いつかの形象
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*
『ここは、何処なんですか...っ』
何となくこうなるんじゃないかと思ってたって?はい。ご明察ですね。
現在地不明なうです。いえ、最初から分かっちゃいないんですが。
しかも逃げる途中に道なき獣道を突っ切ったせいで、制服汚しちゃいましたし...。これ、借り物なのに。
...。
『でもまぁ、いっか』
よくよく考えてみれば、こんな事態になったのは過去においても未来においても鳴海先生のせいなんだし。
とりあえず、これからどうしましょう。
やっぱり先生を探して事情を説明するべきなんでしょうか。身元不明扱いされて、不審者として見なされやしないか不安です。
あぁー...そう考えると、やっぱり岬先生に付いていくべきだったんでしょうか。
でも今更戻れません。むしろ戻りたくない。多分今頃は鳴海先生のアリスが絶賛発動中で、どんなめくるめく世界が広がってるか分かったもんじゃありませんし...。
『うーん...。...ん?』
「...」
「...」
『え...と。こ、コンニチワ?』
適当な場所で休憩しがてら腰を掛けていたら、同じ年代...と言うと何やらややこしいですね。今現在も私、成人姿ですし。
同じ初等部生徒の、と明記しておきましょう。その男子二人組に気が付いたらガン見されてました。(最も。正確に言えばこのお二人は同い年などではなくて、私より何年か単位で年上なのでしょうけど)
あれですか。このお二人が足を止めた理由はさしずめ、私がボロボロな姿で頭抱えてるせいだったりしますか。
避けたかった不審者フラグが早速...!
「...何してるの?」
『えっ、わ、私、別に怪しい者ではっ』
「怪しい奴は皆、自分の事を怪しくないってしゅちょーするんだよ」
『あのこれはですね、その、深い事情が...っ』
「せんせーっ!ふしんしゃがいるー!」
『はわわわちょっ!待っ...いたぁ!?』
そんなとんでもなく不穏な言葉を、二人組の片割れはここぞとばかりに大声でお知らせしてくれちゃいました。
その子は肩にかかりそうでかからない程に伸びた髪の長さも相まって、一瞬女の子に見間違えそうでした。そして中々に利発そうです。つまりどういうことかって。
私の不審者扱いがいよいよ現実味を帯びてきました。
逃げ出そうにも、さっき走った時に細かい傷をいくつかつくったせいで身体中が痛いです。地味に。
ば、万事休す...!
「待てよ、しゅう」
「何だよっ」
「このお姉さん、怪我してる」
『え?あ、あぁ...。ちょっと色々あって、変な人に追いかけられてしまって』
「怪しい奴だって決め付ける前に、やる事あるんじゃないか?」
「う...」
二人組のもう一人の片割れさんは、そう言ってずれてもいない眼鏡を押し上げていました。
さらりとしたショートヘアに、くっきりとした二重は、紫色の瞳をしていて。
誰かに似ている気もしますが、ちょっと思い出せません。
え、ところで変な人って誰かって?
嫌ですよ、そういうことはみなまで言わないものですははは。
「お姉さん...ごめんなさい。怪我してる所、大丈夫?」
『え...っ。えぇっと、まぁその。はい。急に動かなければそんなに痛くは...』
「でもすばるには謝んないんだからな!お礼も言ってやんない!」
「何だとぉ!?」
「大体お前も、言われる前にやる事があるんじゃないか?」
「今からアリス使おうと思ってた所だよ!」
「ふーん?へー?」
『お、お願いですから喧嘩しないで...』
もっと正確に言うのであれば、目の前で喧嘩しないでいただきたい。大抵は周辺にいる人が被害こうむると、相場が決まってるんですから。
私の控え目な仲裁でも、どうやらひと悶着起こすのは思い止まってくれたようです。
そういえば眼鏡君の方が、アリスが何とやらと言ってましたけど...?
「僕、癒しのアリスが使えるんだ。...はい。これで全部治ったかな?」
『す、凄いです...っ!全部、綺麗に治ってます。こんなに強いアリスが使えるんだなんて...あ、えと。ありがとうございました』
「へへ...っ。困っている人がいたら助けてあげなさいって、お姉ちゃんが言ってたから」
『お姉ちゃんって?』
「うん。いつも僕達に優しくしてくれる、高等部にいるお姉ちゃん!名前は...」
「すばるばっかりズルいぞ!僕だって何かしてあげたいー!」
「それ、お姉ちゃんに誉められたいだけなんじゃないか?」
「んな...っ」
『あーっとぉ!そういえばぁ、私、今ちょうど困っていてですね...っ!』
何で私、いつの間にか喧嘩の仲裁立ち位置にポジションを固めているのでしょうか...。微妙に納得がいかないのですが。
でも、いい機会かもしれません。このタイミングで、少し情報収集といきましょうか。望みは...ちょっと薄そうですけど。
『実は私、人を探しておりまして、その。時間関係のアリスを使う方って、知ってたりしませんか?』
「時間関係?」
「それってどんなの?」
『う、うーん...。時間旅行的な感じ、ですかねぇ...。私、多分その方のアリスのトラブルに巻き込まれてしまって』
「「へぇー」」
『思い当たる方、いませんか?顔はちょっと分からないんですけど...そう。確か、腕に制御ブレスレットを付けていて...髪はちょっとボサボサというか、取り合えず跳ねていて、』
「あっ、分かった!」
「この前お姉ちゃんと一緒にいた人?」
「そうそう!きっと糸目の人の事だよっ」
「何だよっ。俺が先に糸目の人って言おうとしたのにーっ」
「いいだろ別にー糸目ぐらい」
「ぐらいとか言うなら、もう糸目って言葉もう使うなよなー」
「何だとぉっ」
『わ、分かりました...。その、大変よく分かりましたから。喧嘩しないで...』
しかも糸目という言葉で。このお二人、同じ初等部生徒とは言いましたけど。多分A組の方なんじゃないでしょうか。何でって。
表現が正直かつ素直すぎると言うか...!幼い子から伝えられる真実は、時に残酷です。糸目...糸目って、アナタ。
え、どっちの台詞がどちらの子か分からないって?ご想像にお任せします。
個人的にはどっちでもいい気がしますけどね。
何にせよ、解決の糸口になりそうな情報は得られたのですから。子供二人から(といっても、実際は私も似たような年頃ですけど)、というのが、ちょっと意外でしたけど。
中等部だった鳴海先生や岬先生の年齢から計算すると、元の時間軸ではこの子達は...えぇっと。
大体中等部...いえ。高等部の方になるんでしょうか?眼鏡君のアリス、初等部生にしてはかなり強力だったので。もしかしたら、幹部生辺りの人なのかも...。
「そういえばその糸目の人、さっき先生と一緒にいたの見かけた!僕、呼んでくるよ!」
「ズルいぞ、しゅう!」
「お前はさっきお姉さんの怪我治したからいいじゃんかー。今度は僕が...あっ!お姉ちゃんだ!」
「先生もいる!先生ーっ!お姉ちゃーん!」
『え、ちょっと待っ...っ!』
関係ない所へ思考を飛ばしている間に、遥か彼方の影を見つけた二人は脱兎のごとく駆けて行ってしまわれました。
ちょっと本当に待って下さい、いきなり急展開すぎやしませんか。心の準備が...っ!
先生に事情を話すべきだって、確かに岬先生からは言われましたけど。
本気で不審者扱いされたらどうしましょう...。というか、その先生とやらは、私の知っている人でしょうか。だったらまだ...。
「おいお前ら!そんなに引っ張りながら走るな!転んだらどうするんだよ!」
「先生、それってこの子達に追い付けないから転びそうなんじゃないの?年寄りっぽいよ~」
「色気のないガキんちょの方は少し黙ろうな!」
「はぁ!?」
「先生、お姉ちゃんをイジめるなよ!」
「そうだそうだー!」
「ふふっ。二人ともありがとう」
「納得いかねー」
「ところで、会わせたい人がいるんだっけ」
「あ、そうだった!この先に知らないお姉さんがいるんだけどね...」
「怪我してたけど、僕が治してあげたんだ!」
「まだ話終わってないのに、横から入ってくるなよ!」
何やら賑やかな様子でこちらへ向かって来てますけど...あいにくな事に、姿がよく見えません。立ち位置的にちょうど逆光になっているせいで、人の姿が確認できる程度です。
それにしても、口調が悪かった約一名の声なんですが。何処かで聞いたことがあるような。
でも、今の学園でそんな言葉遣いの先生なんていない筈です。少なくとも、初等部では。じゃぁ、一体...?
『ひゃ...っ!?』
「やっと、見つけました...!」
『え...っ、あ!あなた、廊下で面白体勢で倒れてた人ですか!?』
「説明は後です!事故だったとはいえ、これ以上時代が異なる場所での接触は望ましくありません。さぁ行きますよ。私につかまって...!」
『待っ...!』
急に後ろから腕を引っ張られたと思ったら、私をここに飛ばした張本人が直々にお迎えに来てくれたようです。
探す手間を省けて良かった筈、なのですが。
結局、あの懐かしいと感じた声の主は誰だったんでしょうか。姿さえ見る事が出来たら思い出せたかもしれないのに...。
そんな心残りを抱えたまま、景色が歪むのと一緒に意識も揺らいでいくのを感じました。
「...あれ。さっきのお姉さん、居なくなっちゃってる」
「困ってたみたいだったけど...大丈夫かな?」
「...先生?どうかしたの?ぼんやりしてる」
「あぁ...いや。遠目だったけど、何処かで見た事がある奴のような気がしたんだが...気のせいかな」