涙色の空
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*
アリス学園本部。
学園の中枢機関。中には機密事項を取り扱っている場所もある為、原則的に一般生徒は立ち入りに許可が必要である。
時間軸は少し遡り、日向棗が任務へ駆り出される前。尚且つ、初等部に転入生の
桐ケ谷桜が来て、間もなくのこと。
そんな学園本部入り口に、一つの小さな影。
『それじゃぁ、お邪魔しまーす』
緊張感の欠片も感じられない伸びたその声は、誰に許可を取ったわけでもなく歩みを進めていく。
つまり、非常に一方的なものであった。
*
教師は生徒と関わる仕事であるにも関わらず、その大半は書類と向き合う時間が殆どである。
それに役職がつけば尚更のこと。
野望はあれど、それはこなさなければならない。秩序のない学園を手にしても、意味はないのだから。
自分の背丈以上はあるであろう、膨大な書類を処理するのが日常だった。
けれど今日は、その日常と一つ違う事があった。
「...今日はやけに、本部が賑やかですね」
それは走らせていたペンが止まり、思考をそちらに奪われてしまう程に。
部屋の外に耳を傾けてみれば、明らかにいつもよりも騒々しく走り回る複数の足音。
何かあったのだろうか?
そこまで考えが至った頃、部屋をノックする音が伝わる。
そして否応なしに、扉は開かれた。
『失礼しまーす』
「...貴方は?」
『あ、初めまして。先日初等部に転入した桐ケ谷桜です』
突如現れたその生徒は、まるで鈴を転がすかのように愛らしい声。そしてお辞儀を一つすれば、花が戯れているかのように錯覚する華やかな仕草。
非常に可愛らしい生徒だと思った。...ただ一つ。今この場所にいる事を除いては。
今日この場に誰かを通す予定などない。万が一急きょ変更で、それがあったとしてもである。
傍らにはSPがいる筈だ。
過去の...たかが一生徒にアリスを体内に埋め込まれた、あの忌々しい出来事から。
護衛は更に徹底するよう手筈を踏んだ筈なのに。
『久園寺初校長。その名の通り、初等部トップである人。そして危険能力系を管理する、裏ボス的な存在...で、合ってますよね?』
「先日転入してきたと言う割には、随分詳しいですね」
『ということは、合ってるんですね。良かったーっ。今日はそんな初校長にお願いがあってここまで来たんですよ』
「お願い?」
『本当は危力系を実質的に管理している、ペルソナ辺りに言えれば良かったんですけど。
何ぶん、何処に行けば会えるのか分からなかったのでー』
にこやかな表情を崩さず、要件を持ち掛ける彼女。
それは最早お願いではない。命令だ。
その笑顔から滲み出ている、拒絶や妥協を一切受け入れようとしない威圧感。
そして今だにSPが駆け付けて来ない原因は、明らかに目の前にいる少女のせいだろう。
こんな子供一人、精鋭部隊ならば門前払いで摘まみ出すことなどたやすい筈なのに。
それでもこの場所に居るということは...。相当な手練れだと伺える。
『私を危力系に在籍させて下さい』
「...そうですね。では、一つ訪ねてもいいですか?」
『はい』
「何故、危力系に?」
『だって日向棗君がそこにいるんでしょう?理由はそれ一つで十分。本当は任務をぜーんぶ一緒にやりたい所だけど...。
まぁそこは、ペルソナと要交渉という事で』
「......」
訪ねる選択肢を間違えたのだろうか。謎が謎を呼ぶ結果に終わった。
何故そこで日向棗の名前が出てくる。以前に面識があったとすれば、不自然では無いのかもしれないが...。
それでも転入してきたばかりの立場では、説明しきれない部分が多々ある。
何かと外敵が多いこの学園。結界のアリスは元より、あらゆる手段を駆使して情報が外部に漏れないよう努めているにも関わらず。
彼女は、学園を知りすぎているのだ。
表情の裏に潜めている敵意は、尚こちらに向けられている。
それは年相応の生徒らしからぬもの。...外部からの刺客なのだろうか?
「桐ケ谷桜でしたか。貴方は一体...」
『嫌ですよぉ、初校長。尋ねるのは一つなんでしょう?そこはご自分で調べ上げて下さい」
「......」
『それで?私のお願いは、許可していただけるんでしょうか』
「...いいでしょう。手筈が決まり次第、ペルソナを向かわせます」
『ふふ。そう言って下さると思いました。それじゃぁ、要件はそれだけなので。お仕事中失礼しましたー』
いずれにせよ、この統制下に入るのだ。正体が何であろうと、どうとでも御せる。
こちらとしては、手駒が増えて喜ばしい事だ。例え使い物にならなくなったとしても、彼女は外部からの差し向けかもしれない。失ってもこちらに損害は全くない。
全ては己の野望を叶える為に、精々働くがいい。
再び静寂が訪れた部屋で、彼は一人ほくそ笑んでいた。