act.10
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*
寮までの帰り道。
もうそれなりに遅い時間なのですが。辺りにはまだ、蛍光灯の明かりがチラホラと見えました。
きっと誰かがまだ、文化祭の準備をしているんでしょうね。
この景色を見ると、文化祭はもう目の前だなぁとシミジミ思います。
気合いを入れ直して頑張らねばと、一人意気込んでいた所。
乃木君がそういえば、と思い出したように呟きました。
「ミュージカルの衣装合わせの時、早瀬随分慌ててみたいだけど…どうかしたの?」
『あー…』
何を隠そう、それが冒頭のちょっとした事件なんですよね。
それは…
『乃木君。ちょっとそこにならえ』
「え…なに、突然」
『いいから。ちょっと姿勢を正して後ろ向きになって下さいな』
言葉の意図が分からず、戸惑っていたようだけれども。
乃木君は、シャンと背筋を伸ばして回れ右してくれました。
うむ。素直で大変よろしいです。
私も背を向けて、背中同士をぴったんこ。ちょっと背比べしてみました。
どうしてか乃木君は慌てふためいてましたけど。…何故?
「な…っ!?何だよいきなりっ!」
『…やっぱり』
「何がっ」
『…背』
「せ?」
『伸びてる。乃木君の身長』
何となく、そうなんじゃないかとは思いました。
だって乃木君の衣装合わせをした時、明らかにドレスの裾の長さが足りなかったんですよ!
採寸した時のサイズ通り、衣装作った筈なのに…!
文化祭が目の前に迫っている今、これはちょっとした事件だったのです…私にとって。
「えっと…何か、ごめん?」
『あは。んーん、全然。やっぱり男の子は違うなぁって、感心したよ』
「…!」
語尾に疑問符を付けながら小首を傾げる姿に、思わず笑ってしまいました。
…それにしても。
こんな短期間で身長が伸びるなんて、驚き桃の木です。
女の子とは勝手が違うというか…。
『乃木君って、将来背高くなりそう。そしたらもっと…って、乃木君?』
「……っ」
何故だか乃木君は、顔を手のひらで覆ってそっぽ向いてしまいました。
え、何だなんだ。どうしたって言うんですかいきなり。
顔をのぞき込もうとしたら、
「見るなよ!」
『ひ…っ!?』
「あ…!違うよっ。怒ってるんじゃなくて…っ。…その」
突然の怒鳴るような声にビックリしたあまり、思わず泣きそうになってしまいました。
慌てて乃木君がそれを否定したけれど。
ちょっと遅かったと言うか…。
「………」
『………』
あっという間に気まずい空気になってしまいました。
よく分からないけど…知らない内に、私地雷踏んじゃったんですね。そうなんですよね!?大変申し訳ありませんでした!
頭の中では謝罪の言葉がスラスラ出て来るのに、何故か口は開いてくれません。
まるでのどに石が詰まったみたいに、重くて。
…ヤバい。なんだか本気で泣いてしまいそう。
その時、乃木君がボソッと何か呟きました。
「……だ」
『え…っ?』
「だから…その。…嬉しかったんだ」
『……?』
ごめんなさい乃木君。
尚更、意味が分かりません…。
それを知ってか知らずか、乃木君は言葉を続いてくれました。