act.16
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*
「そこのツインテールじゃない方の子。そう、あなたよ。あなたは私についてきて」
『へ...っ』
「二度は言わない」
『は、はい...っ』
思いがけず牢屋の外へと誘導されて、反応が遅れてしまいました。多分...というか、従う他に選択肢はないのでしょうけど。
一度だけ振り返ると、ウチの事は心配しないでと笑う姿。
...こういう時ばかりは、その笑顔に励まされるものがあります。今は自分の身を心配しましょう。
柚香さんが牢屋に来て間もなく。この方、佐倉さんがつかみかかった途端に荷物を振り回し出しました。
いや...確かに私も常々、彼女の事をうるさいとは思っていましたけど。
だからと言って、暴力という行為に走る姿は、怖い。
それが思いっきり、彼女との距離に現れていますが。当人はあまり気にしていないようです。
これじゃ後についていくというよりも、後をつけてるっていう位の離れ具合なんですけど...。
「...あなた」
『ひぇ...っ!』
「...別に煩くしなければ、私はどうこうするつもりはないわ」
『ごご、ごめ、なさ...っ』
どれ程歩いてからでしょうか。
急に足を止めて、こちらを振り向いた時には心臓がわしづかみされたのかと思いました。
うるさくしなければ。そう言ったけれど、この動揺っぷりは苛立ちに繋がらないのでしょうか。
「聞きたい事があるだけだから、そこまで警戒しなくても...そう言いたい所だけど。
...そうね。あなたからしたら、私達は誘拐犯だから。その反応は間違ってない」
『その為だけに、牢屋から出したって、言うんですか...?』
「あなたは私の質問に答えるだけでいい。あなた、ツインテールのあの子とは同じ初等部なの?」
『は...っ?そう、ですけど』
「学年は」
『同じですけど...』
「そう...」
『あ、の...それが一体、』
「だったら私はあなたにもう一つ尋ねなければならない。
あなた...一体、何者なの?」
この時。自分が誰なのかを説明するのは、難しい事なのだと思い知らされました。
だって、それをどうやったら真実だって証明出来る?
相手の疑惑が尽きないのであれば、尚更。
どう返答すればいいのか困惑していると、コツリと嫌に響くブーツの音が距離を縮めているのが分かりました。
「...言い方を変えましょうか。どうやってあなたは、せん...あの人の事を知れたと言うの?」
『え...っ?どういう、意味ですか』
「あの人は...。あの人は、もう」
「柚香」
まるでタイミングを見計らっていたかのようです。
これ以上は言わせんとばかりに、男の人の声が柚香さんの言葉を遮りました。
少しつり目気味なせいでしょうか。まるで人を寄せ付けないようなオーラをまとったこの人。
記憶があいまいですけど、学園で柚香さんと一緒にいたような...気がします。
「Zの幹部が君を呼んでいる。早急に向かって欲しい」
「御原さんが...。そう。分かったわ。後はお願い」
『あ...っ』
柚香さんは私を一瞥すると、振り返る事なく行ってしまいました。
私としても、もう少し詳しい話をしたかったけれど...恐らく呼び止めるという行為は無駄なのでしょう。
今現在の身の保証は変わらず危ういですし、何より質問に答えるだけでいいと釘を刺されてしまいましたからね。
「...そこの君」
『...へっ!?わ、わた、私、ですか』
「君以外に誰がいるんだ。名前は」
『え、あ、早瀬由香、です』
「君はとりあえず俺について来て」
そう言って踵を返した彼も、やはり振り返る事なく歩を進めて行きます。
慌てて後を追いながら思いました。
君呼ばわり継続なら、名前聞いた意味ってありましたかね...?
*
「...君が知っている行平泉という人は」
『へっ?』
「もう、亡くなられている」
『そう...なんですね』
岩肌の壁ばかりが続く地下を抜けまして。その先に続いていたのは、研究施設のような無機質な壁と廊下でした。
元いた場所への行き方なんてもうさっぱり分からなくなってしまった頃。
つり目気味美青年様は変な地図が飾られている場所で不意に立ち止まりました。
はい。名乗らないので勝手に命名させていただきました。言わずもがな、心の中で。
そして一体何処を見ているのだと思わず突っ込みたくなるような(いや、無理ですけど)明後日の方向を向いていたと思ったら、今度は唐突にお話が始まったようです。
それはここであらかじめ話す事を決めていたかのような。
とにかく意図的なものを感じました。
そして自分のアリスで視てしまった以上、ゆき兄がこの世にいないのであろう事は分かっていたつもり...でしたけど。
事実を、認めたくないせいでしょうか。じわりと視界が歪んだ気がしました。
「それを踏まえて、君に確認したい事がある」
『あの...。柚香さんも似たような事を言ってましたけど...それって、一体...?』
「君があの牢屋にいたもう一人の子と同じ初等部だと主張するつもりなら、それは矛盾している」
『矛盾...?あの、年齢が関係あるって言うんですか?』
「そう。何故なら。彼が亡くなられたのは、君達が生まれる前の出来事なのだから」
『え...っ?』
「だからこそ柚香も真意が知りたかったのだろう。君はこの事実の意味を説明出来るかい?」
『は...』
つまり、こういう事ですか。
私が産まれるであろう以前に、ゆき兄は既にこの世にはいない人であったと言うのなら。
彼と会ったことがあるという私は...嘘だったと?
じゃぁ何が事実と違うという事になるの?
私がゆき兄と面識があるという事実?それとも...
私の、存在自体が...?
『嘘なんかじゃない...っ!』
「君を嘘つき呼ばわりしたつもりはないが...」
『だって、全部、思い出したもの!家出して、迷子になっちゃって、それで優しくしてくれた事も!
ヤンキーだけど、女子供には優しくするんだって、話しかけてきて...っ』
「...彼が族上がりだった事まで知ってるのか」
『それで私のアリスを受け入れてくれて、それから、都会に出て先生になるっていう話だって!全部、全部大切な思い出なのに!なのに、嘘、だなんてっ、言わないで...っ下さ...っ、うぅ...っ』
「...すまない」
『...へあっ!?』
「君を追い詰めるつもりは無かった。許して欲しい」
『え!?いやっ、あのっ。離して、下さ...っ』
「生憎涙を拭いてやれる物を持ち合わせていない。これで我慢してくれ」
どうやら相当頭に血が上っていたようです。気が付けば、つり目気味美青年様と離れていた距離はいつの間にかゼロになっていました。
そして男の人特有であろう、がっしりとした胸に押し付けられるようにして腕の中に閉じ込められていて...。
あ、あれ。この発言ちょっと変態ですかそうなんですか。
兎に角。
これって、あれですか。泣くなら俺の胸で泣けよって事でしょうか。
私の周りの男性陣は、どうしてこうも...こう、いとも簡単にハグしてくれちゃうんでしょうか。
展開ありきたりだよと思われそうですけど、こんなん慣れる訳ないじゃないですか!
今は別の意味で頭に血が上ってますよ馬鹿!こんな状態で泣けるかってんですよ、馬鹿バカ!
「名前は早瀬由香、だったよね。君のアリスは?」
『え...っ、ぁ...あの。そう、です。えと、透視系...』
「...透視系?」
『そ、そんな感じの筈...です』
よくよく考えてみれば、私はこの人達に誘拐された身の上ですよね。
若干語弊があるとはいえ、あっさりと自分のアリスを暴露して良かったものでしょうか。
でも、どうしてもこの人が悪い人には見えなかったのです。
ゆき兄が亡くなった事と告げたこの人の瞳が、柚香さんと似ていたから。
「それが本当だと言うのなら...君のアリスはそれ限りではないのかもしれない」
『どういう、意味ですか?』
「学園で生活していて、第二のアリスが発覚する生徒は珍しくはない。あるいは能力を発揮する力が未熟で、本来のアリスを発動出来ないのか。
俺はてっきり、君のアリスは野田のような系統かと思っていたんだが...」
『...野田?野田って...』
「少しお喋りが過ぎたようだな。時間切れだ」
まるでつり目美青年様の言葉が合図であったかのようです。何やら奥の方から、騒々しい複数の足音が近付いてくるような気配を感じました。
それよりも一瞬早く、美青年様は壁の絵に触れて何かを呟いた途端...辺りが眩しくなって。え、ちょっと待...!何ですかこの急展開!
「君を誤ってここへ連れて来てしまったのは、こちらの落ち度でもある。だから君だけでも無事に学園へ帰らせる為に、ここ一帯の監視機能を一時的に麻痺させたんだが...流石に勘づかれたようだ。
まぁ正直、あの爆発現場にいた君もどうかとは思うんだけどね」
『(そして唐突の黒属性キタ...だと...!?色々展開ぶっ飛び過ぎてついていけないから泣いていいですかねこれ...っ!)』
「...それと」
『ふぁっ!?きき、急に、引っ張らないで下さ...っ、て、近...っ!?』
「Zにはもう関わらない方がいい。行平先生の知り合いと言うのなら尚更だ。そして君自身のアリス、どういったものなのか...もう一度向き合った方がいい。でなければ...」
『え...っ?最後、よく聞こえな...っ。え、え、えぇぇ!?何ですかこれ!?かっ、かべっ、壁に段々飲み込まれて...っ!ーー!!』
思わず悲鳴を上げた筈なのですが。その声すら壁に飲み込まれていって、その次に感じたのはまたしてもあの目眩のような感覚。
一体こんな短時間(かどうかは実際知りませんけど)で、どれだけテレポートすればいいんですか!体調が悪いって言ってるのに!...主張はしてませんが!
どうしてくれるんですか、テレポートを始めとする移動系統全般がトラウマになってくれたら...っ!。
あ、駄目です。言われた言葉すら理解できないまま、また意識が遠退いて...。
...。