いつかの形象
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何ですか!本当、何なんですか一体!
今時の若人のチャラさに巻き込まれたショッキングな展開だとか、見知った筈の人との噛み合わない会話の現状だとか、アリス使ってない筈なのに、意味が分からない程の鳴海先生のあの色気だとか!
何一つ理解できなくて私のキャパはオーバーどころか爆発してサーバーダウン状態です読み込みが出来ません!
自分が何言ってるのかもよく分かりません...っ!
『おまけに...っ。ここ、何処だって言うんですかぁ!教員用の寮にいたのに私!一体...ふぎゃっ!?』
「うわっ!?わ、悪い。大丈夫...ですか?怪我は...」
『あ...っ!岬せん...っ!』
「...?俺の事、知ってるんですか?」
『...!』
どっかの道の角を曲がろうとしたら、出会い頭で誰かにぶつかるとか安いラブコメ展開をやらかしてしまいました。
その誰かは、見知った顔...の筈なのですが。
やっぱりと言うべきなのでしょうか。いつもの岬先生とは、ちょっと違った背丈とか幼い顔をしていて。
しかも、こんな姿になってしまった私を知らない筈がないのに。初対面みたいな事を言われ。
しかも、しかも...岬先生まで、制服を着ているとか。何の悪い冗談ですか。本当に、本気で。何一つ意味が...っ。
『う...っ』
「え」
『うぇぇええん!!』
「えっ、えっ!?何でいきなり抱きつい...っ!何処か怪我でも」
『私の心がもう未曾有の大災害ですぅうう!』
「はい!?とりあえず先輩っ。ちょっと離れて下さい!あ、当たって...っ」
*
「先輩」
『あ...岬せ...さん』
「その...落ち着きましたか」
『はい...。泣きはらしたので、とりあえずクールダウンだけは出来ました』
「えっ。だ、大丈夫ですか...?」
大丈夫じゃないです。そう言ってしまいたかったけど、学生姿の岬先生相手にそれを打ち明けるのはためらいがありました。
ひとしきり泣きわめいて少し落ち着きを取り戻した頃。岬先生に少しここで待っていて欲しいと言われて、少しの間、一人で状況整理をしていました。
私のパニック状態が治まっただけで、意味がわからないこの現状は、全く変わっていませんよね。
顔見知りの筈である相手も、何故か初対面な反応をされて頼る事は難しそうですし。
もしかして、かなりヤバいんじゃないでしょうか。これ。
「...あの、これ。良かったら使って下さい」
『...ハンカチ?』
「そこの水道で濡らしてきました。目元を冷やした方がいいんじゃないかと思ったんで。後から腫れたりすると良くないかと...その、女子ですから」
『...ありがとう、ございま...っ』
「えっ!?ちょっと、何でまた泣くんですか...っ。俺、何か気に障るような事をしましたかっ?」
『す、すみません...っ。ちが、違くて...っ』
女子が苦手なのに、不器用ながらも優しくしてくれるその姿は間違いなく岬先生です。
さっきの鳴海先生も、軽薄さが半端なかったけれど確実に本人だと思います。
現状が全く理解できない上に、二人とも私を知らないような素振りをするので孤独感が半端ないです。
そんな中優しくされたら、うっかり泣いちゃったりするのが普通だと思うんですが...っ。
『...あれ。そう考えると、結果的に岬先生のせいになるかも...』
「えぇ!?...ん?先生って...」
『あ、いえ...。その。何でも、ないです』
「そうですか...?あの、先輩。落ち着いたなら、良ければ話聞きますけど...。何かあったんですか?」
『何か...』
その何かという一言の中に、起きた出来事を収めることは到底出来ません。しかも状況整理をしたばかりなのですが。
でも一人で考えてるよりは、口に出してみるのがいいかもしれません。
二人での方が、現状打破のきっかけがつかめるかもしれませんし。...まぁ。ガリバー飴のヤバいくだりだとか、ありのまま伝えるわけにはいきませんけど。
『...ちょっと運悪く、とある人のアリスに巻き込まれて。多分』
「どんなアリスですか?」
『見知らぬ人だったので、どんなアリスかも分からなくて。
...そう。その見知らぬ人に、巻き込まれるから早く離れてって言われたんですけど。その次の瞬間には景色がこう、ぐにゃっと歪んで』
「景色が歪んだ...?」
『そしたら場所がいつのまにか変わっていて...気が付いたら見知らぬ人を下敷きにしてました』
「それは多分でなく、アリスで飛ばされたのは確実だと思いますけど...またピンポイントな着地点ですね」
『おかげで痴女扱いされ』
「え」
『そして何か気が付いたら逆にセクハラされていて...っ』
「えぇっ!?」
『びっくりして逃げ出したら、さっきの角で岬せん...さんにぶつかって、今に至ります』
「それは...確かに、相当驚きますね...」
『そんな最上級のパニック状態で岬さんに遭遇したので...何か変な事してたらごめんなさい』
「何か...。...っ」
『え、本当に何かやらかしてました!?』
「いっ、いえ!何も!ちょっと、当たってただけで...っ」
『当たってた?』
「すみません!今のは忘れて下さい!」
程々に相づちと突っ込みを入れつつ、岬先生は何やら考え込んでしまいました。何故か、赤い顔で。
それにしても岬先生って...私がパニック状態の時に遭遇する確率が高いように思うのですが...。
そんな関係のない方向へ逸れた事を考えていると、不意に岬先生が顔を上げてこう言いました。
「...瞬間移動のアリスは、俺も学園祭とかで経験したことあるんですけど」
『へっ?あ、はい』
「その時に景色が歪む事は無かったです。どちらかと言えば、霞む感じでした。瞬間的に場所が飛ぶので」
『あ...!そう言われてみれば、そうですね』
「なので先輩が巻き込まれたのは、別の類いのアリスなんじゃないでしょうか」
『なるほどです...!流石岬先生ですねっ。鳴海先生とは大違いと言うか...』
「鳴海?...いや、それよりも。先輩、さっきから俺の事を先生って呼んでるんですけど...何故ですか?」
『え...っ!』
さっきの鳴海先生もどき(失礼)の時にも、同じ失敗をやらかしたのに私ときたら...!
いや、だってしょうがないじゃないですか。先生は、私の中では最初からずっと先生だったんですから!
学生の頃の先生だなんて、私は知らな...ん?学生の頃の、先生?
学生姿の先生でなく、今目の前にいる人が。本当に学生の頃の先生、だとしたら?
「...先輩。もしかしたら、かなり特殊なアリスに巻き込まれたのかもしれませんね」
『え...と』
「とりあえず、名前を聞いてもいいですか?いつまでも先輩じゃ不便ですし」
『そ、それは...っ』
「それで一度、誰でもいいから学園の先生に相談をした方が...。ここまできたら、俺も付いて行くんで」
とんでもない可能性に思い至って、またしても頭がパニックになりそうです。
岬先生も何かが思い当たったのか、険しい顔をしていて。
ど、どうしよう。もし思っている事が当たりだったら、多分あんまり関わっちゃいけないんじゃ...。
岬先生の提案に戸惑っていると、何処からか助けの第三者の声が耳に届きました。
「げ。鳴海...っ」
『え"...っ!ま、まさか私の事、追いかけてきたんじゃ...っ』
「知り合いなんですか?」
『さっきの話のセクハラ張本人です』
「何やってるんだアイツは...!」
慎んで訂正させていただきます。第三者の声は、悪夢の再来であったと...!
後方から何か叫んで駆け寄って来てますねー。鳴海先生、大分ご立腹のご様子みたいです。ははっ。そりゃそうですよね。
わざとじゃないとはいえ、いきなり蹴っ飛ばしたんですから。
どうするのかって。そんなの、決まってます。
『岬先生...』
「だから俺、先生じゃ...」
『後、お願いします!』
「...はぁ!?えっ、ちょっと先輩!待っ...!」
「おい岬!今逃げた奴、お前の知り合い!?」
「い、いや、違う。さっきここで偶然...何でお腹押さえてるんだ、お前」
「さっきの先輩に回し蹴りくらったんだよ...!」
「まわ...っ。いや、そうだとしても自業自得だろ?あの先輩、鳴海からセクハラされたって言ってたぞ」
「その前には、アイツ他の奴押し倒してたんだぞ!?」
「それは...先輩には、何らかの事情が多分」
「岬、やっぱり知り合いなんだな!?」
「だから違...っ!」
「吐け。洗いざらい。でないと...手元が狂って、俺のアリスに当てられるかもしれないなぁ?」
「...!」
岬先生が危機的状況に陥ってしまうのは、きっと時間の問題でしょう。
だからといって、今の鳴海先生に捕まったら最後。何か色々終わる気がします。
何かってなにって。人としての何かです。多分。
ごめんなさい岬先生。あなたという尊い犠牲は忘れません...!
とにかく鳴海先生から撒く為に、あてもなく走り続けました。そして...。