夕焼けの記憶
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*
『あのですね、聖君。物凄く今更なのですが。そういえば私、アリス祭の後片付けの最中だったんですよ。
そろそろおいとましないと困ってしまう訳で...』
「やーっ!ちゅぎはこの本よめーっ!」
『まさかの命令形!?』
ところ代わりまして。只今私こと早瀬、日向君と聖君という奇妙な組み合わせご一行は、保健室に馳せ参じております。
そして保健医が聖君の怪我の手当てをした所までは良かったんですよ。えぇ。そこまでは。
その後、保健医がさりげなく言った台詞が全ての始まりです。
聖君くらいの年の子は、ちょうどお昼寝時間の頃だと思うけどしなくていいの?...と。
あ、じゃぁ保健医がついでにここで付き添ってくれるのかなぁと思ったんですよ。今から寮に戻るにしても時間が掛かりますし。
そうしたら、事態は何故か予想とは正反対の方向へ向かいまして。
ベッドは勝手に使っていいからちょっとここで留守番しててちょうだいね。用事があるからとまくし立てられ...今に至ります。
...。
齢十年ちょっとしか経っていないこの人生で、殺気という感情を学ばさせていただきました。
「つーか今更戻っても絶対に無駄だろ。もう夕方だ」
『うぐ...。後片付けは放置してしまうし、幼児一人を寝かし付ける事すら出来ず...』
「無駄野郎だな...」
『ちょ、私の存在自体を乏してませんかそれ...。あぁ...そういえばあの段ボール放置して来ちゃいましたけど...誰か回収してくれてるといいんですが...』
「おまけに鳥頭野郎だな」
『......』
「ねーちゃ、本ーっ!」
何だか今日は全ての頑張りが全力で空回りするみたいです。何の成果も見いだせない所か、疲労だけが溜まっていくせいで日向君の言葉に突っ込む元気すら無いです。
聖君は眠そうな気配なんて全くなく、今だに騒いでます。何処から引っ張り出して来たのか、ベッドの周りはもうおもちゃやら何やらが散乱状態です。
そして日向君がいるなら彼に任せておけば良かったのではと今更気が付きました。
日向君は絶対に分かってて傍観を決め込んだに違いないです。
もう...無理だ。心身ともに、限界。
「...ねーちゃ?」
『ちょっとベッド詰めて下さいよ、聖君。私も入らせて下さい。寝ながら読みますから。さぁ早く』
「てめぇ眠いだけだろ」
『この現状を内心面白がって見ていた人が何言いやがってんですか、日向君。こちとらアリス祭の準備辺りから疲労が溜まり続けてピークなんだよこら』
「キレると口調が悪くなるのは変わらねーな...」
『?何だか一人でブツブツ言ってる日向君はよく分からないので放置して...。さて、絵本は私チョイスで行かせていただきます。えーと、タイトルは...星の鳥』
「やっ」
『聖君、やだでも却下である』
眠気が強い私は、どうやらいつもより強引に事を進められるようです。
聖君のやだ発言もこの通り、そつなくスルーであります。
よし。このまま行け行けドンドンして、この子と一緒に寝落ちしてしまえば...
「にーちゃも、ベッド入りゅのーっ」
『尚更却下である』
「幼児相手に何本気になってんだ、てめーは」
『ぎゃふっ!?』
突っ込みと共に日向君は叩く訳でもなく、蹴る訳でもなく。突進しやがりました。何この新ジャンル体罰。予想外です。
突然襲われた衝撃から持ち直して現状を確認してみると...。
...いや、ちょっと待って下さいよ。
突進しやがったという言葉は訂正します。コイツ、ベッドに不法侵入しやがった...!
ちょっ、待って下さい本当に。一つのベッドにこんなに人が入るものじゃないですってば!
触れてるとか生半可なものでなくて、これ。密着して...っ!
『はんにゃっ!?ちょっ、待っ!?』
「お前、本当は覚えてるのか」
『はえっ?え、ちょ、本当、待って下さいよ!ちち、近す...っんきゃぁ!?』
「逃げるんじゃねぇ。全部忘れてるなら、あんな台詞はでない筈だ。...答えろ。由香」
そう問い詰める日向君の姿は、真剣そのものなのに。
辺りが夕焼け色で染まっている中、間近で見るその赤い瞳はよく映えるなぁ...だなんて。そんな、場違いな事を考えてしまいました。
息をする事すら忘れてしまいそうな程、綺麗で...?
あれ、何だかおかしいです。
この状況に、妙な既視感を覚えるというか。
前にも、こんな事があった気がするような...。
『日向君...あの、私...』
「...う~っ」
『え"。ひひ、聖君っ?何で、泣いて...っ』
「ねーちゃ、本よんでくれな...っうぇ」
「...ガキ泣かせてんじゃねーよ」
『えぇぇえー...』
確かに、いつまで経っても絵本を読まなかった私にも非はあるんでしょうけど。
果たしてこれ、私だけのせいなんでしょうか。連帯責任じゃないですか?これ。
納得出来ず、思わずブーイングしてしまったのですが...。
「あ?文句あるのかよ。紐 パ ン」
『いえ、全く。
文句ないので、せめてベッドの真ん中ポジションは私でなく聖君と交代させていただきたいので...いえ!いえ、何でも、何でもないですよ...きっと空耳です』
結論。結局落ちはこうなるのである。
猿山ボスがお決めになった事は、もう変更不可なのです。
有り得ないほど密着している現状に納得している訳がありません。この事が彼のファンクラブ会長の耳に入りでもしたら...私、確実に消される。
それでも...仕方がない。その一言で片付けるしかないのです。理由は相手が日向君だからで、十分。
傷心に浸りたい思いでいっぱいな所、反対側のチビッ子が今度は猿山ボス直伝の罵倒を浴びせてきました。
これぞまさしく、泣きっ面に蜂であります。
内心どころか本気で泣きたい思いで、私は絵本に手を伸ばしたのでした...。