act.18
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ジャンピング土下座なんて初めてやりました。多分。あれって実は高等技術なんですね。膝を負傷しました。
何でそんな事やる展開になってるんだって。それこそ今の展開からお察し下さい。そしてそんなのやるんじゃなかったと後悔しています。
人混みの中で、それはあまりにも目立ちすぎました。
これで日向君が折れてくなかったら、私気合いで穴掘ってました。絶対。そして蓋をして...。
『あ痛っ』
「何グズグズしてるんだ。さっさと選べ」
『は...はい...』
クリスマスプレゼントをまだ用意していなかったという嘘っぱちな理由を付けて、今現在は適当なアクセサリー店にて足止めしているんです...けど。
プレゼントなんて、もうとっくに準備済みであることがバレた日には私...跡形も残らないのでは...?
恐るおそる日向君の様子を伺ってみましたが、幸いなことにそんなフラグはまだ立っていないようです。
普通に目ぼしいものが無いか物色中のお客さんにしか見えませんから。
でも...何やら視線は、とある一点の場所にとどまっております。それとなく横目で確認してみたら、それは花柄のヘアピンでした。言うまでもありませんが、女の子用の。
「......」
そういえば、いつだったか。佐倉さんが、おめかしして女装する日向君の姿を妄想していただかと心読み君が言いふらしていた時がありました。
当時はアホかの一言で一蹴して、気にも止めていなかったのですけど。
...いやいや。まさか、そんな馬鹿な。佐倉さんの突拍子もないイマジネーションが現実になるとか。そんなホラーよりも恐ろしい展開が起こる訳が...
『さっきよりも倍痛い!?』
「テメーさっきから選ぶ気あるのかよ」
『エ!?えーーっと、ちょっと、分かんないですね、こういうのって!難しいとイウカ!?』
「知るか。俺はもう帰る」
『ひぇっ!ちょっ、待って下さ...!』
「あ?」
『何でもございません』
先程よりも手痛い突っ込み(物理)をいただきました。
日向君相手に女子の買い物に付き合って☆だなんて、そもそも難易度の高いお願いだったかもしれません。
そしてこれ以上引き留めるのは難しそうというか、もう無理です。彼の、あ?の一言で心が折れました。
普通に恐ろしいです。謙遜なしで、微生物辺りなら殺せる程の睨みでした。
大して時間は稼げなかったので、後の展開が憂鬱ではありますが。
後々の身の心配よりも、今の命の方が大事ですよね。
慌てて日向君の後を追い掛けようとしたのですが、さっきまで日向君が見ていたアクセサリーにふと目がいきました。
佐倉さんにもその姿を目撃されている辺り...もしかして、何かしら思う所がある物だったりするんでしょうか。
『うーん...』
*
「アンタって本当に役に立たないわね!」
『痛い痛い痛いです!出会い頭一番、暴力反対ですよ正田さん!』
「アンタがもうちょっと上手く時間稼ぎやってくれてたら、こうはならないわよ!おかげで飾り付け終わらなかったじゃないの!」
『こっちは精神的にも削がれる突っ込み(物理込み)を甘んじて受けたのに!理不尽です!』
「正田、落ち着けって!棗にプレゼント渡してくるんだろ?」
「いやん、そうだったわ!な、つ、め、く~ん!」
『捨てられた...なじるだけなじって、捨てていかれた...』
「何かごめん、早瀬...」
乃木君が同情の声を掛けてくれたのですが。それなら正直言って、正田さんの手綱の方をしっかり握っていて欲しいものです。
彼のアリスを発揮すれば、猫体質(アリス)の正田さんなんてどうとでも御せるもんだと私は信じています。えぇ。勿論、当人には口が裂けても言えない案件ですがね。
『ところで、さっきから他の人たちもプレゼントがどうとか何とかって言ってるけど。何事?前倒しクリスマスプレゼント?』
「早瀬の発想って、いつも突拍子ないよね...本当に」
『めっちゃ呆れた顔してるけど、ここはポジティブに誉め言葉として受け取っておくよ。乃木君!』
「うん、そうして。プレゼントはね。棗が誕生日だからなんだ」
『乃木君のスルースキルって、前にも増して磨きがかかっ...え、誕生日?』
「正確には、もう過ぎちゃってるんだけどね。色々あって、バタバタしてたし...。だからせめて今からでも、お祝い出来ないかと思って」
『...っていう集まりなんだ...皆』
「いや...少し、ううん。大分私欲にかられた人達の集まりというか...」
日向君よりも一足先に急いで帰ってきたせいなのでしょうか。息切れしながら、誕生日会の飾りつけをしている年配組...げふんげふん、いえ。担任の先生と、その腐れ縁...いえいえ。岬先生の姿もあります。
クラスメイトばかりでなく、安藤先輩の姿も。皆、日向君の為に誕生日プレゼントをサプライズで用意してたんですね...。
無断で彼の部屋でお祝いしている辺り、不法侵入ではありますが。
しかもここ、階級がスペシャルの生徒に割りふられる部屋ですよね。なのに鍵とか一体どうなってるんですか。
寮のセキュリティに不安を覚えた今日この頃...でなくて!
『なな、何で誕生日の事を言ってくれなかったの、乃木君...っ!』
「やっぱり聞いてなかったんだ...。一応説明したんだけどね。セントラルへ一緒に付いてきてもらう前に。でも、魂抜けた感じだったからさ」
『だって現にそうだったもの...!でも、だからって、そんな大事なこと...っ』
「物凄い勢いで現実逃避してたからさ。何かもう、放っておくのも優しさかなって」
『乃木君のスルースキル、本当に高すぎるでしょ!?え、というか、皆プレゼント準備済みなのに私だけ手ぶらとか。当人に見つかったら何とおっしゃるか...!どどどうしよう。私、今からでも、』
「おい。バカその2。テメーが用意したのはねぇのかよ」
『......』
「...言っておくけど、今フラグ立てたの早瀬だからね」
何というスーパードライですか、乃木君。そう突っ込みを入れたかったけど、事実なだけあって言い返せやしません。
まさかこんなにすぐ渡す事になるとは予想外ですけど...仕方ありません。出しておきましょう。この流れで何かひねり出しておかないと、空気読めない人として社会的にも抹殺されそうな気がしますし。
『...これ』
「あれ、早瀬さっき用意出来てないような事言ってなかった?」
『誕生日プレゼントというか、その。今日無理やり付き合わせたお詫びのつもりだったんですけど...』
「...てめぇ、これはどういうつもりだよ」
「棗?何怒って...って。これ、ヘアピン?」
「アンタ何考えてんの!性別の区別も付かない程のアホなの!?頭カチ割るわよ!」
『正田さんマジで痛い痛い痛い!!変な意味じゃないんです!決して!弁解させて欲しいんで離し...っいたぁ!?』
多分プロレス技に相当する何らかの技を身をもって体験致しました。普通に酷いです。それにしたって、私今日怒られてばかりじゃないですか。しかも理不尽な事で。そろそろ本気で泣きたい。
むしろちょっと泣いて現実逃避してもいいで...。
「水玉と違う思考回路してるんだとしたら、どういう了見なんだよ。この紐パ...」
『わあぁいっ!?
変な事を堂々と宣言しようとしないで下さいぃ!あれはそういうリボンが横にくっついてるだけって言いましたよね!?言いましたから!久々に大事な事2回言った!!』
「早瀬...?急に大声出してどうしたのさ...」
「何だなんだー?由香ご乱心かー?」
「どーせ棗がイジめたんやろー」
『......』
「...テメーが大声出すからだろ」
誕生日パーティーと言うだけあって。今現在、それなりに人が集まっている訳なのですが。
その空間の中で変に注目を浴びてしまった上に、人が集まってきてしまいました。
目立ってしまったじゃないかこの野郎。そんな不満の視線を日向君に投げたら、責任転嫁されました。
そもそも私の下着を堂々と宣言しようとするからじゃないですか...!非常に、解せぬ。えぇ。非常に。
別に外敵を駆逐する場所で生きている訳じゃないですけど、世界は残酷ですね。現実逃避する暇すら与えてくれないんですから。
『私...その。日向君が何を貰ったら喜んでくれるのか全く想像出来なくて』
「しかも素直じゃないしなー、コイツ。俺がチョイスしたレアなゲーム投げ捨てたし。手に取ってみてたくせにさ~」
『ちょっと安藤先輩、言い訳タイムの最中なので静粛に。私の今後の展開に関わるので』
「お、おう。悪い...」
「由香ちゃん、目がマジや...」
『だったら日向君が貰って嬉しい物でなくて、日向君が誰かに渡したい物をあげた方がいいのかなぁ...なんて』
「そういうのって、棗君本人が買わないと意味ないんじゃないの?」
『確かにそう思ったりもしたんですけどね、正田さん。あの、弁解はまだあるので、睨まないで恐いですから』
「あはは、早瀬さんってばよっぽど恐いんだろうね~。本音がだだ漏れだーあはは」
「黙んなさいよ、心読み!」
正田さんの顔が。恐いですから、という発言の前にその言葉を付け足さなくて本当に良かったと思いました。
彼女の怒りの矛先が、心読み君へシフトチェンジしてくれましたからね。
その事に心底感謝しながら、弁解を続けましょう。
『以前にも、佐倉さんがアクセサリーを見ている日向君を目撃したそうですね?だから、買いたくても買えないような理由があるのかと思ったんです。だったら誰かがそれを後押ししてもいいのかなぁー...とか...』
「大した妄想力だな」
『う...だ、だったら、あの、いいですよ。今度のクリスマス会の時のプレゼントでも。日向君の事だから、多分まだ準備してないでしょうに』
「んなもん知るか」
『準備してないと、今年は担任からの熱い罰則があるそうで』
「...チッ。いい。仕方ねぇから貰っておいてやる」
その舌打ちは、担任の罰則に対してですよね...?そう聞きたかったけれど、違う理由だったら恐いので止めておきました。
確かに、正田さんの言う通りなんですよね。日向君が誰かにあげたい物を私が選んだって意味ないんでしょうけど。
何故でしょうか。日向君はここまでやらないと、自分の為に行動を起こすという事はしないのではと思ったんです。その怖い顔に反して、いつだって他人を優先する節がありますから。
現に今日だって、人がゴミのようにあふれかえるセントラルへ行ってましたしね。...不機嫌クライマックスではありましたけど。
そんな彼だからこそ、今日くらい心から嬉しいと思う何かを送りたかったんですけど...。
『あ、じゃぁこれも良かったらどうぞ!先日育てていた苺がやっと収穫出来まして!その周りにチョコレートをコーティングして、ちょっと北海道っぽいお土産的なスイーツを作ったんで良かったら!後から食べようと思ってたんで、ポケットにちょうど入ってて』
「......」
「早瀬...。棗は、苺がそんなに好きじゃ...」
『はっ!確か以前そんな事を言ってたような...で、でもわりと美味しかったですよ?本当に!まぁ...その。苺の産地が、あれなので。急に足生やして踊りだすことがなきにしもあらずというか、』
「おい、最下位決めたぞ。バカその1と2のバカコンビ」
『「何故ーっ!!」』
佐倉さんと天上を仰いで崩れ落ちました。全くの同じタイミングで。
というか、何ですか。一番とか最下位って。その辺りの事情は、最下位が私に決まって嬉々とした心読み君が教えてくれました。
何々。日向君が貰ったプレゼントの中から一番と最下位を決めて、ドベがトップの言うこと何でも聞くと。あー...それで乃木君が私欲にかられた人達の集まりとかなんとか...じゃねぇよ馬鹿野郎もっと早く言え。
散々騒いでしまって、そういえばうるせぇとブチ切れて燃やされないなぁと思って日向君の方を見たら...口元が緩んでいるような...つまり、笑っているように見えたのですが。
すぐにそっぽを向かれてしまったので、よく分かりませんでした。
日向君の誕生日に、喜ぶプレゼントはあげられなかったけど。その代わりに、少しでも楽しいと思える日になってたらいいなと。そう、思いました。