改造計画番外編
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(時期不明)
「アンタ、気持ち悪いんだよ」
どうしてだろう。
変われるのかもしれないと希望を感じた時に、それは勘違いだったと打ちのめされる。いつも、いつも。
まるで私の罪を、忘れるなと言わんばかりに。それは追いかけてくる。
「...あれは」
どうにも季節の変わり目は雨が降りやすいように思う。そのせいか、今日もあいにくの天気だった。
雨が降ると、気温だけでなく湿度も変化する。温室とはいえ、中にいる植物は大丈夫だろうかと考え事をしながら廊下を歩いていた時。
窓から、傘もささずにたたずんでいる初等部生の姿が見えた。
女子は、苦手なんだがな...。
そう思うのに、どうしてこの足は彼女の方へ向かっていくのだろうか。何故関わろうとするのだろう。
元々の性格なのか。それとも、教師としてはあの状態を放置するのは望ましくないからなのか。
確かにそれは正論だが、それだけで片付けるには胸の辺りが何故かスッキリしない。
ただ雨に紛れて、泣いていないといいと思った。
「...早瀬」
『あ...?岬先生』
「傘もささないで何やってるんだ。風邪を引くぞ」
『......』
「...早瀬?」
『花壇の花に...水を、あげようと思ったんですけど...。よく考えなくても、そういえば雨降ってるんでしたっけ。
あはは...何、やってるんだろ。私』
それは下手な嘘ではなく、どうやら本気のようだった。彼女の右手には、ジョウロがぶら下がっていたのだから。
空笑いと一緒につくろうとしたそれは、笑顔のつもりなのだろうか。くしゃりと歪んだその顔は、酷く悲し気だった。
こういう時、どうするのが正解なんだろう。
早瀬が落ち込んでいるのは、一目見れば...いや、見掛けただけで分かった。その憔悴しきっている理由を、問いただすべきなのか。
それとも本当に風邪を引いてしまう前に、とりあえずここから移動するべきなのだろうか。
あれこれ考えた筈なのに、口から出た言葉は何故か全く違うものだった。
「どうして早瀬は、いつも花壇の花を大切にしてくれるんだ?」
『......』
「あ...いや。別に、無理には聞かないが...」
『...たむけ』
「たむけ?」
『花は、死んだ人への手向けにもなるんでしょう?だから...なんだと思います。私がお墓に花を供える事は...多分、許されないから...せめて、ここから』
許されない。そう呟いた言葉は、雨に消されそうな程にか弱いもので。
そして目の前にいる筈なのに、瞳はここではない何処かを見つめていた。何かを思い馳せるように。
....どうしてだろう。釈然としなかった胸の辺りが、苦しいのは。
少しでも早瀬の事を知っていれば、掛ける言葉があったのだろうか。
晴れることのない胸でモヤモヤと考えていたら、控え目な声が下から聞こえた。
『あの...岬先生。その、ごめん、なさい』
「は...っ?何で謝るんだ」
『先生は純粋に花を好きで、育てている人なのに...こんな理由で』
「そんな...そんな事は、」
『あ、でも、一応それだけじゃないんですよ。私のアリスは、こんなんだから。
こんな私でも、何か...少しでも、出来ることがあるって、思いたかったというか...うーん...この理由も失礼な気がしてきた...ご、ごめんなさい...』
終わりのアリス、だっただろうか。
今までは透視系のアリスだと偽ってきたようだが、例の誘拐事件で彼女のアリスはごく一部で知られる事となった。
それを隠し通してきたのは、顔がよぎるだけで腹立たしい初等部の担任。
隠していたのは、早瀬の情緒不安定な面を考慮しての事だろう。...恐らく(何せアイツは気紛れすぎて読めない面がある)
けれど無断で制御アイテムを使用していた程なのだから、それは真実なのだと思う。
余程自分のアリスが怖かったのだろう。...いや。過去形ではない。今もきっと怖いのだろう。
「...どんなアリスでも、毒にも薬にもなる」
『え...っ?』
「アイツ...鳴海が。立ち止まって、自分のアリスに悩む生徒によく言う言葉だ。アイツ自身も誰かに言われたのかどうかまでは、知らないが」
『あの鳴海先生が...』
さりげなく鳴海にとって失礼な発言が飛んだ気もするが、こちらに特に被害はないのでスルーしよう。
むしろざまぁみろと清々するぐらいだ。
「どんなアリスでも、使い方次第で全く違う一面を見せる。君のアリスだってそうだ」
『私には、分からないです...』
「正直、俺もそうだ。変なアリスだとからかわれる事もあったしな。
だからこそ余計に自分のアリスが好きになれなかったり、疎ましく思う時だってあるだろう。...他人に何かを言われて、傷つく時だって」
『......』
「それでも俺が...早瀬の理解者は、いる。いや、その。俺だけじゃないだろうが。俺も、少しでも力になれたらと...っ」
『先生...何だかよく分からないですけど、唐突に挙動不審になり過ぎです...』
「とにかく!その...一人で泣かないで欲しいんだ」
指摘されたこの気持ちが何なのかはよく分からない。何故ここまで動揺したのかも。
ただ悲しく歪んでいるであろうその気持ちを、一人で何とかして欲しくないと思ったのは本当だった。
雨は今だ止みそうもない。
雨音以外の音は全てそれにかき消されてしまって、ここには自分と早瀬しかいないのではと錯覚を覚える。
だから何だろうか。彼女が顔を上げただけで、いちいち驚いてしまったのは。
『岬先生...その行動は無自覚なんですか』
「じっ、自覚?それって、どういう意味...っ」
『女子が苦手なくせに。そうやって、優しいから。だからモテちゃうんですよ?』
「な...っ。苦手だとか、誰から聞いたんだ、早瀬っ」
『そんな優しい岬先生に想いを寄せる女子達です。あ、達って言うぐらいだから、勿論複数ですけど』
「え...」
知らないのは当人だけとは、よく言ったものだ。今の状況はまさしくこれに当てはまる。
心なしか血の気が引いた気がした。
慌てる様が面白かったのか、爆弾発言を落とした本人は吹き出すように笑っていて...微妙に、いや。大分やるせない気持ちだ。
「...早瀬」
『はっ、ご、ごめんなさいっ。笑うつもりじゃ...ふはっ、』
「...全く」
弛んだその口元から出る謝罪は、本当に悪いと思っているのか。
そんな憤りを覚えたが、泣きそうだったその顔が少しでも晴れたのならそれでいいかと片付けてしまう自分がいた。
果たして自分はこんなに単純で、現金だっただろうか。
彼女といると、本当に分からないことだらけだ。
「とにかく、早く帰るぞ。早瀬。本当に風邪引く前に」
『相合い傘ですかー。噂されちゃいますねー...』
「早瀬っ、あんまり俺をからかうなっ」
『岬先生』
「何だっ」
『...ありがとう、ございます。わざわざ、来てくれて』
この雨が止んでしまったら、こうして隣に居る理由は無くなってしまうのだろうか。
だったら、ずっと晴れることなく降り続ければいい。
何故か、そう思った。
以下、捕捉→
「アンタ、気持ち悪いんだよ」
どうしてだろう。
変われるのかもしれないと希望を感じた時に、それは勘違いだったと打ちのめされる。いつも、いつも。
まるで私の罪を、忘れるなと言わんばかりに。それは追いかけてくる。
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「...あれは」
どうにも季節の変わり目は雨が降りやすいように思う。そのせいか、今日もあいにくの天気だった。
雨が降ると、気温だけでなく湿度も変化する。温室とはいえ、中にいる植物は大丈夫だろうかと考え事をしながら廊下を歩いていた時。
窓から、傘もささずにたたずんでいる初等部生の姿が見えた。
女子は、苦手なんだがな...。
そう思うのに、どうしてこの足は彼女の方へ向かっていくのだろうか。何故関わろうとするのだろう。
元々の性格なのか。それとも、教師としてはあの状態を放置するのは望ましくないからなのか。
確かにそれは正論だが、それだけで片付けるには胸の辺りが何故かスッキリしない。
ただ雨に紛れて、泣いていないといいと思った。
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「...早瀬」
『あ...?岬先生』
「傘もささないで何やってるんだ。風邪を引くぞ」
『......』
「...早瀬?」
『花壇の花に...水を、あげようと思ったんですけど...。よく考えなくても、そういえば雨降ってるんでしたっけ。
あはは...何、やってるんだろ。私』
それは下手な嘘ではなく、どうやら本気のようだった。彼女の右手には、ジョウロがぶら下がっていたのだから。
空笑いと一緒につくろうとしたそれは、笑顔のつもりなのだろうか。くしゃりと歪んだその顔は、酷く悲し気だった。
こういう時、どうするのが正解なんだろう。
早瀬が落ち込んでいるのは、一目見れば...いや、見掛けただけで分かった。その憔悴しきっている理由を、問いただすべきなのか。
それとも本当に風邪を引いてしまう前に、とりあえずここから移動するべきなのだろうか。
あれこれ考えた筈なのに、口から出た言葉は何故か全く違うものだった。
「どうして早瀬は、いつも花壇の花を大切にしてくれるんだ?」
『......』
「あ...いや。別に、無理には聞かないが...」
『...たむけ』
「たむけ?」
『花は、死んだ人への手向けにもなるんでしょう?だから...なんだと思います。私がお墓に花を供える事は...多分、許されないから...せめて、ここから』
許されない。そう呟いた言葉は、雨に消されそうな程にか弱いもので。
そして目の前にいる筈なのに、瞳はここではない何処かを見つめていた。何かを思い馳せるように。
....どうしてだろう。釈然としなかった胸の辺りが、苦しいのは。
少しでも早瀬の事を知っていれば、掛ける言葉があったのだろうか。
晴れることのない胸でモヤモヤと考えていたら、控え目な声が下から聞こえた。
『あの...岬先生。その、ごめん、なさい』
「は...っ?何で謝るんだ」
『先生は純粋に花を好きで、育てている人なのに...こんな理由で』
「そんな...そんな事は、」
『あ、でも、一応それだけじゃないんですよ。私のアリスは、こんなんだから。
こんな私でも、何か...少しでも、出来ることがあるって、思いたかったというか...うーん...この理由も失礼な気がしてきた...ご、ごめんなさい...』
終わりのアリス、だっただろうか。
今までは透視系のアリスだと偽ってきたようだが、例の誘拐事件で彼女のアリスはごく一部で知られる事となった。
それを隠し通してきたのは、顔がよぎるだけで腹立たしい初等部の担任。
隠していたのは、早瀬の情緒不安定な面を考慮しての事だろう。...恐らく(何せアイツは気紛れすぎて読めない面がある)
けれど無断で制御アイテムを使用していた程なのだから、それは真実なのだと思う。
余程自分のアリスが怖かったのだろう。...いや。過去形ではない。今もきっと怖いのだろう。
「...どんなアリスでも、毒にも薬にもなる」
『え...っ?』
「アイツ...鳴海が。立ち止まって、自分のアリスに悩む生徒によく言う言葉だ。アイツ自身も誰かに言われたのかどうかまでは、知らないが」
『あの鳴海先生が...』
さりげなく鳴海にとって失礼な発言が飛んだ気もするが、こちらに特に被害はないのでスルーしよう。
むしろざまぁみろと清々するぐらいだ。
「どんなアリスでも、使い方次第で全く違う一面を見せる。君のアリスだってそうだ」
『私には、分からないです...』
「正直、俺もそうだ。変なアリスだとからかわれる事もあったしな。
だからこそ余計に自分のアリスが好きになれなかったり、疎ましく思う時だってあるだろう。...他人に何かを言われて、傷つく時だって」
『......』
「それでも俺が...早瀬の理解者は、いる。いや、その。俺だけじゃないだろうが。俺も、少しでも力になれたらと...っ」
『先生...何だかよく分からないですけど、唐突に挙動不審になり過ぎです...』
「とにかく!その...一人で泣かないで欲しいんだ」
指摘されたこの気持ちが何なのかはよく分からない。何故ここまで動揺したのかも。
ただ悲しく歪んでいるであろうその気持ちを、一人で何とかして欲しくないと思ったのは本当だった。
雨は今だ止みそうもない。
雨音以外の音は全てそれにかき消されてしまって、ここには自分と早瀬しかいないのではと錯覚を覚える。
だから何だろうか。彼女が顔を上げただけで、いちいち驚いてしまったのは。
『岬先生...その行動は無自覚なんですか』
「じっ、自覚?それって、どういう意味...っ」
『女子が苦手なくせに。そうやって、優しいから。だからモテちゃうんですよ?』
「な...っ。苦手だとか、誰から聞いたんだ、早瀬っ」
『そんな優しい岬先生に想いを寄せる女子達です。あ、達って言うぐらいだから、勿論複数ですけど』
「え...」
知らないのは当人だけとは、よく言ったものだ。今の状況はまさしくこれに当てはまる。
心なしか血の気が引いた気がした。
慌てる様が面白かったのか、爆弾発言を落とした本人は吹き出すように笑っていて...微妙に、いや。大分やるせない気持ちだ。
「...早瀬」
『はっ、ご、ごめんなさいっ。笑うつもりじゃ...ふはっ、』
「...全く」
弛んだその口元から出る謝罪は、本当に悪いと思っているのか。
そんな憤りを覚えたが、泣きそうだったその顔が少しでも晴れたのならそれでいいかと片付けてしまう自分がいた。
果たして自分はこんなに単純で、現金だっただろうか。
彼女といると、本当に分からないことだらけだ。
「とにかく、早く帰るぞ。早瀬。本当に風邪引く前に」
『相合い傘ですかー。噂されちゃいますねー...』
「早瀬っ、あんまり俺をからかうなっ」
『岬先生』
「何だっ」
『...ありがとう、ございます。わざわざ、来てくれて』
この雨が止んでしまったら、こうして隣に居る理由は無くなってしまうのだろうか。
だったら、ずっと晴れることなく降り続ければいい。
何故か、そう思った。
以下、捕捉→