♯３

「…何でこうなる」



その台詞は、この短時間で一体何度目になった事でしょう。

岬先生が苛立たしげに呟いた言葉は、食事の席の空気を重くする一方です。

只今私こと早瀬由香は、メガネを壊されたお詫びとして、セントラルタウンのお食事処にて夕食をゴチになってます。
鳴海先生、岬先生も一緒です。

そんな流れで今ここにいるのは、何ら違和感なんて無いじゃないかと思っているそこの貴方。
違うんです。大問題なんです。
それは…



「まぁまぁ岬先生、そんなに怒らないで～っ
だって教師と生徒が一緒にセントラルで食事だなんて、バレたら噂の対象になりかねないでしょ？
そうなったら、由香ちゃん可哀相じゃん」

「いや、だからと言ってだな！アレを使うのは、既に禁止されているのに…！」

『ご、ごめんなさい、岬先生。私、本当に知らなくてっ。
いえ、知らなかったなんて言い訳、何の弁解にもならないですけど…っ』

「早瀬…。いや、そもそもは鳴海がだな」

『本当にごめんなさいっ！』

「あーあー、それ以上プンプンしてると、きっと由香ちゃん泣き出しちゃうよ～？」

「う…っ」



まるで他人事のようにニヤニヤしている鳴海先生は、後で半殺しにするからいいとして。

とりあえず、さっきからループしている会話の内容と、この重い空気から抜け出したい…！

岬先生を見上げることなく、同じ高さの目線で先生を見つめ、(嘘)泣きで落とそうと目論んでみます。

…そう。
目線が、同じ高さなんです。

私の外見は今、先生達と年齢差が大差ないであろう成人女性の姿をしているんです。



「いや…っ。別に早瀬を責めているつもりは…すまない」

「確かに言われてみれば、あれってちょっと前に販売が禁止されたんだっけね～。そうだったそうだった。
まっ、バレなきゃ大丈夫でしょ！」

「鳴海はもっと反省しろ…」



岬先生はまだ反論したいことがあったみたいですけど、さっきよりは落ち着いてくれたようです。

うん。
(嘘)泣き落とし作戦、成功です！



『まぁ…確かに噂されるのは嫌ですけど。だからって手段を選ばないで、禁止されてるガリバー飴を使っちゃうのは私も正直どうかと…』



でもそれを本気で知らなかった私が、ぶっちゃけ一番どうかと思うけどな！

だけどそれは言わない。
私は悪くない。

ガリバー飴を仕掛けた当本人は、何を言われても気にする様子もなく、あっけらかんとしてます。

…気にしてないんでしょうね。実際。



「え～？細かいことは気にしないで！
折角由香ちゃんのこと、綺麗にメイクアップしてあげたんだからさ！」

『うぅ…っ！き、気にしないようにしていたのに…っ！』



隠しても無駄なのに、思わず手で顔を覆ってしまいました。

ガリバー飴によって…いや、鳴海先生の罠にはまり、すっかり大きくなってしまった私は。

訳が分からないまま、服をはじめ、髪に到るまで全身を鳴海先生によってコーディネートされてしました。

女子力がアップするであろう、キラリとした髪飾りも装着させられ。
トドメと言わんばかりに、最後にはメイクまで…。