act.16
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*
その後。あの部屋から解放されて、初等部の寮へ戻る事が出来たのは空がうっすらと明るくかすむ頃でした。
私があのZの基地から強制送還された後、佐倉さん達に何があったのか。詳しい事は知りません。
けれど私の胸中の慇懃無礼な数々の発言なんてとても挟む事が出来ない程に、暗く重い出来事があったのは確かです。
寮へ無事に帰ってきて、クラスメイトが勢揃いで迎えてくれたにも関わらず、その空気は明るいとはとても言えない悲しいものだったから。
...でも、それは逆に良かったのかもしれません。
いつも私は、茶化してその場を誤魔化すような部分があるから。
そんな事をしないで今度こそ逃げずに、ちゃんと向き合うって決めたんです。何も伝えられずに後悔するのは、もう、嫌だから。
「由香ちゃんも、本当に無事で良かった」
『...!』
不意に飛田君の優しい声が降ってきて、いつの間にかうつむいてしまっていた顔を上げると。
何処か泣きそうになってしまいそうな笑顔と目が合いました。周りを見渡すと、飛田君と同じ気持ちだったのか何度もうなづく人や、目元を拭う人も沢山いましたけれど。
私の気持ちを今、伝えたいと思う人は。
そう思ったら、自然に足が動いてました。
『...心読み君』
「......早瀬さん」
『......』
でも何から伝えたらいいんだろう?そう思ったら、言葉がつかえてしまって。考えれば考える程、伝えたい事がまるでこぼれていってしまうような気がして。
だからたった一言、心の中でこう呟いたんです。
ーーごめんね。
「早瀬さん...?今、もしかして...」
ずっと手離さなかった心読み防止シールは、ここへ戻ってくる道中で捨ててきました。
だからごめんねと呟いた心は確かに、心読み君に届いた筈です。
その証拠に、いつも笑顔を絶やさない彼は、確かに驚いた表情をしていました。
『友達だって言ってくれた心読み君と、友達でいたかったから...嫌われたく、なかったから。
自分の本当のアリスを知られたくなくて、逃げて、誤魔化してきた。それが、心読み君をずっと傷つけてきただなんて、何処かで分かってたのに。
だから、ごめんなさい。これからも、友達でいてくれますか...?』
「......」
誰かに自分の気持ちをぶつけるのも、ずっと避けてきた事でした。過去に一度、酷く拒絶された事がずっと恐かったから。
でも今の私は、心読み君との縁が切れてしまうかもしれない不安の方が上でした。
自分の本当の気持ちをさらけ出したせいか。心読み君の沈黙のせいか。震えが、止まらない。
「やだ」
『...っ!?』
「全く...どれだけその言葉を僕が待ってたと思うのさ。待たせすぎだよ。僕でなきゃとっくにもう見限ってるよ」
『そう、だよね...。怒って許せないのは、そんなの、当然...っ』
「でも...もう、懲りたでしょ」
『え...』
「正直僕も、早瀬さんと交わした最後の会話が喧嘩紛いの言葉だったのかもしれないと思った時は物凄く後悔したんだ。
だから友達としての今まではここで清算しちゃってさ。これからは親友としてやっていくっていうのは、どうかな?」
『う...っうぇ...っ。な、に...っひっく、それぇ...っ』
何なんですか。その落として上げるみたいな思わせ振り話術は。もう。本当、何なんですか...っ。うっかり泣いちゃったじゃないですか。
心読み君の小悪魔...っ!
「どっちにしろ泣き虫じゃん、早瀬さんは。
これからはさ。早瀬さんが考えてるとか、感じた事とか。何でもいいから僕に教えてよね。親友、なんだからさ」
『こ...っ心読み君~...っ!』
「うわっ。全く...よしよし。これじゃぁどっちが年上なんだか」
感極まって、思わず心読み君に突進するように抱きついてびっくりしたみたいですけど。しっかり受け止めてくれました。
一度流れ出した涙は中々止まってくれなくて、もう言葉に出来ません。
だからありがとうと心の中で伝えたら、今までに聞いた事がない程の穏やかな声が耳元に響きました。
心読み君の手は、今だに私の頭を優しく撫でてくれていて。
全身で心読みの体温を感じながら、本当にここへ戻って来れたんだなぁ...と。そう、改めて思うことが出来ました。強く。