act.15
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*
『...園生先輩!?』
「あ、由香ちゃんだ。久しぶり...でも無いねー」
『あー...はは』
今年は病院にお世話になることが多いですからね。久しぶりでも無いという先輩の発言は、つまりはそういう訳で。
ちょっと苦笑いです。
佐倉さんに引っ張られ続けてたどり着いたのは、ベアの小屋でした。
敵地に自ら突入とか、気違いでも起こしたのかと正直思ったのですが。
入ってみれば、出迎えてくれたのは制服姿の園生先輩でした。いつも病院着だから、ちょっと新鮮です。
『ふわっ!?』
「よ、由香。ベソかいたりしてないか~?」
『安藤先輩、私を何だと...っ。っていうか、勢いよく頭撫で回すの、止め...っ』
「かなめくぅ~ん、ハイっ。これ退院祝いなのーっ!私はケーキ持ってきたんだけど...」
「私はお花ーっ」
「えっ、ここ水道ねぇの!?井戸水かよーマジ!?」
「蛍ーっ。ケーキやってー!ウチらも食べれるやろかっ?」
人口密度高いなここ...!
園生先輩の退院の話を聞きつけたんでしょうね。
今現在ベアの小屋には、先輩のクラスメイトだったり、高等部のお姉様方だったり(あ、病院で遭遇したパペットが混じってる)
果てには、私たち初等部野次馬...。
ベアの小屋っていうだけあって、スペースがくまのぬいぐるみサイズに合うよう設計されているようなんですよね。
そんな所にこれだけの人が一気に集まればですね。マジで狭いな、おい...!
「えっと、僕貰った花を花瓶に生けたいから水汲んでくるね」
「おい、井戸遠いぞ。やめとけよ。病み上がりだろー?」
「ううん、自分でやるよ。みんな忙しそうだし...」
「何だったら俺が...」
「翼は引っ込んでて」
『......』
何故なのでしょうか。
彼...園生先輩がただの天然ではないと確信してから、いちいち黒い発言に反応してしまう自分がいます。
これが...これが計算された天然か...!
って、違う。私が今やるべきなのは、先輩の腹黒実況でなくて。
『そっ、園生先輩...っ。あのっ、私も行ってもいいですかっ?』
「えっ?」
『あっ、あの、やっぱり、一人じゃ重いと思うんで...っ、その、』
「...うん。分かった。それじゃぁ、お願いしちゃおうかな?」
園生先輩と少し、二人で話したいと思ったんです。
このうるさい場所から逃げたかったというのもありますけど...。
今の私のこのモヤが掛かったような気持ち。先輩なら、分かってくれると思ったから。
*
「...それで?」
『へっ、』
「何かあったの?由香ちゃん」
『え...っ、え!?なな、何でっ』
「ふふっ、当たっちゃったかな。頼りにされるのは嬉しいけど...翼に嫉妬されちゃったかも。ちょっと睨まれちゃったよ」
『安藤先輩、過保護過ぎる...っ』
井戸まで辿り着くのに、ちょっと長い道のり。
私の思惑がバレバレだったのは、あからさますぎたのでしょうか。それとも、お二人が大人だからなのでしょうか。
どちらにせよ、恥ずかしいです。うぅ...私にもそれだけ物事を見通せる余裕が欲しい。
いつだって私は、目の前の事に振り回されてばかりだから。
『先輩は...もし、安藤先輩と仲が悪くなったら、どうしますか?』
「それはケンカってこと?」
『ケンカ...とかではなくて。何ていうか...その。ご、ごめんなさい。上手く説明できそうにないです...』
ケンカだったら、まだ良かったのかもしれない。
今の私と心読み君がケンカしているというにはあまりにも...距離が、ありすぎると思うから。
「...僕ね、元々体がそんなに丈夫じゃなかったから。前から結構、入退院繰り返してたんだ」
『えっ?あ、そうだったんですか?』
「その度に皆が心配してくれたんだけど...。正直、嫌だったんだ。その気遣い。あ...」
『どうかしまっ、むっ?』
「今のは、皆には内緒。ね?」
『...』
そう言って人差し指でちょこんと触れるようにして、私の口を押さえた園生先輩は...茶目っ気たっぷりでした。
因みにウインク付きです。真剣なターンなのに肩の力が抜けそうなんですが。
そして唐突に始まった話で戸惑っていた私の事はお見通しだったようです。挙げ句の果てには難しく考え込まないでよと突っ込まれる始末。
計算された天然、予想よりも遥かに侮りがたし...。
「病弱だっていう自分から逃げたかったから、嫌だったから。嘘つきになったんだ。僕」
『嘘...』
「どんな時でも大丈夫って、いつも笑ってたんだ。そうすれば、周りからは嫌な目で見られなかったし。
そうしたらさ...どうなったと思う?由香ちゃん」
『分かり、ません...全く』
「怒られちゃった。翼に」
『へ...っ。怒られちゃったぁ?』
テヘペロなんて言葉が付いても大して違和感がない程に、可愛らしく言ってのけました。この先輩。
今の話、途中までは自分に重ねて聞き入ってしまいました。
自分のアリスが嫌いだから、自分を偽ってきたこと。それで周りとはそれとなく付き合って来たこと。そうすれば迷惑を掛けることもない。
なのに、どうして怒られる事に繋がるんでしょう。
「確かに言ったって仕方ないことかもしれない。どうにも出来ないかもしれない。それでも辛いなら言って欲しかった。友達だから。...翼にそう言われたんだ」
『友達...』
「因みにそれで暴走した挙げ句、翼ってば一騒動起こしちゃってね。その結果が頬っぺたの罰則印」
『凄い、ですね...安藤先輩。カゲキというか...』
「その時の事は、今でも申し訳なく思ってる。
でも、ここまで真剣に他人の事を考えてくれてるんだって気付くことが出来た。初めて、誰かと向き合えたんだ。お互いの本音を話せるような、ね」
終わりまで話を聞いて、正直後悔してしまいました。折角大切な話を打ち明けてくれたというのに。
だって...。だってつまりは、腹割って話し合ってみないことには始まらないって言われたようなものですから。
状況を重ねて見てしまったものだから、余計に。
『私にそんな大それた事、出来るでしょうか...?』
「怖いと思う気持ち、分かるよ。でも由香ちゃんの友達も、ちゃんと君の事見てくれてると思うんだ。
だからこそ、ケンカになっちゃうこともあるんだよ」
『全然その理屈が分からない上に、もし...もし...』
「それがきっかけで仲違いしちゃったら?」
『う...』
「うーん...。こればっかりは無責任に大丈夫だなんて言えないけど...でもさ。もし、万が一にだよ?由香ちゃんの心が折れるような事があったとしてもね。
それでも、君を心配してくれる人はちゃんといるんだよ。例えば...ほら」
『...あれは、』
口ばっかり動かしているように解釈されていたかもしれませんが。
一応、体の方も動かしていたんですよ?
今現在は、帰り道を辿っておりまして。そろそろやっとベアの小屋が見えるかなーといった頃。
小屋の外には、安藤先輩がいました。
けれど何故か不自然にうろうろしていて...えぇ。その。何ていうか。
その姿はまるで不審者のようでした。あれは校門付近でやったら確実に通報される。
「あれじゃぁ完璧変質者に見えちゃうけど...。きっと由香ちゃんの事、凄く心配してるんだよ。何か感付いてたみたいだし」
『...本当に、安藤先輩とは仲がいいんですね...園生先輩は』
ちゃっかり毒を吐いてしまうほどに。
変質者って、アナタ。いや、似たような事考えたけれども。
そして私の勇気は常に皆無なので、斜め上な感じでスルーさせていただきました。
「...うん。僕の一番の親友だよ」
『......』
「...あっ!お前らやっと帰ってきたのかよ~っ、遅いっての!」
『ぎゃっ!だっ、だから安藤先輩っ、この身長差で腕回さないで、下さ...っ!しっ、絞まって...っぐぇ』
「ワザとやってんだよ。会う度に心配させやがって。その上、俺差し置いてかなめの方頼ってるし...」
「翼。過保護が行きすぎて丸っきり変質者になってたよ!」
「変な事を変に明るい顔で言い切るなっての!かなめ!由香が変な言葉覚えちまうだろーがっ」
『...安藤先輩。それを過保護過ぎるって言うんじゃ』
「ぐ...っ」
『でも...ありがとう、ございます』
一番の親友。
そう言い切った園生先輩の顔は、笑っていました。
それは病人だとはとても思えない程の、日の光がよく似合う明るいものでした。
それを見て、私は...心底羨ましいと思ってしまったのです。
園生先輩が。そんな関係を持っている安藤先輩も。
私も、そうなれたらいい。その為に、なけなしの勇気を絞って少しでも頑張れたら...と。思ったのです。この時は。
人生って、どうにも上手くいかないものですね。本当に...。