act.22
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*
長年積もりに積もった思いを伝えられたからなのか。お手上げな状態で私にバトンタッチされてきた葵ちゃんは。
落ち着きを取り戻したのか、ひとしきり話を交わした後、鳴海先生の言うことをすんなり聞いて退室されていきました。
じゃぁ私こと早瀬はもう少し休ませていただきましょうかね。むしろそうしたい。そう思っていたのに。
「じゃぁえっと、由香ちゃん?ちょっとした確認作業があるんだけど」
『え』
「無問題だよ!すぐ終わるからね、多分!」
『いやいやそれ結局どっちなのかよく分からないんですけど』
「うーん、だって正直由香ちゃん次第な所もあるから。じゃぁまず初めはね…」
この人…生徒だと思って、拒否権はそうそう発動できないとタカくくってやしませんかね…?
*
「由香ちゃんも、学園へ来る前に火事に遭ってるね。偶然なことに」
『あぁ…はい。そうですね。偶然なことに』
「その時の事を詳しく教えて欲しくて」
『………』
「由香ちゃん?」
『…それが』
花姫殿の地下。あの場所であれ程に頭が痛んだのは、すっぽり抜け落ちてた記憶が戻る前兆だと…そう、思っていたのですけど。
『何故か断片的にしか、思い出せなくて…』
「それは…逆に思い出せたことがあるという事なのかな?」
『そう、ですね。全てではないですけど。
…あの日。私は確か、逃げ遅れたんです。気が付いたらもう火の手が回っていて…。それを助けてくれたのが…そう。オトウサン。…的な人で、』
「的な人って何…?」
『ちょ、絶妙に微妙な顔しないで下さいよ…!言ったじゃないですか!色々断片的なんですって!』
おそらく真面目な雰囲気であろう中、滅茶苦茶変顔されてしまいました。
私の発言も曖昧過ぎるからいけないんでしょうけど、だからってそんな突っ込みおもむろに入れますか普通…!?
『私的には、父親ポジションの人だったんですけどね。でも自分はオトウサンではないと』
「ふぅん…?だから的な人っていう事なの」
『話がそれましたね。その人が助けに来てくれた時…他に誰か、いた気がするんです』
「自然に考えると…それはお母さん?」
『いえ。ハハオヤではないのだけは確かです。だけど…そこだけは、どうにも思い、出せなくて。そこで二人は言い争っていたような気もしますけど…分かりません。
気が付いたら、病院で。オトウサンは多分大怪我をしました』
「どうしてそうだと?」
『ストレッチャーで運ばれている誰かを見たハハは、泣き叫んでいましたから。その後の経緯は…ご存知ですか?鳴海先生』
「…全ては、おそらく知らない。勝手だけど…聞かせてもらってもいいかな」
正直、本当に勝手な人だなと思いました。
この場所へ来た時、私がどれ程打ちのめされていたのか、担任という立場にいた人が知らないわけじゃないだろうに。
でも。それでも。今になって向き合おうとするのは、先生の中でも何かが変わってきているからなのでしょうか。
『じゃぁ…その火事の件、被害状況は知っていますか?』
「街は全焼してしまって怪我人も多く出たけれど…亡くなった方はいなかった筈」
『そうです。あと…行方不明になった人が、いるんです』
「え…!?それって…」
『大怪我をした筈なのに…治療中、忽然と居なくなってしまったんです。…私のオトウサンは』
「そんな事が…」
『オカアサンはその時…まぁ、色々とタガが外れてしまったといいましょうか。
私の事を散々死神扱いしたものですから。チチオヤは死んでしまったものと、今まで刷り込まれていたのですけど。
理屈はさっぱりなんですが。今回の花園の件で、チチは行方不明扱いだと思い出すに至りまして、』
「由香ちゃん」
『その後の事は、学園からの調査で鳴海先生も知ってると思いますよ。ハハオヤから身体的に精神的に、責めぬかれてしまって…一緒には居られなくなってしまい。アリス持ちだったので、これ幸いとばかりに早々に学園の手続きを、』
「由香ちゃん!」
『…へ』
「もう…いいよ。…話してくれて、ありがとう」
ごめんと呟いたその言葉は、消え入りそうな程に小さいものだったけれど。
腕を引かれて、抱き寄せられてしまったせいで、耳に届いてしまいました。
…本当、つくづく勝手な人です。知らんぷりかと思っていたら、今になって後悔ですか。
そう、憎まれ口のひとつやふたつ、言えれば良かったけれど。
『…記憶って、やっかいですね。嫌な思い出だけ、忘れられればいいのに。
大切だと思うものと、複雑に絡んで…苦しい』
「…そうだね。僕も、そうかもしれない」
『苦しいけど…大切で。もう、忘れたくはないから。こうして、口にするのは貴重な機会だったかもです。だから鳴海先生、謝らないで下さい。…ありがとう、ございます』
「僕の方こそ…ありがとう。由香ちゃん」
憤っていた筈なのに。気が付いたら感謝の言葉を口にしていたなんて、何だかおかしな話です。
今より小さかった私は、親と絶縁されて。世界はそれで終わってしまったと思っていたけれど。
世界ってそれだけではないと、この学園生活で色んな人たちが教えてくれたように。
鳴海先生にも、もしかしたらそう思えるきっかけがあったのかもしれない。
それが今こうして、私と向き合ってくれる事に繋がっているのなら。それは嬉しい事だと。そう、思ったのです。
いつもおちゃらけているこの人の心に。少しだけ、触れられた気がしたから。
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