act.19
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「おーい!キューティーピュアパープルーっ!お前の探し物、クリスマスツリーの所にあるってよー!」
ホール中に聞こえるんじゃないかと思うぐらいの、シリアスな空気を見事粉砕してくれたKY先輩の大声がとどろいたのは。つい先程の事でした。
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『うーん...』
そんな朗報を聞いた私こと早瀬由香は。今現在、ツリー前で腕を組んでそれを見上げていたりします。
それにしても、KY先輩に良識ある先輩が居て本当に良かったです。
あそこで個人名を出していたら、大目立ち確実でしたからね。敢えてあんな言い方をしたのは、多分ルイおねーさんのはからいなのでしょう。
場所を教えてくれた八雲先輩にも、お礼を言わなければと思ったん...です、けど。
『大分...いえ。かなりデカいツリーですね...』
ツリーの真下に位置するここからでは、てっぺんのお星さまが確認できないほどに。
ツリーの所と一言で言うけれど...ケチをつけるつもりではないのですが、それは一体どの辺りの事を言っているのでしょうか。さっぱり分からん。さぱらんってやつですね。でも多分、場所的にツリーの何処かに飾られてしまったのではないかと思われ。
ならばここはひとつ。
『登るか』
片付けの時に見付け出すという選択肢もあったのですけれど。先輩方が折角協力してくれたのだから、意地でも見つけ出さないと気がすまないといいましょうか。
幸い、周りはパーティーに夢中でツリーに登ろうとする不審者なんて目にも入っていない様子ですし。あんまりソワソワキョロキョロすると逆に怪しまれそうですし、堂々と登ってやろうじゃありませんか。
*
私こと早瀬由香。実は運動神経はさほど悪くはないと自負しています。ただ反射神経に難ありなので、イマイチさほど悪くない能力を発揮できないのですが。
でもこれは、ただの木登りですからね。反射神経なんて関係ないからスイスイ行っちゃいますよー。もう少し上まで登れちゃうんですから。うなれ私の運動神経!
...そうやって調子に乗ると、大抵手痛いしっぺ返しをくらうものです。
そう。手を伸ばした先に、ぐにゃりと何かをわしづかみしてしまった感覚がしたのは。そのすぐ後の事でした。
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「......」
『すみませんでした』
ツリーの上で土下座をかます羽目になるだなんて、誰が想像出来たでしょうか。
リズムに乗りながら登っていたら、間違えて幹ではなく日向君をわしづかみしてしまったようです。この静かな怒りよう、一体何処をつかんでしまったというのか...。
「......」
『あのあの海よりも深く反省しておりますのでっ。それはもう。だから無言で炎を出さないで貰えますか...っ!』
こんな足の場が悪い所でぶっぱなされたら逃げ場などありませんから、直撃は避けられないでしょう。
その上に落下して大勢の視線を集めてしまう事は必死。ヤバい。想像だけでも羞恥で死ねますコレ。
「人混みが嫌なら普通に部屋に帰れ」
『や、正直そうしたいのは山々なんですけど。探し物をしていて...あれ。日向君、私が人混み苦手なのどうして知って...』
「こんな所に登って探し物なんか見つかるかよ」
『今日も華麗なスルー力ですね分かります。それが、ツリーの装飾と間違えられて飾られたのかもしれなくて...あっ、そういえば。日向君って、陽一君と同じ能力クラスでしたよね?』
「......」
思い返せば、ドッジボール事変辺りから日向君に目を付けられて以来。何かと関わる機会があったせいか、例え彼が口を閉ざしていても何を考えているのかある程度分かるようになりました。
というかこの顔は、つい先程の私もやっていましたね。いつの事かって。あれです。佐倉さんが来た時ですよ。
もうお分かりですよね。
めっちゃ面倒くさそうな顔をされました。けれど何だかんだ言って面倒見が良いのを知っているから、ここは一つ甘えてしまいましょうか。
「蹴り落とすか」
『そうしたら死因は、蹴り落とされたショックによる羞恥心にしてもらってもいいですか...あ、ちょっと。ゴミを見るような目するの止めて下さい』
*
「...ここら辺にはねぇ」
『そうですか...。もっと上の方なんでしょうか...』
同じ能力クラスなら、陽一君の持っていたぬいぐるみがどんな物か見たことがある筈。そんな結論に至った私こと早瀬は、日向君にちゃっかり捜索を手伝っていただいております。
え、面倒事を連れてくるのは私も一緒だと?いえいえ。元手を辿ると、事の発端は佐倉さんですから。断じて私がトラブルメーカーなど。
「片付けの時には見つかるだろ」
『そう思ったんですけどね...私も。でもそのぬいぐるみは、ハハオヤから貰ったものと聞いたので...早く手元に戻った方が安心するものかと』
「...そうかよ」
『もう少し上へ行って見渡したい所ですけど。後の事を考えるとむやみに登れませんね...あ、あれ、日向君?』
「だからっていつまでもダラダラ探してんじゃねーよ」
『でも、そんな上の方へ登ると危なくないですか...っていうかまだ手伝ってくれるんですか?』
「あぁ?テメー誰の所為だと...」
『そもそも巻き込んだの私でしたねぇ!も、見つかったあかつきには何なりとわたくしめにご命令を下さい本当すみませんお手数かけて!』
「チッ...」
悪態を吐きつつ、更に上へ登って捜査範囲を拡大してくれた日向君は...面倒見がいいというのもあるんでしょうけど、何だかんだ言って優しいんですよね。
本当にごめんなさい。
その身軽さ、流石猿山のボスとか思ってしまって。
この失礼千万な思いは、誰にも打ち明けず墓の中まで持っていこうと...。
「おい。...おいテメー聞いてんのかよ、バカその2が」
『あっつ!?すみませんごめんなさいうっかりして聞き逃したのは悪かったですけど、だからってここでアリス使うのは大惨事になるんじゃ...!』
「そこ」
『へっ?』
「お前の足元の枝の先」
『え...あ。もしかしてあれがそうですかっ?』
上へと気が取られがちになっていましたが。灯台もと暗しとはまさしくこの事ではないでしょうか。足元よりも少し下の方へ伸びていく枝の先に、少しくたびれた感じのくまさんが引っ掛かっていらっしゃいました。
枝の先端へ行くにつれ、太さが頼りない気がしますが...思ったより近い場所で発見できたので、何とかなりそうな気がします。
『ありがとうございます、日向君。後は私が』
「おい、待...」
『大丈夫ですよ、思ったより高い場所では無かったので。行って戻ってくるくらいは...っ!?』
「由香!」
*
「...?」
「ちょっと何サボってんのよ、蜜柑」
「あいたっ!誤解や蛍~っ!何かツリーの葉っぱがユラユラ揺れた気がしたように見えたんやけど...。風もない場所なのに何で...ハッ!まさかお化けとちゃうやろか!?」
「どうして一人でそこまで自問自答して盛り上がれるのかしらこの子は」
「もしそうやったらどないしよー蛍ーっ!」
「あーはいはいタノシイタノシイ」
「話を聞けーっ!」
*
「...待てって言っただろうが。この消し炭が」
『本当...日向君には、重ね重ね大変なご迷惑を...あっ、とりあえずぬいぐるみは確保出来ましたよっ。だから、炎は出さない方向で!ねっ』
「今すげー出したくなった」
『口は災いの元!』
探し物を見つけられて、気が急いてしまったのでしょうか。
うっかり手を滑らせてしまい、あわや大惨事になる前に。どうやら日向君が、奇跡的に私をナイスキャッチしてくれたようです。
えぇ。少しばかり、一緒に空中散歩(落下ともいう)を楽しみましたがね!
周辺の木の枝や葉が大きく揺れてしまい、下にいる人達に不自然に思われてしまったでしょうか...。
「てめーいつまで抱き付いてるんだよ。痴女が」
『重ねに重ねてしまって、本当に申し訳無いのですが...』
「あぁ?」
『思ったよりも高い所まで登っていたのを目の当たりにしてしまって、動けません』
「...」
『本っ当に...すみません...』
無言の呆れた空気が、痛いです。罵倒してくれた方が数倍マシでした。いえ、決してそういう事されて喜ぶ属性という訳ではなく。
今現在の体勢は、日向君を押しつぶしてしまっているので心苦しくはあるのですけど。ちょっと恐怖感が勝ってしまい、腰がすくんでしまって身動きがとれません。
「はーー...」
『ごご、ごめんなさい、重いですよね...もう少ししたらちょっとは高さに慣れると思うので、はい。多分動け...』
「消し炭は物を考える脳まで炭なのかよ」
『え、それ単細胞以下です?』
「この体勢で危機感すらわかねぇって言うなら...分からせてやる」
『え...日向く...っ?ひゃっ!?』
更に詳しく明記するのであれば、向かい合っている体勢なんですよね。ちょうど私の首元に日向の頭があってこそばゆい感じなのですが。落ちたくない恐怖感のせいで、がっちりとその頭を両腕でちゃっかり抱え込んでしまっていたりします。
そのフサフサとした髪の毛が首元を撫でるようにして急に動いたので...はい。やっぱりくすぐったかったです。
『あぁの、あのっ。日向君、何、して...っ。く、くすぐった...!』
「...それ、本当にくすぐったいのかよ」
『え?それってどういう...ふぁっ!?』
「...」
意図せずに変な声が上がってしまって、思わず口元を手で覆って隠したのですが。
日向君は特に気にしている様子は無かったので、それは良かったんですけど。さっきから首元に当たる柔らかい感触がおさまる気配が無いので、凄く、困るというか...っ。いえ、困ります...!
『あの...っ、日向君、それっ。止めて、くださ...っ』
「その割には、俺の頭抱えて離さないじゃねーか」
『これは...っ、ちが...っ。やっ、日向く...っ』
「...」
『...っ!?日向君、あのっ、本当に待っ...!ひぁっ』
首元の感触がゆるゆると降りていって、胸元辺りにまで至った所で急によく分からない警鐘が頭をよぎりました。これ以上は踏み込むと、戻れなくなるような確信がありました。
でも、変なんです。言葉では拒否しているのに、体には全く力が入らず言うことを聞いてくれなくて。このままこれが続いたら、一体どうなってしまうんだろうと不安になった頃。やっと日向君の動きが止まってくれました。
『は...』
「...分かったかよ」
『へぁ...?』
「考え無しですり寄って来ると、どんな目に遭うか分かったのかって言ってるんだよ」
『......ん?え、はい?えっと...』
「...チッ」
『(うわ、分かってないって悟られた...!)ごご、ごめんなさいごめんなさい!今、今ちょっと頭を整理してですね、はい!考えますから...!』
「もういい。これでも分からねぇって言うなら...オシオキだ」
『は、はい?...っ!?
痛ぁーっ!!』
*
「え、ちょっと何よ今の大声...」
「パーマも聞こえたん?いきなりだったからビックリしたわー」
「方向的に...もぐ、ツリーの辺りね。むぐ」
「蛍、食べるのか喋るのかゴミ集め手伝ってくれるのか、どれかにしてくれへん...?」
「っていうかあの声、早瀬さん...じゃ...」
スタッ
「「「...」」」
『え...?えと...その...はは。どうも...?』
気がつけば、独特の浮遊感を味わった後、地上へ生還していました。冷静に考えてみれば、私が暴れたせいで落ちたのだろうと思い至れたのですが。
ぶっちゃけなくても、その時は冷静になんて考えられなかったです。
何故なら今現在の私こと早瀬は、日向君に横抱きされてるなう。
しかも大声を上げた後の奇抜な登場(木の上から着陸)のせいで多くの視線がこちらへ集中しているという、いらないオマケ付き。
そして何より。この人。落ちる直前何しました?人の首に、噛みついて来たんですけど!?人間にそんな所を噛まれるとか。普通に衝撃的で、頭が真っ白で...。
『そして更に痛いっ!?あ、あの日向君...っ。降ろす時は急に手を離さずにせめて一言お声かけを...っ』
「知るか。てめーこそ、その公害レベルの無防備さ、いい加減なんとかしろ。馬鹿由香」
『え、あっ、あの、ちょっと待っ...!』
「ねぇちょっと早瀬さん?詳しく話を聞 か せ て ?あはっ、お姫様抱っこされちゃってたのも気になる所だけど。ねぇ?木の上で棗君と二人きり、何 し て た の ?」
「パーマの、パーマの髪がうねっとる...!!」
『ひぃ...っ!』
とんでも爆弾を投下しておいて見捨てるとか。この鬼畜野郎が!マジで止めろよお願いですから!!
『あぁの、あのっ。とりあえず、とにかくっ。正田さん、落ち着いて、下さいっ。ねっ?話せば分か...っ』
「だったら早く訳をこと細かく話さんかぃぃぃ!どうやったらあんなオイシイ展開になるのよ羨ましい!!」
『きぃやぁぁぁーっ!!やだ怖い石化するうぅぅぅ!』
「パーマちょぉ落ち着いて!せめてその無駄にビームが打てそうな勢いの光った目ぇ何とかしてくれへん!?割りと由香ちゃんの石化発言シャレにならんから!!」
「何これ当事者だったら面倒くさいことこの上ないけど、外野として見る分には凄く面白いわね」
早々に切り捨て発言をして離脱した今井さんの一方で。
トラブルメーカーの彼女が珍しく仲裁に入ってくれたおかげか、事態の収拾へと事なきを得ることが出来ました。
や、トラブルに巻き込まれてる時点で、佐倉さんのある所、常に面倒ごとありという事には変わりませんが。
どうして私、こうも一々騒動に巻き込まれてしまうんでしょうか...。まさか、まさか私も、佐倉さんと同じ類いだと?そうおっしゃりたいんですか?
クリスマスとかいう聖なる夜の日。くたばれ神様と、ロマンの欠片もない悪態を一人胸の中で吐いてやりました。