涙色の空
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『...セントラルに本当に闇市があったとしても、子供にそんな物の売るわけないでしょ』
「は...っ、は...っ」
『頭冷えた?』
無機質なコンクリートに舞ったのは血ではなく、何故か花びらだった。
よく見ると、銃口からは小さな花束になる程の花が咲いていた。
どうやら拳銃は偽物だったらしい。けれど桐ケ谷の口車に乗せられた女子達は、今だに顔面蒼白状態だ。
『じゃぁ冷静になった頭でよく聞いて欲しいんだけど。非常に気に食わないんだよ。あなた達のやり方』
「......」
『仮にこれが教師にバレたらどうするつもりだったの?』
「...ぷっ」
『何がおかしいの?』
「勝手にチクればって感じだし」
「ここの大人なんてアテにならない。アンタもこれからこの学園で過ごせば、嫌でも...」
『あぁ...。まぁ確かにそれはそうだけど』
「は?」
『というか、私が言いたい所はそこじゃなくて』
どうにも桐ケ谷は、話の所々で違和感があるような気がする。けれどそれが具体的に何なのかは、ハッキリと分からないけれど。
完璧に出るタイミングを見失った流架は、そんな事を考えながら傍観を決め込んでいた。
『教師にバレた言い訳として精々思い付くのは、日向君が迷惑だと思ったからやりました辺り?』
「何が言いたいのよ...。実際そうだと思ったから、私達は、」
『私が気に食わないのはそこなの!』
「な...っ。何処がいけないって言うのよ!私達は棗君の為に...っ」
『そう、それ!まさしくその物言いが非常に腹立たしいの!彼の真意も図らずに勝手な解釈をして、勝手な行動する独りよがりなやり方が!
挙げ句、責任が負いきれなくなったらそれを全部日向君に押し付けようとした訳?棗君の為にやりましたー、って?冗談でしょ。
トラブルの引き合いに突然彼の名前が出されたら、それこそ日向君にとって迷惑な話だと私は思うけど』
桐ケ谷の言う事は、確かに正論だ。的を射た冷静な意見を言える一面を見て、流架は感心していた。
普段は棗ばかりを追い回しているものだから、てっきりそれしか頭にないのかと思ったのだ。
酷い言い様かもしれないが、桐ケ谷の棗へのこだわりようはそこまで言わせてしまう程のものなのだ。
そんな彼女に言い負かされてしまった女子達は、理屈は分かれどその事実を認めたくないのだろう。
屈辱に顔を歪め、再度怒りをフツフツと募らせていた。
『日向君の事が好きなら、直接話しかけて関わり持てばいい。それだけの事でしょう?その方が、こんな所で私に突っかかるよりも有意義だと思うわ』
「それだけの事って...」
「アンタなんかに、私達の気持ちが分かるもんですか!」
『...は?』
「そうよ!誰でもアンタなんかみたいに、あの棗君に話し掛けられるわけないでしょう!?」
『......』
「私達がどんな思いで棗君の事を...っ」
『...て...言うの...っ』
「何よ」
『あなた達だって、私の気持ちの何が分かるって言うの!?』
「ぐっ、ぅっ!?」
女子達の悲鳴が響く。どうやら桐ヶ谷が飛びかかって、誰か一人を地面に押し倒したようだ。
逆上してつかみかかったその手には力がこもっているせいか、押し倒された女子は苦しそうな呻き声を上げている。
周りは突然の出来事に、パニックに陥って悲鳴を上げているだけ。
これは流石に誰かが間に入らなければ、大変な事になるかもしれない。
そう思った流架は、慌てて飛び出した。
『私がどんな思いでここに、この学園に来たのかも!あなた達のように影から見守るようにして彼を想う時間さえ、私にはっ!』
「桐ケ谷!」
「えっ、うそ、ルカ君...っ?」
「ルカ君がどうしてここに...!?」
「桐ケ谷落ち着けよ!手を離してっ!」
『え?...あ、』
「ぅ...っ、ゴホッ、ゴホッ...」
『私...』
呆然とする桐ケ谷の事はとりあえず後回しにして、押し倒された女子の安否確認をする。
幸い、特に目立った外傷は無いように見えた。
『ごめんなさい。今のは、やり過ぎた...』
「...ッ。アンタ、相当イカれてるわよ...っ」
「もう相手にするだけヤバいって。行こう」
『待って』
まさか第三者が登場すると思っていなかったせいか、居心地悪そうに早々と女子達は退散しようとする。
それを見た桐ケ谷は、話はまだ終わっていないと言わんばかりに呼び止めた。実際そうなのだろうが。
『別に私の事はどう解釈してくれてもいいけど。今回の件、私は誰にも口外するつもりはないから』
「はぁ?何恩着せがましく言ってるんだよ!」
「むしろチクったら立場が危うくなるのは、アンタの方じゃん!人に暴力ふるっておいてさぁ!」
「ってゆーか、マジでチクっちゃおーよ!体罰大好きなじんじん辺りに」
『そしたら芋づる式に、あなた達が日向君云々のくだりも説明する事になるけど』
「...っ!?汚いわよ!」
『だって事実でしょう?お互いにお互いが気に食わないけど、こんな事で日向君に迷惑掛けたくないって思う気持ちは、同じだと思うから』
「......」
『だから私の方からは何も言わない。必要とあれば乃木君の口止めもさせる』
「な...っ!?」
「アンタ、ルカ君にまで...っ!」
『後の事をどうするかは、あなた達に任せる』
まぁここまでくると、流石に言えないと思うけど。
そう付け足して締めくくった桐ケ谷に、またしても女子達は言い負かされてしまったようだ。
覚えていなさいよだとか、ありきたりな捨て台詞を吐いて、女子達は逃げるようにして去っていった。