act.22
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*
そして頭痛は止まなかったりします。警鐘のようにガンガン響いて。まるでこれ以上進むと、核心に迫るような危険を感じるのです。
進むと真実がうんぬんとか、我ながら意味不明支離滅裂です。それでも行きたくない…ような。
「女官さん?もしかして、具合悪いですか?」
『…え。それはまた…何故』
「何だか足取りが重たいし…息、荒くなっている気がして」
『息荒いとか…私不審者みたいですね…すみません』
「え!?ごめんなさい、そんなつもりで言ったんじゃ…!」
きっとおそらく美少女であろう子の隣で息が荒いとか。はたから見たら、まさしくそれじゃないです…?失態です。これからはしっかり頭痛薬常備しましょうそうしましょう。
「私、ただ心配で。本当にだいじょう…」
『…!少し、静かに。…何か聞こえませんか』
「え…?」
前方から、人の声が耳に届きました。鳥目という状態異常中ですからね。この分聴覚は敏感になってます。多分ですけど。
距離があるのか、話の内容は聞き取れませんでしたが…。複数いるようです。何かを言い争っているような雰囲気が伺えました。
『何だか不穏な感じがするので…ここは少し、様子を見てから、』
「そこにいるの…蜜柑ちゃん?それとも…仮面の君?」
『私の話聞かない感じですね。分かりますそれが最早通常運転』
「由香ちゃん、あんたいつの間に何処行ってたん!?なんで葵ちゃんと…!」
『その関西な雰囲気のお方は佐倉さんですか。じゃぁ無事合流出来た感じですかね』
「アホかーー!今まさに大ピンチと対峙中やねん!!」
『なにぶん、判断要素が音声のみだと状況判断が鈍くて…今どういう状況ですか』
本当、行動するに至るまでワンどころか何テンポも遅れてしまうので。この暗いと見えない状態異常。
フラッシュ覚えた電気タイプのポケットな獣連れてきて下さいよ。誰か。
「由香と一緒にいるのって…まさか…!」
「葵…!」
呟くような流架君の声は、表情が見えなくとも驚いているのは分かりました。
そして知らない名前を呼んで、こちらに駆け寄る足音の主は多分日向君です。そんな声が聞こえましたから。
見知らぬ美少女の名前は葵さん、なのでしょうか。
「だ、だれ。あなたは…誰…?」
「……っ」
「思い出して、葵ちゃん…!棗は、葵ちゃんの大事なお兄ちゃん…!」
『思い…出す…?…う』
「…由香?どうしたの。もしかして具合悪いの」
止まない頭痛に思わず頭を抱えると、そっと肩に手を置かれた気配がしました。いつの間にか流架君が隣にいたみたいです。
思い出して。
その言葉は、何故だか自分の中にも強く響く感覚がしました。
恐怖と、絶望と。その事実と一緒に、私は大切だと思った何かすら忘れてしまった気がする。
「…とんだ番狂わせだな」
ゾッとするような冷たい声と、ドサリと誰かが倒れたような音が聞こえたのは同時だったと思います。
「佐倉、由香、首…っ」
『…っ!?』
流架君の言葉の意味を理解する前に、チクリとした痛みが来る方が先でした。
その次の瞬間には、自分もドサリと倒れこむ羽目になりました。全身が、痺れたような感覚が…。
「心配ない。しばらくの間、体の自由がききにくくなるだけだ。ご苦労、八雲」
『八雲、先輩…?』
「……」
聞き慣れない成人男性であろう人の声は、最近顔見知りになった八雲先輩の名前を呼んでいました。
じゃぁこの痛みは、先輩の虫のアリス…?本当、鳥目のせいであまりの状況把握のしづらさに腹立たしくなってきました。頭も変わらず痛いってのに…!
「おいで雪葵。そいつ…棗はお前の視力と記憶を奪った張本人だ」
「…逃げろ、葵」
冷たい人から出た言葉は、それこそ冷たく恐ろしく聞こえました。身動き出来なくなるような。
そこからまるで守るかのように体感したのは、暖かさ。そして辺りが明るくなったのは、きっと日向の炎のアリスなのでしょう。
対峙している誰かがこちら側へは来れないよう、炎の壁で阻んでいるように見えました。…そして。
全くもって話の流れが分からないんですけど。…とか言えません。流石に。
「あの時の約束は、今度こそ果たす。何があっても、お前を守る。お前をもう、一人にしない」
「…おにい…ちゃん」
『お兄ちゃん…?約、束…。…なつめ、くん…?…ぐ、ぁっ!?』
「由香…っ!?」
「ちょっと…どうしたのよ。しっかりして、由香」
『う…っ!』
周りの話す声ですら、痛みに感じる程に頭痛が強くなってきたんですが…!
痛い痛い痛い…!急に何だっていうんですか一体!
それと同時に、言い争うような声が激しくなったような気がしたのですが…。よく、分かりませんでした。あまりにも激痛だったので。
痛みに果てがないと思っていたら、誰かの声が頭の中に直接響くような感覚がしました。この感じは…いつか。何処かでもあった気が…。
"…もうこれ以上"
『…!?』
"憎しみにまかせて、その手を汚すのはおやめ……"
『この、声…っ!』
ズキズキとした痛みに合わせているみたいに、視界がチカチカするんですが…!
それでも声の主を確認したくて、歪んだ視界を凝らした先には…佐倉さんがいました。強いアリスを発動したのか、白い光に包まれていて。その光の中に、
『ゆき兄…!』
痺れの抜けない手を必死に伸ばすと。ぼんやりと見える懐かしい人の姿は、こちらを見て。笑った。ような気がした。