止まない雨はないように、
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『佐倉さんっ、あなた一体何処まで奥へ突き進むつもりなんですかっ?これ以上行ったら、多分高等部に辿り着きますよ!』
「だ、だって由香ちゃん~...っ!アイツ、すばしっこいねん。捕まえられへんよぉ~...っ」
えぇい、泣くんじゃありません。うっとうしい!
ウザいと言って、バカン砲を常に撃ち放っている今井さんの心情が少しばかり分かった今日この頃。
そんな私こと早瀬由香。
只今佐倉さんと一緒にゲロゴミ箱を捕獲する為、北の森を奔走中です。
何でそんな事をやっているのかと言いますとですね。ちょっと話はさかのぼりまして...。
時間軸は、アリス祭がようやっと終わって間もない頃。
普段HRにすら来ない担任が朝っぱらからやって来て、妙な胸騒ぎがしたのを覚えています。
その人はいつもの笑顔を張り付けて、こう言いました。
「遅刻は遅刻だよ。蜜柑ちゃんに由香ちゃん」
「『え』」
「う、ウチ、今日は遅刻なんてしてへんで!鳴海先生!勿論、由香ちゃんもや!」
「アリス祭の開会式」
「『!』」
「僕の言い付けをしっかり忘れて遅刻しちゃってたみたいだねー?見てたよー?うふふ」
「うぐぅ...」
『うふふって...』
「遅刻の罰則は、二人共勿論知ってるよね?じゃっ、早速今日の放課後宜しくね!あでゅー」
以上、ここまでに至った回想終了です。
『というか、性格曲がってようがオカマだろうが、まず第一にあの人、男でしょうがよ。うふふという笑いが似合っちゃうのは何なんですか。どうなんですか。
私は罰則よりもその事実の方がそら恐ろしいわ!』
「あのぅ...もしかしなくても、由香ちゃん大分疲れてへん...?」
『いえ。獲物を完璧に見失なったせいで、ちょーっとイラッと来ているだけですよ?
ふふ、ふ...。ゴミ箱の分際でゴミを食べるの嫌だとか。ゴミ箱の分際で人間様にここまで手間をかけさせるんですからね』
「ちょっとどころか、大分根に持っとる!?」
平々凡々な日々を望む身としては、ブチ切れるという行為をしたくないんですけどねぇ。後が面倒くさ...いえ、トラブルにでもなったら大変ですし。
けれど、そんな私をここまで本気にさせたんです。えぇ。ここは容赦なく殺らせてもらおうじゃないですか。
『...ちく...してやる...!』
「え」
『この世から、一匹残らず!』
「由香ちゃん一回落ち着いて!?別の物語が始まってまうわ!」
おっと興奮しすぎたあまりに、とある年の流行語を口走ってしまったようですが。
奴らを駆逐しない限り、私達に安寧な日々が来ないのですよ。佐倉さん。
家畜は家畜らしく、私達人類に支配されて生きるがいいわ。
「由香ちゃん由香ちゃん!ホウキはそんな竹刀みたいに持つもんじゃあらへんで!」
『これが!私の武器です!』
「ちょっと由香ちゃん、ホンマにえぇ加減にした方がえぇで!?」
『むっ、あっちの茂みが今揺れましたよ!?まだ逃げるか待ちやがれこの野郎!』
「何なんや...何なんやこの展開...あんまりにもとんでも過ぎて恐ろしいわ...って!由香ちゃん、ちょっと待ってや!何か落とし...!」
佐倉さんが何やら呼び止めていましたが、オールスルーです。
全ては人類の勝利の為に、いざ。
『駆逐...!?って、あれ』
私の武器(竹ホウキ)を振りかぶった所で、違和感に気が付きました。
獲物、やけに小さくありませんか?しかもニィニィと鳴くかん高い声も、ゴミ箱とはまた違う物のような...。
『猫...?』
茂みをそっとかき分けた中に隠れていたのは、猫でした。まだ小さい。
ニィニィと鳴き止まないのは、多分怪我をしているからでしょうか。真っ白な毛色をしているのに、後ろ足だけ赤く染まってる。
....。
こんなに、不安げに鳴いているのに。呼んでいるのに。
『...おかあさん、は?』
この時、私は佐倉さんの呼び止める声を流してしまった事にとても後悔する。
ゴミ箱探しで興奮し過ぎたせいか。自分が言った言葉に動揺してしまったせいなのか。
大切な落とし物をした事に気が付けなかった私は、子猫に触れた瞬間に意識を飛ばしてしまった。
辺りは雨。冬が近づいてきているこの季節の雨は、とても冷たい。
けれど、体はとても熱い。焼けてしまうと錯覚する程に。
雨で視界が悪い中で映る景色は森。なのに周りは赤く染まってる。
そう。私の、血肉で。
(どうして)
(どうして、)
温かい存在だった。お腹が空けば乳を飲み与えてくれて。足に怪我をしてしまったせいで外敵に襲われそうになった時には、その牙で。爪で。いつでも私を守ってくれた。
なのにどうして。どうしてそれが、今。
私に全て向けられているのだろうか。
絶望的なまでの恐怖感のせいで、悲鳴は引きつって上げる事すら叶わない。
体が喰い破られる激痛は、本当は燃えているのではないかと疑う程に熱い...!
....雨は止まない。止んでいない筈なのに、さっきから音が全く聞こえない。雨に打たれる感覚すらない。緑の匂いがする森にいる筈なのに、もう何も見えない。
全ての感覚は急激に遠のいて、そして...。
「...ちゃん。由香ちゃん!!」
『...ッ!?』
「どないしたん?やっと追い付いたと思ったら、目ぇ開いて固まったままやし...」
『...佐倉、さん...?』
「?せやで。ウチ、さっきから何度も呼んでたんやけど...。あ、由香ちゃん。さっきこれ落としていったで」
『...!』
そう言って手渡された物を見た瞬間、全身が粟立つ感覚を覚えました。
....アリス制御装置。先を急いでしまったせいで、何処かで引っ掛けて落としてしまった上にその事にすら気付けなかったみたいです。
だとしたら。だとしたらさっきの私は、気を失ったのではなくて。
制御装置も無しに、子猫に触れてしまったものだから。
私は、視てしまったんだ。しかもそう遠くない出来事。この子が...
「あぁーっ!?子猫やーっ!可愛いーっっ」
『ひ...っ!?』
認めたくない現実のせいで体が震えだしてしまった、ちょうどその時。
佐倉さんの声で、一気に最悪な思考の波から引き戻されました。
「この子、ケガしとるっ。血が...っ」
『...佐倉さん。もう行きましょう。私達が居たら、母猫が警戒して戻って来られません』
「でもずっと鳴き止まへんのに、ひとりにするのは可哀想や...」
『佐倉さん...っ』
「なぁ、せめて怪我だけでも手当」
『駄目っ!!』
どうやら私は、自分が思うよりも相当気が動転していたようです。
張り上げた声は、こだまでも返ってくるんじゃないかと思う程に辺りに響いてしまいました。
「どないしたん、いきなりっ。そないに声上げたら、子猫もびっくりする...」
『やばい...!』
「え、何がヤバいん?なぁ、由香ちゃん、聞いとる?」
そう。これは...まずいかもしれない。
今の声を聞いて、もし母猫に感付かれてしまったら?子猫の傍らにいる私達の姿を、見てしまったのなら。
それ以上は考えたくなかった。あまりにも恐ろしくて。でも今すぐにこの場を立ち去って、姿を見られなければ間に合うかもしれない。あんな未来は、無かったことに出来るかも。
とにかくここを離れようと、佐倉さんの腕を引っ張って走り出そうとしたら...振り払われました。
そこでようやく気が付いたんです。一人で結論付けた仮定を、何一つ説明していないことに。
「由香ちゃんがさっき落としてったそれ...確か前に、制御アイテムって言っとったな?」
『あ...』
「由香ちゃん...視てしもうたん?この子猫の...」
佐倉さんの、その時の瞳の色は。
きっと忘れることはない。そう、思った。
「だ、だって由香ちゃん~...っ!アイツ、すばしっこいねん。捕まえられへんよぉ~...っ」
えぇい、泣くんじゃありません。うっとうしい!
ウザいと言って、バカン砲を常に撃ち放っている今井さんの心情が少しばかり分かった今日この頃。
そんな私こと早瀬由香。
只今佐倉さんと一緒にゲロゴミ箱を捕獲する為、北の森を奔走中です。
何でそんな事をやっているのかと言いますとですね。ちょっと話はさかのぼりまして...。
*
時間軸は、アリス祭がようやっと終わって間もない頃。
普段HRにすら来ない担任が朝っぱらからやって来て、妙な胸騒ぎがしたのを覚えています。
その人はいつもの笑顔を張り付けて、こう言いました。
「遅刻は遅刻だよ。蜜柑ちゃんに由香ちゃん」
「『え』」
「う、ウチ、今日は遅刻なんてしてへんで!鳴海先生!勿論、由香ちゃんもや!」
「アリス祭の開会式」
「『!』」
「僕の言い付けをしっかり忘れて遅刻しちゃってたみたいだねー?見てたよー?うふふ」
「うぐぅ...」
『うふふって...』
「遅刻の罰則は、二人共勿論知ってるよね?じゃっ、早速今日の放課後宜しくね!あでゅー」
以上、ここまでに至った回想終了です。
*
『というか、性格曲がってようがオカマだろうが、まず第一にあの人、男でしょうがよ。うふふという笑いが似合っちゃうのは何なんですか。どうなんですか。
私は罰則よりもその事実の方がそら恐ろしいわ!』
「あのぅ...もしかしなくても、由香ちゃん大分疲れてへん...?」
『いえ。獲物を完璧に見失なったせいで、ちょーっとイラッと来ているだけですよ?
ふふ、ふ...。ゴミ箱の分際でゴミを食べるの嫌だとか。ゴミ箱の分際で人間様にここまで手間をかけさせるんですからね』
「ちょっとどころか、大分根に持っとる!?」
平々凡々な日々を望む身としては、ブチ切れるという行為をしたくないんですけどねぇ。後が面倒くさ...いえ、トラブルにでもなったら大変ですし。
けれど、そんな私をここまで本気にさせたんです。えぇ。ここは容赦なく殺らせてもらおうじゃないですか。
『...ちく...してやる...!』
「え」
『この世から、一匹残らず!』
「由香ちゃん一回落ち着いて!?別の物語が始まってまうわ!」
おっと興奮しすぎたあまりに、とある年の流行語を口走ってしまったようですが。
奴らを駆逐しない限り、私達に安寧な日々が来ないのですよ。佐倉さん。
家畜は家畜らしく、私達人類に支配されて生きるがいいわ。
「由香ちゃん由香ちゃん!ホウキはそんな竹刀みたいに持つもんじゃあらへんで!」
『これが!私の武器です!』
「ちょっと由香ちゃん、ホンマにえぇ加減にした方がえぇで!?」
『むっ、あっちの茂みが今揺れましたよ!?まだ逃げるか待ちやがれこの野郎!』
「何なんや...何なんやこの展開...あんまりにもとんでも過ぎて恐ろしいわ...って!由香ちゃん、ちょっと待ってや!何か落とし...!」
佐倉さんが何やら呼び止めていましたが、オールスルーです。
全ては人類の勝利の為に、いざ。
『駆逐...!?って、あれ』
私の武器(竹ホウキ)を振りかぶった所で、違和感に気が付きました。
獲物、やけに小さくありませんか?しかもニィニィと鳴くかん高い声も、ゴミ箱とはまた違う物のような...。
『猫...?』
茂みをそっとかき分けた中に隠れていたのは、猫でした。まだ小さい。
ニィニィと鳴き止まないのは、多分怪我をしているからでしょうか。真っ白な毛色をしているのに、後ろ足だけ赤く染まってる。
....。
こんなに、不安げに鳴いているのに。呼んでいるのに。
『...おかあさん、は?』
この時、私は佐倉さんの呼び止める声を流してしまった事にとても後悔する。
ゴミ箱探しで興奮し過ぎたせいか。自分が言った言葉に動揺してしまったせいなのか。
大切な落とし物をした事に気が付けなかった私は、子猫に触れた瞬間に意識を飛ばしてしまった。
*
辺りは雨。冬が近づいてきているこの季節の雨は、とても冷たい。
けれど、体はとても熱い。焼けてしまうと錯覚する程に。
雨で視界が悪い中で映る景色は森。なのに周りは赤く染まってる。
そう。私の、血肉で。
(どうして)
(どうして、)
温かい存在だった。お腹が空けば乳を飲み与えてくれて。足に怪我をしてしまったせいで外敵に襲われそうになった時には、その牙で。爪で。いつでも私を守ってくれた。
なのにどうして。どうしてそれが、今。
私に全て向けられているのだろうか。
絶望的なまでの恐怖感のせいで、悲鳴は引きつって上げる事すら叶わない。
体が喰い破られる激痛は、本当は燃えているのではないかと疑う程に熱い...!
....雨は止まない。止んでいない筈なのに、さっきから音が全く聞こえない。雨に打たれる感覚すらない。緑の匂いがする森にいる筈なのに、もう何も見えない。
全ての感覚は急激に遠のいて、そして...。
*
「...ちゃん。由香ちゃん!!」
『...ッ!?』
「どないしたん?やっと追い付いたと思ったら、目ぇ開いて固まったままやし...」
『...佐倉、さん...?』
「?せやで。ウチ、さっきから何度も呼んでたんやけど...。あ、由香ちゃん。さっきこれ落としていったで」
『...!』
そう言って手渡された物を見た瞬間、全身が粟立つ感覚を覚えました。
....アリス制御装置。先を急いでしまったせいで、何処かで引っ掛けて落としてしまった上にその事にすら気付けなかったみたいです。
だとしたら。だとしたらさっきの私は、気を失ったのではなくて。
制御装置も無しに、子猫に触れてしまったものだから。
私は、視てしまったんだ。しかもそう遠くない出来事。この子が...
「あぁーっ!?子猫やーっ!可愛いーっっ」
『ひ...っ!?』
認めたくない現実のせいで体が震えだしてしまった、ちょうどその時。
佐倉さんの声で、一気に最悪な思考の波から引き戻されました。
「この子、ケガしとるっ。血が...っ」
『...佐倉さん。もう行きましょう。私達が居たら、母猫が警戒して戻って来られません』
「でもずっと鳴き止まへんのに、ひとりにするのは可哀想や...」
『佐倉さん...っ』
「なぁ、せめて怪我だけでも手当」
『駄目っ!!』
どうやら私は、自分が思うよりも相当気が動転していたようです。
張り上げた声は、こだまでも返ってくるんじゃないかと思う程に辺りに響いてしまいました。
「どないしたん、いきなりっ。そないに声上げたら、子猫もびっくりする...」
『やばい...!』
「え、何がヤバいん?なぁ、由香ちゃん、聞いとる?」
そう。これは...まずいかもしれない。
今の声を聞いて、もし母猫に感付かれてしまったら?子猫の傍らにいる私達の姿を、見てしまったのなら。
それ以上は考えたくなかった。あまりにも恐ろしくて。でも今すぐにこの場を立ち去って、姿を見られなければ間に合うかもしれない。あんな未来は、無かったことに出来るかも。
とにかくここを離れようと、佐倉さんの腕を引っ張って走り出そうとしたら...振り払われました。
そこでようやく気が付いたんです。一人で結論付けた仮定を、何一つ説明していないことに。
「由香ちゃんがさっき落としてったそれ...確か前に、制御アイテムって言っとったな?」
『あ...』
「由香ちゃん...視てしもうたん?この子猫の...」
佐倉さんの、その時の瞳の色は。
きっと忘れることはない。そう、思った。