act.18
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『慎んでお断りさせていただきます』
「まだ何も言ってないでしょ!」
『そんな余所行きの格好してれば、言わんとする事は自ずと分かりますよ。正田さん。じゃ、これにて失敬をば...』
「閉めんな。聞けっつってんだよゴラァ」
「しょ、正田...」
「や...っだぁ~乃木君ったらっ。あたしぃ、ちょっと意気込み過ぎちゃったみたいっ。えへっ」
無理矢理作り笑いするものだから、顔が引きつってますよ。正田さん。
乃木君が怯えたままだと真実を伝えたらぶっ飛ばされそうなので、敢えて言いませんけど。
そんなお二人が、私こと早瀬の自室へやって来たのは数分前のことです。
時期はすっかり寒さが身に染みる、クリスマス前。
そして本日は休日です。殆どの学園の生徒がクリスマス会のプレゼント選びの為に、セントラルへ足を運んでいることでしょう。
大事なことなので、重要な要点をまとめてもう一度言わせていただきましょうか。
そんなタイミングで、この二人が。余所行きの格好という最悪のオプションを付けて、来やがったんですよ。
他の誰でもなく。この、私の部屋に。
正田さんの話とやらがどんなものなのかは知りませんけど、確実に嫌な予感しかしません。
とりあえず慎んで断るのが筋だと思いませんか。
「それ、どんな思考回路してんのよ」
『あのですね。正田さん。恥ずかしながら周知の事実ではあるのですけれど。私がアリスの制御が出来たのって、つい最近の事なんですよ』
「あの後、暫く授業にならなかったわね」
『だから恥ずかしながらって言ったじゃないですか...!あんまり突っ込まないで下さい!』
「お、落ち着いてよ早瀬...。それで、それがどうかしたの?」
『自分のアリスがコントロール出来るようになったとはいえ、ですよ。読み取る対象がごった返した場所に、わざわざ突っ込んでいく勇気なんてありません。だから私は...』
「毎年人が混む前に、いつも前倒しでクリスマスプレゼント買ってたんでしょ。知ってるわよ。そうだと思ってあんたを誘いに来たの」
『知っていながら、敢えて私をセレクトですか!?私...っ、私、今の正田さんがアレに見えます...っ。見たものを全て石に変えてしまう悪魔の...!』
「誰がメデューサじゃ!っていうか、話を最後まで聞けって言ってんだろうがよゴラァァア!」
『いやぁぁその髪の毛で縛り上げられるうぅぅ』
「だっ、だから落ち着いてよ!二人とも!」
人畜無害そうなお顔をしている乃木君ですら、今は堕天使に見えます...!
だって正田さんと一緒にいるという時点で、セの字がつく場所へ連れていく気満々という事ですものね!
あぁでも。とりあえず正田さんの興奮状態だけでもおさめていただけると有り難いんですが。
怒りが有り余っているせいなんでしょうか。そのくるくるとした髪の毛が、蛇のように波打って本気で怖いですから。
*
買い物の最中、日向君を監視するのが私に課せられた任務のようです。どうやら。
理由は聞いてません。正確に言えば、ショックが大きくて聞いてませんでした。
だって...だって、クリスマスプレゼントはもう購入済みなのに。どうして敢えてセントラルへ行く展開になるんですか...っ。しかも...。
『う、うわー凄いうるさ...に、賑やかですネー』
「...」
『飾り付けもクリスマスっぽくなってるんですネー。わーキレーイ』
「......」
人がゴミのように溢れかえる中、監視ターゲットのお方に、ゴミを見るような瞳を向けられました。
とりあえず私はむせび泣いていいですか。
「うぜぇ」
『それ、まさか私の心中を察して言ってる訳じゃありませんよね!?そしてその発言は、ごった返した人混みに対するコメントですよね!?』
「...」
『まさかの無視!』
な、何かこの人、滅茶苦茶機嫌悪くないですか?任務達成出来る気が全くしないんですけど...っ。
強制だったとはいえ、よく引き受けたな私...!
「おいゴミ」
『さっきから私に向かっておっしゃられてますけど...私、一応まだ人間は辞めていないつもりなので、返事はしなくてもいいですか...』
「お前ラストダンスの意味分かってんのかよ」
『...んっ?ラストダンス?ラストダンスって?え、ラストダンス?』
「...」
「ごめんなさい無言で炎出さないでもらえますか怖いですから。だからと言って、一言ことわりがあれば火を出していいって訳じゃありませんけど...っ!」
先手を打たれる前に、釘を刺させてもらいました。どれ程の効果があるかは不明ですけどね。
それにしても、日向君が持ち出した突然の話題に戸惑いが隠せないのですが。
ラストダンス...本気で何でしたっけか。先日の不慮の事故(誘拐等)のおかげで、それよりも過去の出来事がよく思い出せません。
何故か物凄く昔の事のように感じるのですが、気のせいでしょうか。
話が進まないであろう事を、悟ってくれたのでしょうか。珍しいことに、あの日向君が補足をしてくれました。...非常に微妙な。
「...後夜祭の」
『...あぁ!アリス祭の最後のアレですね。そうそう。ラストダンスって、何か意味があるんですか?結局誰も教えてくれなかったんですよね...何故か』
「分かんねーのに踊ったのかよ...あのロリコンと」
『ろ、ロリコン?確か最後に踊ったのは岬先生だから、まさか岬先生の事言ってます、か...ちょ、あの、日向君?』
「何だよ」
『物凄く尋ねるのが怖いんですけど...何でその事を知ってるんですか?』
「知るか、馬鹿。せいぜいロリコンと仲良くやってろ」
『何処から聞いてたか、結構重要なんですけど!?あ、ちょっと待って下さ...!』
確かあの時、ガリバー飴を使ったからうんぬんだとか。バレたら普通にヤバい話を、大声でしていたような気がするんですけど。
日向君の機嫌がやけに悪いのって、まさかそのせいなんですか?意外と規則に厳しい人で、実はそれが許せなかったというまさかの衝撃的な予想外展開なんでしょうか。流石、幹部生の鑑...
『...とか言ってる場合じゃないです!み、見失った...っ!』
あれ程の人混みをものともせずに、スルスルと行ってしまわれました。
滑りがよくなる道具でも使ったんじゃないかと疑いたくなります。どうやったら人にぶつからないで、あんなにスムーズに進めるんでしょうか...うらやましい。
こんなに人が溢れかえる中から、ターゲット一人だけを見つけるなんて困難...いえ。絶対無理ですよね。これ。
『ミッション失敗と潔く諦めて、帰ってもいいですかね』
「駄目に決まってんでしょ」
『痛いっ!?な、何か固いものが当たったんですけど、正田さん...っ』
「あぁ。ついでにクリスマスプレゼントも買ってきたからね」
『何普通に答えてくれちゃってるんですか!謝罪を要求します!』
「棗君をしっかり見張ってないでサボってたくせに、よく言うわよ!」
『正田さん達の買い物が終わったなら別にいいじゃないですか!』
「...それ開き直ってない!?」
「早瀬、正田!どうどう...っ」
『乃木君、私達を一体どんな目で見てるって言うのか、そこ詳しく』
乃木君が間に入ってなだめようとしてくれたのはいいんですけど。
それ、動物を落ち着かせる時に言う言葉じゃないですか?
ぶっちゃけその扱いは、正田さんだけだったら納得できます。彼女、半分ぐらいは動物みたいなものですし(アリス的に)
でも何で私もひとくくりにされてるんですか。場合によっては興奮冷めやみそうもないんですけど...っ。
「部屋に帰る」
「えっ、もう!?」
「あっ、棗...!」
『唐突に戻って来たと思ったら、唐突に行ってしまわれましたね...日向君』
「どないすんの!?サプライズ台無しになってまうで!」
『え、佐倉さんいつの間に』
どうやら正田さんと言い争ってる間に、顔馴染みの面子が揃っていたようですね。不思議な事に皆焦っているようですが、知ったこっちゃありません。
だって日向君が帰る以上は、私の役割は果たしたという事になるんですから。では今度こそ失敬をば...。
「何普通に帰ろうとしてんのよアンタは!」
『だって日向君が帰るならもう、』
「いつ見張りを止めていいって言った!?今すぐ追いかけて足止めしなさい。出来るだけ時間を稼いできて!」
『えぇっ?私もう無理で、』
「さっさと行けぇぇ!!」
『ひゃっ、ひゃいいぃ!?』
蛇の化身に見えたり、鬼の形相に見えたりと。今日の正田さんは、ひと味もふた味も違います。(訳:本気で恐い)
進めば、不機嫌続行中の日向君。逃げればご覧の通りの正田さん。
これって私、どちらを選んでも無事では済まないんじゃないですか...?
あまりにも理不尽すぎて、うっかり泣きたくなるのは山々なのですが。
後方からの突き刺さるような視線が普通に恐ろしいので、取り合えずターゲットの元へ急ぎましょうか。消し炭にならない事を祈りながら。