act.16
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「まさかあんな所に生徒がいるとは思わなかった」
「ごめんなさい志貴...気が付いたら、勝手に体が動いていて」
「ある意味いい牽制になったんじゃないか。人質という訳では無いが、学園の生徒をこちらで捕らえていたら下手に向こうも手出しは出来なかっただろう。
ただ、この子はもうここで置いていった方が無難だ」
「そうね...怪我もないようだし。後は学園側で保護してくれる筈...」
「...君の子供は、この生徒とちょうど同じくらいの年なんだろうね」
「...今は関係ない事だわ」
「柚香...」
「...いいえ。今も。この先も。私には関係の無い事...」
記憶の波から、ゆっくりと意識が浮上するような感覚がしました。誰かの話し声が、微かに聞こえるのが分かります。
私...気を失っていたというか。
あの状況下で、咄嗟にアリスが発動してしまったんですね...。
恐らく爆発から私を守ってくれたのであろう、この女性に触れてしまったせいで。
今はだき抱えられているようですけど...。
触れた当事者の死を視るのではなく。記憶の渦から第三者の死を読み取るなんて...。こんな事、初めてでした。
体がいつになくダルいのは、アリスが強力に発動したせいなのでしょうか。
でも、どうして急にこんな事が...?
『う...』
「...おいっ。こんな所にもまだ学園の生徒が...!」
「...急ぎましょう。今は逃げ切るのが先決です。この気を失っている子も、そろそろ目が覚めそうですし」
「でもこの黒髪の方には見られてるけど、いいのか?ガキといえどこのまま...」
「蛍ーっ、何してんのー!?はよ行こーやーっ。向こうに先生っぽい人らがいっぱい...」
「馬鹿...蜜柑っ」
聞き慣れた声が耳に入ったような気もするのですが。正直、そちらまで気を回す余裕がありませんでした。
それよりも気になっているのが、私を助けてくれたのであろうこの人...話の流れからして、多分侵入者なのでしょう。
だとすると、長くはここに留まるような真似はしない筈です。意地でも捕まらないようあらゆる手を使って逃げるのでしょう。
でも、今それをされたら正直困るのです。
彼女はきっと、私がずっと忘れてしまっていたあの人の事を知っている筈だから。
なす術もなく、ゆっくりと体が地面に横たわったのが分かりました。
一気に記憶を叩き込まれたせいで、意識がもうろうとします。体調も最悪。
それでも、今を逃してしまったらきっと聞くことは出来ない。駄目。行かないで。駄目...っ。
「...っ?あなた、目が覚めたのね」
『柚香、さん...』
「...!?どうして名前を...っ」
辛うじて動いた手のひらでようやく、彼女の足元だけを捕まえる事が出来ました。
引っ張られるとは予想外だったのか、こちらに顔が向けられます。サングラスをしていて、表情は読み取れませんでしたが...間違ありません。
外見こそ多少変わりこそしているものの、彼女はやはり先程の記憶の持ち主。
どうしても聞きたかったのです。彼女が体験したであろう記憶の真偽を。もし本当なら、私がずっと忘れてしまっていたあの人は...
『あなたは...知っているんですか』
「いたぞ!」
「...っ」
「あ...」
「危な...!」
パァン!
『あなたは、ゆき兄を...行平泉さんを、知っているんですか...!?』
「...っ!?」
何かの破裂音...銃声でしょうか。
声がそれに重なってしまったようですが、彼女...柚香さんの耳には届いたみたいです。
サングラス越しでも分かる程に、動揺しているのが分かりましたから。
「柚香!」
「...っ」
『ぐ...っ!?』
その後は、瞬くような一瞬の出来事で。
腹部に鈍い痛みが走った後、またあの酷い目眩のような感覚。
これ...今は体調が最悪なので分からなかったのですが。ちょっと前に体験した事があります。
具体的に言うと、アリス祭で。確かテレポートする時に...。
ヤバい、です。体調がこの状態でそれが来るのは、相当負担が...。
そんな事を考える間に、視界はどんどん暗くなっていって。
とても暗い...まるで穴の奥底へ落ちるかのようにして、私は今度こそ気を失ってしまいました...。