act.3
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*
『ぁ、あの…安藤先輩?』
「んー?」
『その、わざわざ送ってくれて、ありがたいんですが…その』
「その?」
『何も手まで繋ぐこと無いんじゃないんですかね』
保健室までの道中。
結局、安藤先輩が送ってくれてるわけですが。
何故か、手をしっかり捕まれている状況です。
やんわりと手を繋ぐことに抵抗してみたら。
何とまぁ、先輩は意地悪そうな笑みを浮かべて。
「何だ?いっちょ前に照れてるのか?」
『なっ!ななな…っ』
「(ななな?)というか、捕まえとかないと、お前逃げそうだし」
『…そんなこと』
ありますが何か?
こんな所誰かに見られでもしたら、またかっこうなネタにされて目立つ…っ。
あぁ聞こえてきそうです。
人の不幸を蜜の味のように楽しむ、私とは席が隣同士の、あの人の笑い声が!
神経がすり減って、胃がキリキリ痛む中、安藤先輩がポツリ、ポツリと。
何かのお話を始めました。
「…結構、前のことなんだけどさ」
『…?』
「飼育当番で北の森に行った時、その日は雨が降っててさ」
『はぁ…』
「怒鳴るような声出さなきゃ話も出来ないくらいに、すげー雨だった」
『………』
「そんなどしゃぶりの雨ん中でさ。泣いてた奴が、いたんだよ。
まるで泣き声隠すみたいに。…すげー、泣いてた。
その日からさ。雨が降る度に、そいつの事が頭の中でちらつくんだよ。
雨ん中で、また泣いてやしないかとか。思ったり、した。
お前の事だろ?由香」
投げかけられた疑問は、確信めいたものでした。
…覚える。
初めてこの学園に来たあの日は、どしゃぶりの雨だったから。
『…よく私だって分かりましたね。というか、よく見つけましたね』
「目いいもん。俺」
『………』
「まぁ。何があったかなんて、敢えて聞かねぇけどさ。この学園にいれば色々あるしな」
『…はい』
「今日、お前に…由香に会えてやっと安心したよ」
『安心…?』
言葉の意図が分からなくて、先輩の顔を見上げると。
夕日で赤く染まった先輩が私を見て、優しく笑ってくれました。
「笑ってたからさ」
『…!』
「笑ってる方がいいぞーお前。折角可愛いんだからさ」
…あのどしゃぶりの雨の日。
凄く、心細かった。
ひとりが、どうしようもなく怖かった。
でも。
「でもどうしようもなく泣きたくなった時はさ。
そうだな…ベアの小屋にでも行けよ。時々俺そこにいるからさ。…って」
『…うぅ~~っ』
ひとりぼっちの私を、見つけてくれた人がいた。
「おい、泣くなってば!大げさな奴だなーっ」
『ず…ずみまぜ…』
「…ったく。最初からこうやって、誰かに泣きついときゃいーんだよ。…んで」
思わず出た涙は、中々止まってくれなくて。
安藤先輩は、制服の袖でそれを拭いてくれました。
「泣いた分、次は笑っとけ。…な?」
涙を拭いてくれた手は、少し乱暴だったけど。笑った顔は、凄く優しかったです。
はいって、笑って返事をしたら、また涙がポロッと出たけれど。
もう、涙は止まっていたんだ。