涙色の空
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桐ケ谷がクラスの女子達に連れて行かれた後、何が起こるのか。興味があったとはいえ、今になって自分の行動は思慮に欠けていたと流架は思った。
ようは後悔していた。
「あんたさぁ、ウザいんだけど」
『はい?何の事やら』
「とぼけてんじゃねーよ!棗君の事に決まってんじゃん!」
「棗君が迷惑がってるの分かんないわけ!?」
『はぁ』
彼女の生返事のせいで、元々不穏な様子だった女子達は益々苛立ちを見せる。
それは、普段クラスで見かける姿からはとても想像出来ない鬼のような形相だった。
何にせよ。
寄ってたかって、たった一人を言い寄るそのやり方といい、女子とは恐ろしい存在だ。
自分は被害被っていないのに、予想以上の出来事に思わず流架が身震いしてしまった。
けれど興味本位でそれを目撃してしまった以上、止めた方がいいだろうか。
あの中へ飛び込んで行くのには、流石に足がすくんでしまう。躊躇っていたら、桐ケ谷があのおー。と、何かを切り出していた。
それは緊張の糸が思わず緩んでしまいそうな、間が延びた声だった。
『一つ聞きたいんだけど』
「はぁ?何だよ」
『迷惑うんぬんの話は、日向君本人が言ってた話?』
「は!?あんたバカなの!?」
「そんなの棗君に聞かなくても見てて分かるし!」
『そっか。つまりこれは、あなた達の勝手な憶測の話なんだね。良かったよー!日向君がそう言ったんじゃなくて!』
うわぁ...。そう呟いた流架の声が、やけに響いてしまった気がした。彼女の反応に呆気にとられ、皆静まり返ってしまったのだ。
けれどそれは一瞬の事。桐ケ谷の態度が気に食わなかったのか、まるで火がついたような勢いで女子達は再び怒りだした。
「何なのこの転校生!?チョー生意気何ですけど!」
「ねぇちょっと二人でさぁ、そいつの両腕抑えててよ!一度痛い目見ないと、分かんないみたいだからさ!」
そう言って一人の女子が取り出した物を見て、流架はギョッとした。
日の光でキラリと反射したそれは、どう見てもハサミだったから。
流石に身の危険を感じたのか、桐ケ谷の表情からは笑顔が消え失せた。むしろ無表情過ぎて何も読み取れないのだが...。
『ねぇ』
「はっ、何?今から土下座して、棗君にはもう二度と近づきません。ゴメンナサイって言うなら許してあげなくもないけど?」
『ソレで私を傷付けるつもりだって言うんならさぁ。勿論、ヤられる覚悟も出来てるんだよね?』
「何言っ...」
刹那的瞬間、というのは多分こういう事を言うんじゃないだろうか。
何が起こったのかはよく分からない。ただ、いつの間にか桐ケ谷を押さえていた女子達が地面に倒れていたのは確かだ。
そしてハサミを持っていた女子には、銃が突き付けられていた。
「...えっ?今、何が...」
『いやぁ、まさかこんなに早く役立つとは思わなかったよー。セントラルの闇市で手に入れた拳銃』
「は...っ?何ソレ意味分かんない...っ。大体そんな物使って、ただで済むと思ってるわけ!?」
『思ってるよ?だってここで全員の口塞いじゃえば、知ってる人なんかいなくなるし。ね?』
「ちょっ、ちょっと嘘でしょ!?何かの冗談だったら今すぐ止め...っ!」
『あらいやだ。なーに言っちゃってんのお嬢さん?ヤる気は満々だったくせに、まさか殺られる覚悟は持ち合わせていなかったとか?』
「ヒッ...!」
『この国では何て言うんだっけ?こういうの。あー...。そう、あれあれ。目には目を。歯には歯を、だっけ?』
「い...イヤっ!助け...っ!」
『まぁ、良かったじゃん?死ぬ前に一つ勉強になって。じゃ、さ、よ、な、ら』
止めなければいけない。でなければ取り返しのつかない事になってしまうのに。
体が麻痺してしまったかのように、流架は動けずにいた。
まるでスローモーションのように引き金はゆっくりと引かれ、そして。
乾いた銃声が辺りに響いた。