act.19
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「こんな所で何してるの?由香ちゃん」
『あれ...鳴海先生?』
「ここは舞台袖だから、あんまり気軽に入られると困っちゃうんだけどな~っ」
どうやら捜索に夢中になるあまり、奇妙な所に入り込んでしまったようです。軽くたしなめられてしまいました。
袖の向こう側からは人の気配が絶えませんが、誰かが容易に入ってくるような場所ではなさそうです。
そんな場所で、今は鳴海先生と二人きり。...これは。いつか聞こうと思っていた事を聞く、いい機会なんじゃないでしょうか。
「まだクリスマスパーティーやってるんだからさ。こんな所にいないで、由香ちゃん楽しんできたら...」
『鳴海先生』
「ん?なーに?」
『私、先生にずっと聞きたいことがあったんですけど』
「...それは、今じゃないとダメかな?」
『はい...出来れば』
「うーん...」
『...?』
確かに気軽に入っていい場所ではないというのも、あるのかもしれないのですが。ここから早く出て行って欲しい空気をそこはかとくなく感じます。
そんな鳴海先生の格好は...変です。いえ、衣装の事でなく。体勢と言うべきなんでしょうか。片腕を隠しているように見えるのですが...。
「仕方ないなぁーっ。じゃぁ1つだけね!僕のスリーサイズか、誕生日か、あとは好きな食べ物...」
『いえ、そういう類ではなくて』
「えー?」
『おちゃらけたって駄目です。いい機会ですからはっきりさせて下さい。私のアリス制御装置...眼鏡って、一体どうなったんですか』
「あちゃー...とうとう聞かれちゃったかー。答えなくちゃダメ?」
『可愛く言っても駄目ですね。答えて下さい』
お忘れの方もいるかもしれませんが。私こと早瀬は、制御装置の眼鏡を着用していたんですよ。
それが諸事情で踏み潰...いえ。壊され...いえいえ。壊れてしまい。その修理の手続きを、鳴海先生が買ってでてくれたのですが。今だにそれが手元に戻ってきていないのです。
「由香ちゃんには悪いと思ったんだけどね...実はね、修理になんか出していないんだ」
『それは知ってます』
「あれ」
『子供だと思ってなめないで下さい。親が身近にいない私達は、どうであれ一番近くにいる大人を頼りにしているんです。見ているんですよ。ちゃんと』
「もしかして...由香ちゃん、怒ってる?」
『あはは、嫌ですねー。前期試験で先生宛てに書いた、愛溢れる手紙を読んでも怒っていないとどうしたら思い至れるんですか?』
「うんごめん由香ちゃん。僕が悪かったからちょっと1回落ち着こう?」
色々と思い返す程に、こう...。イラッとするものが、沸き上がってくるような感覚がします。
今更焦ったって遅いです。ここまで先伸ばしにしていた罰ですよ、これは。少しは良心が痛めばいい。
「由香ちゃんに怒られそうだからずっと言えなかったんだけどね。君の眼鏡だった制御装置は...今は、ここに」
『え...っ。これって、鳴海先生がくれた髪飾りの制御装置...』
「うん。粉々になったレンズの部分をね。この髪飾りに使わせてもらったんだ」
『...どうして』
「え?」
『どうして、黙ってこんな事...』
鳴海先生がそっと手を伸ばした先には、髪飾りがありました。それと一緒にふわふわと頭を撫でられる感覚がします。
この人はこういう所がずるいと思います。いつもはふざけているくせに、何処か優しい一面を見せるものだから。憎めないのです。
「由香ちゃんって、眼鏡をかけて周りの全てをシャットアウト!な所があったから」
『それは...否定、できないですけど』
「何とか出来ないかなーって思った矢先に、タイミングよく岬先生がそれを踏み潰してくれてね。でも、だからと言って制御装置無しは流石に可哀想だったから。僕好みのアクセサリーに生まれ変わってもらったって訳」
『私に何の了承も無しにですか』
「いやだって。事前に説明したら絶対拒否するでしょ」
『それは...っ。そう、ですけど...』
「ごめんね?」
『そんな茶目っ気たっぷりに言わないでもらえますか...っ』
成人男性のくせに異様に似合う所がまた、非常に腹立たしいですから。
そうかと思えば、誰にも言わずに使っていた制御装置の事を何故かこの人だけは目ざとく知っていたり。
普段はあんななのに、実際は1枚も2枚もうわ手なのを目の当たりにすると...。はい。やっぱり腹立たしい事に変わりはありませんでした。
「由香ちゃんってば、そんなむくれっ面しちゃってー。ほーら、笑って笑って!クリスマスパーティーはまだこれからなんだからさ!」
『つまり出ていけって事ですね分かりました。ずっと聞きたかった事も、かーなーりロングパスでしたけど答えが貰えたので。そうさせていただきます。はい』
「ちょっと由香ちゃんやさぐれすぎ!別にそこまでは言ってないでしょー?」
『でもなるべく早く向こうへ戻って欲しいと思ってる。...ですよね?』
「...どうしてそう思うのかな」
『顔、こわばってますから。具合が悪いようなら誰か人を呼びましょうか?』
「...!」
能面のような笑顔が気持ち悪いから。とは、流石にみなまでは言いませんでした。
鳴海先生が嘘をついたり、何かを誤魔化す時は決まって、うさんくさい笑顔なんですよね...。だからこそ逆に分かりやすい時があるんですけど。
「由香ちゃん...そこまで察することが出来るなら、それを自分に向けて欲しいかなー?何度も倒れる前にさ」
『何度もご迷惑を掛けてすみませんでしたぁ!あと一応心配して言ってるんですけど!?鳴海先生!』
「少し、人混みの中にいて疲れたみたいなんだ。ここで暫く休めば大丈夫だよ」
『・・・・・・』
「あ、由香ちゃんが何考えてるのか、僕分かりそうだなー」
うさんくさい。
今の心情は、その一言に尽きます。だってあの鳴海先生が、人混みで疲れたって。有り得ないでしょ。
え、失礼だって?何を今更。むしろこれが通常運転でしょう。
「ねぇ、由香ちゃん。この1年で、君は本当に成長したね。こういった場所に出てこられるようになったのを、僕は嬉しく思うよ。だから今日は楽しんでおいで?僕は大丈夫だからさ」
『(ゴミ集めを楽しめってか)...鳴海先生。私、言いましたよね?』
「何をだい?」
『子供はちゃんと大人を見ているって。だから鳴海先生が今、嘘をついているのか、そうでないかぐらい...』
「由香ちゃん、」
『...失礼します』
これ以上この場にいると、どうしようもない事で怒ってしまいそうなので。何か言いたげな先生を置いて、ホールに出てきてしまいました。
そう。どうしようもないですよね。私は、子供ですから。頼って貰えないのも。心配させまいとしたのか、また嘘をつかれたのも。仕方のないこと...。
『やっぱり鳴海先生は...腹が立ちます』
でもこの気持ちは、それとは少し違うような気がしました。悔しいような、悲しいような。ムシャクシャした気持ち...。
とりあえず当て付けに、岬先生にチクって後で様子を見に行ってもらおう。そう思いました。
大人だったら。どうしようもない事を、どうにかしてくれるでしょうから。
それが出来るのは私ではないのだと思った時。やっぱり腹立たしかったです。