恋はするものではなくて、
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*
『かなめ?私。入るよ』
「また来たの?今授業中の筈でしょ」
『私はいいの。優秀だから。ほら、かなめ。病人だからって、勉強サボってないでしょうね?』
「全くもう...ズルいなぁ」
『体よく宿題をお姉様方に押し付けてる子が良く言うわよ』
一度足を踏み入れたら最後。成人するまで、外の世界からは一切遮断されるのがここ。アリス学園。
不満を感じる事は勿論あるけれど、閉鎖的な場所なだけあって施設は充実していると思う。
最先端を行くであろうこの病院に、私はしばしば訪れていた。正確には、かなめの所に。
「また新しいお花持ってきてくれたんだね。ありがとう」
『殺風景なお部屋だからね。ないよりはマシかと思って』
ここへ来る度に花瓶の花を取り替えるのは、私の生活にとっては日常の一部。
それから当たり障りない会話をして、時々この子の勉強の進み具合を見たりする。
いつものように教科書を開かせようとしたのだけれど、今日のかなめは少し違った。
「翼がね、」
『...!』
「...よくお見舞いに来てくれるんだけど、その花も見てくれるんだよ。いつも」
『そう、なの?』
「不思議なんだけどさ。花を見るって言っても、僕の目がない隙に盗み見る感じなんだよね。何でだと思う?」
『し...っ、知らないわよ、そんなの
』
「ふふ...っ、分かりやすい性格してる。本当に」
顔にカッと熱が集まったのが分かる。
安藤翼の話が急に出たからじゃない。...あからさまな反応はしてしまったけど。
何故なら今、明らかに私を笑ったのだ。
睨むようにしてかなめに顔を向けると、あぁ、やっぱりそうだ。
笑みを含んだその顔は、明らかに何かを企んでいた。
病弱という煩わしい部分さえも己のスキルに変えて、相手を意のままに動かしていまう計算高さがこの子にはある。
自分の容姿も自覚しているからこそ、尚更タチが悪い。
知っているのだ。自分の魅せ方を。
『何が言いたいのよ、かなめ』
「僕が...僕さえ、こんな体じゃなければ、翼とはもっと違う形で会えたのかもしれない」
『それ...私の事言ってるの?』
「...危力系にだって、行くことにならなかったんじゃ」
『やめて。
私が自分で決めた事だから、もうこの話はしないって約束したでしょ』
我ながらズルいと思う。
"約束"を一方的に押し付けて、いつも何か言いたげなかなめを見ないフリしてるんだから。
でもそうしなきゃ、誰がこの子を守るっていうの。
生徒なんて、学園にとっては使い捨ての駒。私が危力系を離れたら、またこの子に任務を強要するのは目に見えてる。
これは私の選んだ道。後悔はしていない。していない筈だったのに。
何の巡り合わせだったのか、痛いくらいのあの真っ直ぐな瞳に出会ってから...胸が、いつも苦しい。
『そんなに分かりやすいのかしら...私』
「結構新鮮だよ。翼って名前を出すだけで挙動不審になる姿は」
『面白がってるなら怒るわよ、かなめ』
「ううん。むしろいい事だと思ってるよ。そのまま自分の気持ちを大事にしてくれていいんだよって、背中を押せたらいいのに...。
出来ないんだよね。僕のせいで、」
『それ以上言っても怒るから』
「...ありがとう。僕の事、一番に考えてくれてるのは分かってるつもりだよ」
懲罰がきっかけで出会った安藤翼とは、きっともう交わる事はないだろう。
かなめの友達をやっているというヒイキ目もあるかもしれないけど、彼はそこまで馬鹿ではないと思う。
これからは罰を受けることなく、もっと上手く切り抜ける筈だ。
それに...。それに、彼の隣はもっと別の女の子の方が似合う。そう。今日見掛けたような、あんな女の子が。
ちょっと気は強そうだけど、彼がまた暴走しないように正しい道に引っ張っていってくれそうだ。
だから、これでいいんだ。今のこの現状が私に出来る最善。
心の中で何回もそう言い聞かせる度に、胸がズキリと痛んだ気がした。
「困らせてごめん。約束も守るようにするから...一つだけ、お願いがあるんだ」
『...お願い?』
この時、かなめの企みがまだ続いてたなんて誰だったら想像がつくの。
私は一生、この子には敵いそうにない。