涙色の空
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まるでそこに花が咲いたかのような、華やかな笑顔。
でもその奥には、強い何かを秘めている気がする。
それが、彼女の第一印象。
*
『お早う!日向棗君!』
「......」
『あは、今日も朝からクールだねぇーっ。それとも低血圧なの?乃木流架君もお早う』
「えっ、あ、おはよ...」
『あっ、日向君待ってっ。一緒に学校行こうよ!』
転校生の桐ケ谷桜。
花と称されたその華やかな容姿と、学級崩壊を目の当たりにしても全く物怖じしない毅然とした態度。そして何より。
あの日向棗に対する、異常なまでの執着心。
彼女は今の所、初等部どころか噂好きの中等部の専ら話題の的である。
特に日向棗へのこだわりは思わず目を見張ってしまうであろう。
朝、日向を追い掛けながら一緒に登校する桐ヶ谷の姿は、多くの初等部生徒が目撃している。
これは彼女が転校してきてから、毎朝の日課。
執着、こだわりとまで言うのだから、勿論日向の後ろからついてくる姿はこれだけで済む筈もなく。
『日向君!次の授業、音楽室だってよ?一緒に行こう!』
移動授業は勿論。
『あれっ、日向君これからお昼ご飯なのに何処行くの!?』
「......」
『あ、もしかして生理現象とか?』
「燃やすぞ、てめぇ」
『あーっ!』
「...何だよ」
『日向君、今日やっと口聞いてくれたよ、嬉しいなーっ!流石にトイレじゃぁ仕方ないから、私は待ってるよ。廊下でね!』
「...もう好きにしろよ」
『えへへっ、うん!好きにするっ』
彼が用を足しに行くと言えば、終わるまで廊下で待っているという徹底ぶり。
そんな彼女を見て、引いてしまう者もいれば。
「すげぇな、転校生の桐ケ谷桜ってやつ...」
「あの棗さんと対等に渡り合ってるよな」
「むしろ呆れて何も言えないんじゃね?何度脅されてもヘラヘラしてるしさぁ」
「いや、俺だったら絶対笑ってられないぜ...。やっぱ転校生桐ケ谷はただ者じゃないに一票だな」
尊敬の念を密かに抱く者もいる。
そしてウサギを胸に抱いた、動物フェロモンのアリスの持ち主乃木流架。
彼も、彼女には表面上では計り知れない何かを感じ取っていた。
「(桐ケ谷っていつもにこにこしてるけど、何か違う気がするんだよな...。思ってる事と、行動が上手く噛み合わないっていうか)」
周りが彼女の話題ばかりするものだから、自分も感化されてしまったらしい。
考え込んでいると、袖をくいくいとウサギに引っ張られる。
どうしたのかと疑問に思ったけれど、理由は直ぐに見当がついた。
「(そういえば、棗が戻って来ないな...)」
棗が教室を出てから、幾分か時間は過ぎているのに。一向に戻ってくる気配はない。
おまけに今は昼食時間だ。食事は一切手付かずの状態だから、てっきりすぐに戻ってくるものとばかり思っていたのに。
...まさか。任務、だろうか。
「(これじゃぁ俺も、人の事言える立場じゃないかもな...。でも、)」
心配なのだ。友達として。
自分に出来ることは無いのかもしれないけど、それでもよぎった不安を振り切るように流架も教室を後にした。
棗を探しに行く為に。
「...あれ?」
教室を出た所で、目的の人物に早々と出会える筈がないと思っていたのだが。
視界の端に、予想外な人物が目に写る。棗の隣をついて離れない桐ケ谷の姿だった。
トイレにまでついて行き、それを待つと言っていたのに。どうしてこんな所にいるのだろうか。
同じクラスの女子達と、何処かへ行くようようだが...。
「桐ケ谷さんってー」
「うわっ!ビックリした...。えっと」
「心読みだよー。それよりもさぁ。今のヤバいかもね」
「今のって...。桐ケ谷と女子が一緒にいたのが?」
「一緒にいたっていうか、あれはさー」
この学園に入学してから、それなりの月日を過ごした筈だ。けれど流架は、今だにクラスメイトの顔と名前が一致出来ずにいた。
それは予想だにしなかった生活の連続が待ち受けていたせいかもしれない。
いつの間にか隣にいたらしい心読みと名乗った男子は、そんな事を全く気にした様子もなくのんびりとした口調で話を続けた。
「連れて行かれたんじゃないの?」
「...え?」
「桐ケ谷さんって目立つじゃん?色んな意味で。それが気にくわないって思ってる子、少なくないみたいよー」
そう告げた心読みは朗らかな顔だったけれど、内容としてはとても笑えるものではなかった。
気が付けば流架は、桐ケ谷が去った方へと足が向いていた。
どうして追いかけているのか自問自答をしてもよく分からない。
けれど、心配とは少し違うように思えた。
もしかしたら興味がわいたのかもしれない。いつも笑っている彼女の本音を、垣間見る事が出来るのではないかと。
そして過剰だと言えるほど、棗に関わる理由は何なのだろうか。
もしその理由が棗にとって害をなすものであれば、その時は...。