涙色の空
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いよいよだわ。
この地で。この血で。
私が始まる。
覚悟は、とうに出来ている。
*
「み、皆さ~んっ。聞いて下さーいっ。
今日から、新しいお友達がですね…!」
「うっせうっせー!」
「何がオトモダチだよ!だっせー!」
朝のHR。
担任のいない初等部は、荒れ果てていた。
副担任がどれ程必死に静めようとしても、無駄の一言につきる。
物を投げたり、我関せずと言わんばかりに、漫画を読み出す者。
中には、場をわきまえずにアリスを好き勝手に使う生徒たちもいる。
そんな無法地帯と化している教室の中。
凛とした少女の声が響いた。
「皆さん。転入生の桐ケ谷桜と言います。仲良くして下さいね!」
にこり、と。
添えるように笑ったその顔は、まるで花が咲いたように華やかでいて、可憐な印象を与えていた。
まるで鈴を転がしたかのような声は、明るく愛らしい。
そして何よりも。
このクラスの現状を目の当たりにしても、一切動じない度胸。
転校生の桐ケ谷桜…ただ者じゃない。
子どもは、そういった者を本能的に悟ると言う。
教室はいつの間にか静寂に包まれ、副担任はあ然としていた。
『先生?私、何処の席に座れば?』
「えっ?あ、あぁ!一番後ろの席で…っ」
『はい。分かりました』
にこりとまた一つ、笑みを浮かべて。
桐ケ谷は指定された席へと向かった。
今、クラス中の視線が彼女に集まっている。
にも関わらず、居心地が悪そうにする所か、その態度は堂々たるもの。平然としている。
…否、彼女にはそれが見えていないかったのだ。
彼女が見据えているのは、ただ一人の人物。
『日向棗君…』
「…誰だ、てめ…っ!?」
『やっと会えたよーっ!』
日向棗。彼が最後まで言葉を発することは無かった。
何故なら。
「ちょっと…!アンタ、何で棗君に抱きついてるのよー!」
水を打ったように静まっていた教室は、一人の女生徒の絶叫により再び無法地帯へと化した。
それでも桐ケ谷の視界は、ただ一人しか映していない。
まるで少しでも長く、その瞳に焼き付けておくかのように。
見つめ続けていた。
『私は桐ケ谷桜!仲良くしてね?日向棗君!』
今だに呆然としている日向を見て、彼女はまた一つ、花のような笑みをこぼした。