act.16
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*
『それでこういう結果に何度かなってるのにな...私』
そうポツリと呟いた私こと早瀬由香。只今の現在位置は...不明です。
これ以上は走れないという程、走り抜けました。単純な作業をしていれば少しは落ち着くようで、先程よりは冷静な頭になったと思います。
でもこの先は一体どうすればいいんだろうと考えていて、ふと思いました。
ここは何処だろうと。
頭の中がパンクした状態のまま行動すると、どうやら私は予想外な場所へ行き着くようです。
今まで何度かやらかして、最近ようやくその事実に気が付きました。
だからとりあえず方向音痴では、ない。
不幸中の幸いなのかは分かりませんが。
今いる場所は森の中ではなく、コンクリートの道が何処までも続いている開けた場所ですから。
もしかしたら、誰かに遭遇出来るかもしれません。
そんな期待をしつつ、アテもなく歩き続けていたら...。
『...?何でしょうかこの音...。...警報音?』
耳障りなサイレンのような音が、遠くから聞こえてくるのが分かりました。
咄嗟に黒猫のお面を被ったあの人が、頭をよぎったのですが。どうやら誰かが何かやらかした類いではないようです。
『学園に、侵入者って...』
警報と共に流れた音声によると、この学園に不法侵入してきた人物がいるらしく。
危険だから生徒は校舎内から出るなという勧告のようです。
相当警戒しているのか、多分この警報は学園全体レベルで出しているものなのでしょう。
校舎から大きく外れているであろうこの場所からでも、聞こえる程ですから。
...侵入者?
正門は勿論、上空にまで強力な結界を張り巡らされているこの学園にという事ですよね?
不審に思う点はいくつかあったのですが。それよりも。
こういうタイミングでこの場にいる私って(いや何処にいるのか分からないですけど)
もしかしなくても。
『目立つんじゃ...っ。こんな時にエスケープしてるのがバレでもしたら流石にこれっ、先生側からも不況を買うに決まってる...!
早く戻...って、どっちにだよ!?あぁ、もうっ!』
そして振り出しに戻る。なんて呑気にやってる場合じゃないんですってば!
気持ちばかりが焦って、どうしたものかと考えあぐねていたら。
タイミングでも見計らっていたかのような転機が。
前方から、一台の車が走って来ているのが目に入りました。
こんな事態になってまでも、私のなけなしのプライドは立ちはだかるようでして。恥を承知で車に乗せてもらうという選択肢は、ないのであります。
車が通りすぎた方向で、大体でも帰り道が分かるんじゃないでしょうかね。これ。
よし。そうと決まれば見つからないように、ちょっと木陰から車をガン見して...と。そう思った、瞬間でした。
『きゃあぁぁぁぁっ!?』
猛烈な爆発音に、凄まじい熱と爆風。
理解できたのは、それだけ。
私は吹き飛ばされて倒れたのか。それとも地面に足をついて立っているのか。痛いのか、そうでないのか。それすら今の私には分かりません。
感覚が麻痺してしまっているので、確実とは言えないのですが。
悲鳴を上げた後、何かに覆われたような気がします。
そして、酷い目眩のようなグラグラした浮遊感。どうやら、私は気を失ったようです...。
*
"先生が死んだなんて嘘でしょ!?"
...誰?
真っ暗な空間の中で、誰かの叫び声が頭に響く。
目を開かなくても、その叫びは悲しみに溢れているのが手に取るようにして分かる。分かるという言い方は、正確じゃないかもしれない。
感じたのだ。まるで、その誰か自身にでもなったかのように。
それにしても、聞き覚えのない声...。声の感じからして、女子という事は分かるけれど。
そもそも、私は一体どうしたんだっけ?どうして突然、こんな...。
"理由も言わず事故なんて...
そんなのありえない...っ"
"やめて!聞きたくない!
夢なら早く覚めて
これは悪い夢だって言って
先生何処...っ"
彼女が思った事、感じた事を中心として、体験したであろう出来事が情報となって次々と頭に流れ込んでくる。
私は今、声の主の視点に立って何かを視ているの...?
他人の精神が自分の中に無理矢理入り込むようなこの感覚は、正直いいものではない。
頭が、痛い...っ。
"この副作用は、あなたが受けるべき報い"
"貴様...っ"
"あなたのような人が...そのアリスを持ってこの世にある限り、誰かを苦しめるなら
私はもっと早くにこうするべきだった...!"
"あなたの目論みは、私が壊していく。どんなことをしても...っ"
状況は全く理解出来ないけれど...絶望。
彼女から流れ込んでくる感情を名付けるのなら、その言葉がまさしく相応しかった。
そしてそれに応えていくかのように、情報は次々と頭に叩き込まれていく。
"......柚香ちゃん"
"ルナ...ごめんね..."
"ごめん、ナル...私行くから..."
"行かせない。俺も行く...っ"
痛い...っ。痛い、痛い!
もう止めて!頭が壊れる...っ!
頭を抱えても、痛みは少しも和らぐ事はない。
壊れてしまうのは、私か。それとも見知らぬ彼女なのか。それすらも分からなくなってきた。
"柚香...柚香..."
『...!?』
彼女の声も、留まる事が無かった情景が唐突に止んだ代わりに。
男の人の声だけが静かにこだました。
私...この懐かしい声を、知っている。
どうして...っ。どうして今、この瞬間まであの人の事を忘れてしまっていたんだろう。
この声は、もしかして...。
今だに止まない頭痛を堪えて、辛うじて開いた視界は涙でぼやけていた。
その先に視たものは。
"ごめんな柚香..."
ずっと再会を願っていた人の、死の瞬間だった。