宛名のない手紙
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*
「...早瀬」
『ぅ...』
「早瀬っ」
『も、もう...』
「もう...の、続きは何なのかなー?由香ちゃん。」
『...んぁ?』
「あー...もう」
「早瀬さん、御愁傷様ー」
『へ...っ?』
後ろから指でつつかれた感覚と、隣から聞こえた話し声で重いまぶたが少し上がりました。
あ、あれ?そもそも私眠ってたんですか。というか、ここ、何処...。
「ねぇ、由香ちゃん?」
『えっ?あっ、ひゃい!』
「まだ寝ぼけてるようなら、是非続きをお聞かせ願いたいな~っ。授業中だ、け、どっ!」
『ひ...っ!』
国語担当の担任が、端正なお顔を意味ありげな満面の笑みに歪ませた所で一気に現実に引き戻されました。
今は小春日和なポカポカ陽気の下、眠気が一番襲ってくる午後イチの授業を受けていた事も。
...見事眠気に勝てず、放課後はゲロ並みに臭いゴミ箱を掃除するペナルティがこれから課されるであろうことも。
*
「最近やたらぼんやりしてない?ねぇ、早瀬さん」
『駄目、止めて。今さっきペナルティくらったばっかりの人に話し掛けないでくれるかな、心読み君』
「人の不幸は蜜の味って言うよね?」
『ちょ、ねぇ、まさか敢えての起こさなかったパターンなんですか!?』
「由香ちゃーん、何か質問かなっ?」
『ごめんなさい無いです!!』
くっそ、涼しい顔して無関係を装う隣の席の奴が憎い...っ!
私の癒しは、後ろの席から気遣わしげに視線を送る乃木君だけだ...!
「いや、呆れてるでしょ」
『待って私何も言ってない。てか懲りないな』
「だから前にも言ったじゃん。早瀬さんは顔に出やすいって。っていうか、顔色あんま良くないけど。大丈夫?」
『え、あ、あぁ...。ちょっと、夢見が良くなかったというか...』
「ふーん?」
読心術でも使いこなしているんじゃないかと疑う位に、人の心の内を(嬉々と)暴き出す隣の席の彼。ついに付けられたあだ名が心読み君。
外を歩けば、何処から来るのかいつも動物に紛れている動物ホイホイ乃木君(失敬)。本日はウサギをお供にしています。あと、学校七不思議に入りそうな謎のフェロモンが滲み出ている鳴海先生。
その他にも個性が強すぎる方たちがいますが。それが普通だし、日常の筈。なのに...何なのだろう。時々感じるこの違和感は。
「おまけに最近、やたら挙動不審じゃない?急に上を見上げたと思ったら、誰かを探してるみたいにキョロキョロしたり...」
『うーん...ちょっと上手い例えが見つからないんだけど...』
「だけど?」
『何か違う気がして...』
「何かって何が?」
『ほんと、それな』
急に誰か宙を飛んでいるんじゃないかと思い立って上を仰いでみたり。誰かに肩を叩かれたものなら、何処かへ瞬間移動をうっかりしてしまうんじゃないかと何故か思い至ったり。
挙げ句の果てには、誰かに会話を聞かれているかもしれないと感じる意味不明な自意識過剰。
普通そんな事有り得ない筈なのに、何故か気が付いたらいつもそんな事を考えてしまうのだ。そんな不思議が、当たり前で。ありふれていた毎日があったような...。
『...あれ。そういえば。私、顔に出やすいって心読み君に言われたの初めてだよ?』
「えー、前にもあったよ。いつだったかは...ちょっと忘れちゃったけど」
『だよねぇ?』
「まぁ...常日頃から思ってた事だから、言った記憶があやふやなだけだと思うけど」
『ちょ...』
「はーい、原稿用紙が全員に行き渡った所で皆さん注目ーっ。今日の授業始めるよ~っ!」
釈然としないけれど、学生は勉学が本分ですからね。(担任が)苦手だろうがウザかろうが、やらねばならないのが悲しい所です。
原稿用紙を配る辺り、今日は感想文か何か書かせるつもりなのでしょうか。
でもまぁ、この先生。授業で習った漢字やら文法やらがしっかり使えていれば、それなりに評価してくれるので。今回もちょちょいのちょいと...。
*
『いかなかったとか...っ』
「わっ、急にビックリしたわー由香ちゃん。どないしたん?」
「国語の課題が終わらなかったみたいよ」
『どうして乃木君がそれを知っているのかな心読み君』
「僕に聞いてる時点でどうしてだか察しているでしょう早瀬さん」
今日も私と心読み君は仲がええなーと感心しているトラブルメーカーさんが、約一名いらっしゃいますけれども。これ、全力でおちょくられてるだけですからね?絶対。
えぇ。そうなんです。乃木君のご指摘通り、鳴海先生が授業で出した課題で見事に手こずってしまい。ついには放課後を迎えてしまったのです。
「誰かに一人、手紙を送るつもりで書くだけやさかい。そない悩む程でもない思うんやけど...」
「変に悩んでどツボにはまってはかどらなかったんじゃないのー?あははー、早瀬さんてばマヌケーっ」
『いつも全力でおちょくりやがる心読み君辺りを相手に、適当にクレーム書けば良かったんですけど...何だろう。この場所に居る筈の誰かに、何かを伝えたかった気がして...凄く』
「何そのフワッとした発言。ていうか苦情だなんて失礼だなー。全身全霊で楽しんでいるのに」
『や、私も自分で意味不明...ってか人で楽しんでるのかよ!人でなし!』
「...!ね、ねぇ早瀬、」
課題が片付かないどころか、軽いバトルが勃発しそうな中。乃木君が声を上げたのと、正田さんの意気揚々な声が出たのは同時でした。
「ねぇちょっと、そんな事よりも!放課後、あの場所へ行ってみたいんだけど」
「あの場所って...何の事やっけ?パーマ」
「あぁ...朝言ってた、あれね。今噂になってるっていう」
「蛍知ってるん?」
「あんたも朝その話一緒に聞いてた筈なのにね...はぁ」
「蛍に馬鹿にされたー!!むきーっ!」
私の課題はそんな事扱いな上に、スルーされた方もいらっしゃいましたよそうですかそうですか...。
そんな私をほくそ笑んで見ている心読み君を、ほんとどうにかしてやりたい今日この頃です。マジで。
『話はよく見えませんけど、噂話なら課題が終わってない私がいない他所でやって下さ...』
「ちょっとアンタ知らないの!?噂になってるあの場所!結構有名になってるのに、ほんと無関心ねー!」
『あれこれなんて強制イベ』
「あははは、放課後はゲロ並みにくっさいゴミ箱掃除も待ってるのにねー。自分の時間なんてミジンコ程もない早瀬さんて、あははかわいそ~」
『あんたはどこぞの昼ドラの姑か!?心読み君!』
「あんた世の中の流れっていう社会の出来事に着いていけなかったら、今後やっていけないわよ?特別に教えてあげるから、よく聞きなさい。あのね...」
*
『...ちょっと話の要点だけまとめさせてもらってもいいですか』
「何よ、物覚えが悪いわね」
『すみません。ここ最近になって、通学路の途中にある神社に新しい巫女さんを見かけるようになったと』
「あそこの神社って、やたら階段登るんよなー」
「何よ、年寄りくさい発言ね。蜜柑にしては」
「別にそういう意味やないもん!」
『(スルー)その方が来てから、鬼火を見ただとか奇妙な噂が流れるようになった、と』
「他にも噂は沢山あるわよ!でも一番の噂は何と言っても...」
『何故かいつも黒猫の面を欠かさず付けていて、その下の容姿は...なんと超絶美男子、だと』
「そう!それ!それなのよ!!」
ただのミーハーじゃねぇか。
何が社会の流れだか何とかだって言うんだよ私の課題をこなす時間を返せこの野郎。...なんて。正田さん相手に口が裂けてもいえる訳もなく。
「...っていう訳だから。あんたも行くわよ。放課後」
『え...何処に』
「その神社に決まってるじゃない」
『私...放課後、ペナルティ掃除が』
「今何つった?」
『いえ何も』
権力の下僕なのです。私。同じクラスメイトの筈なのにね。おかしいですね。ヒエラルキーっていうもんがあるのです。
華麗な身の振り方に、乃木君が呆れ果てた目で私を見ていた気がしますけど。無視ったら無視です!