act.22
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*
夜の奇妙なハイテンションは継続中であります。
「ベッドがこれだけのクオリティなんだ。他のアメニティも凄いんじゃね?」
『成る程、一理あります…!』
「こりゃ見てみるしかないっショ!」
『おーっ』
何だかハイになる余り?に、先輩の語尾が別キャラみたいになってしまったようですが。正直関係ないですね。
こんな場所に入れるだなんて、恐らく今後もないでしょうから。いっそのこと、探索しまくってやろうじゃありませんか。
*
『星階級が上の方のお部屋を見るのがこんなに楽しいんだなんて、思いもしませんでした…』
「だな」
『しかも誰かが使ってる訳じゃないから、遠慮なんていらないですし』
「確かに!それ重要だわ」
『お風呂も凄かったですねぇ。入れないのがもったいないくらいです』
「何なら一緒に入るかー?」
『え…っ。ちょ、な、はぁ!?』
テンション上がりすぎてよく分かっていなかったのですが。多分、私うっかり失言してしまったのだと思います。
せめて華麗に流せれば良かったんですけど。普通に無理でした。
この密着状態が続く中、一緒にお風呂とか。うっかり想像してしまったせいで、顔に熱が一気に来た感じがします。いや、絶対してる。
「…わり。流石に悪ふざけしすぎた」
『そんな神妙な顔で先輩謝らないで下さい!?空気が一気に微妙になってしまう…!』
「いや…蛍ねーさんに後で何言われるか考えたら…」
『よくよく考えてみれば、こんな夜に騒いで怒られないですかね…その。隣の部屋の主に』
『「………」』
「…今日はもう寝るか」
『寝…っ。は、はい』
「ちょ…っ。由香そういう反応ヤメテ。恥じらうみたいな。気にしないように意識そらしてたのに、一気にクる…!」
『?それって、さっき心読み君達が初夜だって言ってたのと関係ありますかね』
「あ"ー!初等部の純真な眼が俺もう怖い!何か俺うっかりやらかさないよな…!?頼むぞ俺…っ」
急に頭をかきむしるようにして発狂した安藤先輩は…そうですね。
触らぬ神に祟りなし。的な。そっとしておくのが、無難です。多分。
日中はそれこそ色々あってお互い疲れているので、早く寝付けるといいのですが。
*
「…眠れないのか?」
『すみません…起こしちゃいましたか』
夜も更けてどれくらいたったでしょうか。さっき変なフラグを立てたせいで、案の定眠れないでいると。
静まり返った空気の中、安藤先輩の声が背中から届きました。
流石に向かい合って寝るのはあれだったので。背中同士が引っ付いた状態で、今は休んでいます。
この体勢に持っていくまで、非常にシュールなもちもち粉との戦いがあったのはまた別のお話です。
「うんにゃ、俺も寝てなかったから別にへーき。眠れないんだったら、何か飲み物でも入れるか?」
『や、大丈夫ですよ。そこまでしなくとも』
「そっかー?別に全然構わないけどな」
『先輩。前々から思ってたんですけど。大分過保護ですよね』
「由香は保護者がいっぱいいるなぁ。何だかんだ、お前危なっかしい所あるもんなー」
『うぐ』
反論したいのに、色んな方からお叱りを受けている事を考えると。つまりはそういう事なのでしょうね…。だが認めませんけど。何か。
「それで?良い子はもう寝てる時間なのに、何で由香は眠れないわけ」
『えーと…ほら。あれですよ。枕が変わると眠れない的な』
「お前嘘下手くそだなー。出任せ言うんだったら、もっと堂々としてないと駄目だぜ」
『先輩が一体全体、どういったアドバイスしてんですかそれ…!あと、嘘では、』
「嘘ではないけど、本当の事も言ってないって所だな。これは」
『な…っ、なん、で』
「先輩なめんなって。これでも数年は長生きしてるから、色々分かることもあるワケ。お分かり?」
『一気に年寄り感が』
「あんまふざけてると、無理矢理抱き締めて寝かし付けるぞ。そんなに話そらすって事は、何か心配事か?」
途中、不穏な言葉が混ざってた気がしますけど。さっきうっかり失言してしまったのもあるので、敢えて突っ込まない方向にしました。
もう、ここまで確信をもって聞いてくるのなら素直に吐いた方が良さそうです。
『妙な夢を見てしまったのが、やけに気になって。眠りたくないというか』
「何だそれ?ゾンビに追いかけられるとか?」
『それ、妙っていうか普通に怖くないですか。上手く言えないんですけど…前にも体験したことがあるような、リアルな感じだったいうか。既視感が凄くあって…』
「夢って、脳が体験したことを整理するために見るとも言うしなぁ。案外、実際あった事を夢に見たとか?」
『実際にあったこと…赤目の幼女に遭遇したのが…?』
「言い方がそれこそ奇妙過ぎて、どんな夢見たのか俄然気になってきたんだけど。幼女…?」
もし、本当にそうだとしたら。それは学園へ来る前の話になって来るわけなのですが。
「まぁ要するに、由香よりチビっ子っつー訳だろ?普通に考えて、初等部A組の子とか」
『大きな川が側にあったので、多分。外…ここへ来る以前にあった出来事だと思う…のですが』
「?なんだよ」
『今更ですけど。こんな夜中に(何時か知らないけど)たかが夢のお話に、付き合わせてしまって申し訳が…』
「だってその夢が気になって寝付けないんだろ?由香が眠れるまで付き合うって」
『で、でも。安藤先輩も少しでも休めるようにもうお休みなさいした方がいいんじゃ、』
「あー、いいのいいの。オトコノコの事情っていうやつもあるから。どの道寝付くのムズいし」
『何ですかそれ?』
「別に教えてもいいけど…。お前、いかんせん無防備過ぎるし。自衛の為に敢えて言うのもアリだと思うわ」
『はぁ…』
「はぁってこっちが言いたいわ!全く…もういいわ。それで?赤目の幼女の話はもういいのか?」
別に教えてもいいから一転、もういいと自己完結するのは一体何なんですか。
疑問は残りますけど、何だか色々はっちゃけてしまった今夜。色々ついでに吐き出してしまうのも、ありかもしれせん。
『流れで言っちゃうんですけど。私、学園へ来る以前の記憶って曖昧な所があるんですよね。だから余計に気になるのかもしれません』
「今日宿題忘れちゃったんだよねー、みたいな軽いノリで言う台詞かそれ…!?」
『ごめんなさい例えがよく分からない』
「よく分からないのはこっちの台詞だっつーの!何でそんな事になってんだよ」
『当人からしたら、それはこっちが聞きたいですよ。でも、ごく一部の記憶だと思います。学園に行く事になった経緯辺りが、自分の中ですっぽり抜けてるので』
そして断片的には、朧気に思い出せるのです。白衣の格好をした人達が、慌ただしく行き来している様子。成人女性…多分、母親の怒鳴り声。罵倒。
あまり良い出来事では無かったな、というのだけは。何となく。
『まぁ…日常生活に支障はないので』
「だからってちょっと普通じゃないぞ、その状態…。何かストレスを強く感じたとか…あとは、事故とかか?」
『事故って…。………っ』
「お、おい?由香?」
熱い。火。燃え広がる。怖い。苦しい…。
何故かそんなワードが頭をよぎりました。
何となく、辛い記憶だということは分かっていたんです。だから思い出さないようにしていたのに。どうして今になって、昔の夢なんて見てしまったんでしょうか。いえ、どうしてだなんて。それこそ何となく、分かってる。
『思い出したくなんか、ないのにっ。でも一緒に何か大事なことも、忘れている気がして…っ。でも。でも、辛かったのは覚えてるから。思い出すのが、こわ…っ』
「お前ちょっと落ち着けって!」
『ぐげ!?』
『「………」』
「わりぃ。力が入りすぎた…」
『こ、腰が…っ』
ちょっと我を失って泣き出した私を何とか落ち着かせようと、試みてくれたのでしょう。もちもちの粉効果が継続している中、無理矢理振り向かせようとしたみたいで。
結果上手く動けず、あり得ない感じに体がねじれました。雑巾かよ。
『私の上半身と下半身の可動域をなめてるんですか…?自分よりガキだったら、体柔らかいという偏見をお持ちなので…?』
「だから悪かったって!」
『大分腰が痛むんですけど…っ。腰が痛む初等部生って一体何者なんですか…っ』
「ほんとごめんって!な?」
今だ続く痛みに対して、この先輩謝罪が軽いんですけど。とは、思っても言えませんでした。私も数ページ前で、心のこもってない謝罪をしたばかりなだけに。
「んー…じゃぁ、痛めた所よしよししてやるから」
『断ります』
「即答かよ」
『それよりも無理矢理体勢変えたせいで、向かい合わせになっちゃいましたけど。戻しませんか』
「まぁ…別にこのままでいいだろ?だってお前まだ腰痛そうだし。あともう正直、どっちとっても俺の悶々は変わらんだろうし」
『後半の理由はよく分かりませんが、私の気の持ちようは変わるんですけど…?』
「もーいいから寝ろ。腰痛めたついでに、頭も少し冷えただろ」
何だか自暴自棄になってしまった安藤先輩に、背中をぽんぽんと撫でられました。幼児扱いですかそうですか。
こちらとしたらですね。先輩の熱だとか。体に触れられてる感触。距離がゼロだから、普段気にもしない息づかいなんかも耳にダイレクトに届いて。
どぎまぎしてしまってるというのに…!
「よしよし。まだ痛むか?」
『子供扱い…っ』
「ん…?大人扱いされたいのか?」
『それって初夜とかってやつですか?』
「このタイミングでそれぶちこんでくるの、最早流石だわ…。意図的な何かすら感じる」
もういいから明日に備えて寝ろと。勝手に自己完結されて以降、先輩は全くお話ししてくれなくなりました。
ただ背中をとんとんと優しく叩く手は止まらなくて。子供扱いされるのが、残念なような。ほっとしたような。奇妙な気持ちでした。
寝かし付けるような優しい手のお陰で、夢に囚われずにようやく眠れそうです。