。

『…あれ。夕神検事?』
「………」
『寝てる…』

ソファに座って腕を組んでいたものだから、てっきり何か真剣に考え事をしているものだと思ったけれども。
しばらくして、それにしてはやけに静かだなぁと何気なく覗き込んだら…。うつむいているその目が固く閉じていたのに気が付いたのは、つい先程のこと。

『もしもーし、夕神さーん…?』
「………」
『…迅、さん…?』

いつもは視線で射殺せそうな威圧感で、近寄りがたい雰囲気を醸し出してるけれど。今は無防備な姿のせいなのか、少しあどけなくも見える。
大胆に名前呼びしても一向に反応がないものだから。これは滅多にない機会だと思い、起こさないようそっと隣に腰かけてみた。
ただの同じ職場の人間では許されないであろう、この距離感に。一度だけでいいから近付いてみたかったのだ。

『隈…良くなるといいな』

下から覗き込んだその顔には、色濃く隈が刻まれている。
彼の体験した事件と、それから過ごした時間は。私の力ではきっと何の役にも立てないとうちひしがれる程、あまりにも壮絶で。
眠れない日はまだ続いているのだろうか。せめて彼の負担が少しでも軽くなって、穏やかに休めるよう、祈るばかりだ。

『こんなに近付いたら、夕神さんだったら気配で起きそうなのに』

何だか侍みたいだ、と思ったら笑ってしまった。
今だにうつむいている彼の髪が、さらりと一房流れたのが目に入った。
遠目からだとふわふわしてるように見えるけど。どんなさわり心地なんだろう。

『(ふれたい)』

そう思ったら、止められなくて。まるで吸い寄せられるみたいに、その豊かな髪に触れた瞬間だった。

「寝込みを襲うとは悪い奴だなァ?」
『え…っ、きゃぁっ!?』

彼の髪に添えた手が、ガッと勢い良く捕まれたと思ったと認識した時には。
視界が回って、気が付いたら天井を見上げていて。上からのし掛かる圧迫感があった。
そしてようやく押し倒されたのだと思い至ったのだった。

『夕神検事、いつから起きて…!?』
「寝てるとは言ってねェ」
『何ですかその屁理屈みたいな言い訳!?っていうか、退いて下さいー…っ』

押し退けようとしても、体格差がありすぎてびくともしない。
それどころか、もがく程に私を押さえつけていた腕が自分の体に絡み付いて引き寄せられる。
そしてその形の良い手のひらが、私の髪を撫でるようにするりと入ってくるものだから。驚いて身を固くすると、あっという間にがっちりと頭を固定された。

『夕神さん、ちょっと、おいたが過ぎますよ…!』
「なンだ…もう名前で呼んじゃくれねェのか…?」
『ひゃぁ…っ!?』

彼の顔が首もとにうずめられて、耳元で掠れた声がダイレクトに届いたせいで気の抜けた声を上げてしまった。吐息すらも聞き取れる程に近くて、背中にぞくりとした感覚が止まらない。
思わず顔を背けようとしても、逃がさないとばかりに頭の後ろにある手に力が入った気配がした。

『なっ、な、な…ちょっ、タイムです…!』
「誰が逃がすかよ」
『誰も逃げるだなんて言ってな…!』
「速攻で離れようとした奴がよく言う」
『そもそも何で寝たふりなんか…!』
「##NAME2##」
『へ…っ』
「もう、」

黙りな、と。馴染みのある台詞が聞こえた時には、彼の伏せ目がちな顔が目の前にあって。
あ、と予感した時にはもう。噛みつかれるように唇が重ねられた。
こちらが驚いているのなんかお構い無しに、舌を絡み付けて、吸われて。口内をかき回されて。何もかも、呼吸すら奪われるのかと、思った。

『んん…っ、は…っ』
「…ったく、こっちの気も知らねェで」
『え…?何、です…それ』
「次無防備に俺に触れてきたら…お前さんの全部、食らいつくすぞ」
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