act.14
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『惰眠を絶対にむさぼるって...言ったのに...っ』
「え?それ何の話?」
『というか、無理です。嫌です』
「開口一番に凄い言い様だねぇ、由香ちゃん。僕まだ何も言ってないよ?」
『その片手に持った羽根付きドレスを見れば、言わずもがな分かりますよ!鳴海先生!行きませ...んって、ばぁぁあぁあ!?
タカハシさんタカハシさーん!ひーとーさーらーいーっ!!』
「あっはっは!由香ちゃんってば面白いこと言うねーっ」
初等部寮にて。
私こと早瀬由香は、もうされることはないだろうと思っていた俵つぎを、本日も体験するはめになりました。
恐らく、後夜祭が始まっているであろう頃の事です。
毎年恒例のばっくれ...いえいえ。私こと早瀬は、自分の部屋でまどろんでいました。
そんな矢先、唐突に後夜祭で着用するドレスを持った鳴海先生が訪れた日にはそりゃ...悪態の一つや二つ可愛いものだと思いませんか?
これから何処に連れていかれるかなんて、嫌でも分かりますよ。
担がれながら吐き出したため息は、重く沈んでいくような気がしました。
*
「早瀬さんが後夜祭に出てくるとかどういう風のふき回し?明日は学園が滅亡するかも~」
『うん自分でもそう思うけどさ。そこまで言うかな心読み君...っ』
お察しの通り、後夜祭に強制連行ですよ。
途中参加のせいもあるんですが。このリア充大爆発空気も相まって、居心地悪さマックスです。
間違ってもあのダンスの輪に入らないように、かなり距離を置いていました。
それが逆に目立ったのか、心読み君に発見されてしまったのはつい先程のこと。
人の事言えないけど、言ってもいいですか?心読み君、普通に失礼ですよ。
「早瀬さんが後夜祭のドレス着てるの初めて見たよー。髪型も何か凄い気合い入ってるね?」
『一体何処のキャバ嬢だよって感じデスヨネー。あのペテン師が』
「は?ペテン師?」
『そもそもこういう着飾るのって、最早私トラウマの域だわ、これ。昨日の悪夢もよみがえるし...』
悪夢って何かって。そりゃ勿論、思い出とするには程遠いミュージカルの事ですよ。
ひょんな事からバレたらどうしてくれるんでしょう。本当に。あ、考えたらお腹痛いかも。
いっそ本当に夢だったらどんなに良かった事か。
...でも。体が、覚えてる。
あの時感じた熱も、岬先生の指先の感触も、全部。
『(...って。思い出さないようにしてたのに何やってんだ私...!うわ、自爆!)』
「青くなったり赤くなったりして、随分忙しいそうだねー。早瀬さん。
オマケにさっきから意味分かんないことばっかり言うし。念のために、風紀委員に看てもらう?」
『一見心配してるように聞こえるけど、それ完璧に不審者扱いだね、心読み君!』
笑顔でさらりと毒舌発言する彼は、どんな場所でもペースを崩さないんですね。
さりげない腹黒発言を受けましたが、正直心読み君に見つけてもらえて良かったですよ。
こんな居るだけでいたたまれない気分になる場所に、一人でいるにはきついものがあるので。
願わくばこの後も隣にいてくれると心強いのですが。やっぱりそういう訳にもいかないでしょうか。
駄目元でちょっとお願いしてみますかね。
『え、えーっと、ところでね、心読み君。この後、誰かと躍りに行ったり、するの?』
「セリーナ先生と踊りたいかなー」
『う...。そ、そか...。そう、だよね。普通は...』
「...。あのさぁ、早瀬さん。折角後夜祭に来たんだからさ。僕と、」
「何だ、早瀬。お前来てたのか」
『へ...っ。あ、えっと、も、持ち上げ君...?』
不意に、予想外な人物に声を掛けられました。
持ち上げ君。確か能力系が同じだと記憶しています。日向君の取り巻きとして、クラスの方たちは認識しているようですけど。
個人的には、猿山のボスこと日向君の子分その一、的な...。
「お前が後夜祭に出て来るなんて珍しいよな」
『べべべ別に私っ、何も、失礼なこと考えてないですヨ!?』
「はぁ?」
『ひぇ...っ!ごごごごめんなさいごめんなさい!』
うわこれ、天罰ですか。そうなんですか。
凄まれました。怖いです。カッと見開いた目がまた鳥肌ものです。
木刀とか片手に持ってたらもう決まり過ぎ...って!
そんな事考えてたら、きっとまた天罰が!
「何で謝ってんだよ。...別に怖がらせるつもり、ねーのに」
『ご、ごめ...』
「いーよ、もう。...ところでお前。この後踊る相手、いるのかよ」
『へぁ...っ?え、あの、』
「いないなら、付き合え」
『んぇっ!?』
唐突に話題をふられたと思ったら、トントン拍子に話が進んでしまったようです。
戸惑っていたら否応なしに、腕を引っ張られました。ちょ、ちょっと痛いんですが怖くて言えやしないのが悲しい...!
え、しかも踊るって何ですか。
何もかもが突然過ぎて、地味に混乱していた時です。
いやに静かだった心読み君が口を開きました。...その顔はいつもの笑顔だったんですけど。目が、笑っていなくて。背筋がゾクリときました。
「早瀬さんはさー、踊るの嫌だから、ここで僕とダベってようって話をしてた所だったんだよね?」
『えっ?で、でもさっき心読み君、セリーナ先生と、』
「え?嫌だなぁ早瀬さん。そんな話、ミジンコ程もした覚えないけど。今からボケたら相当大変だよー」
『は...!?』
「...っていう訳だから、持ち上げ君。その手、離してもらってもいいかな?」
いや、ボケたのはどっちだよ。そう突っ込んでやりたかったのですが。
威圧感すら感じる心読み君の笑顔に、言葉が詰まりました。
何かよく分からんのですが...。心読み君、怒ってるような気がします。
「...おい、早瀬」
『え、な、何ですか、持ち上げ君』
「お前はどうなんだよ」
『どう、とは?』
「俺と来るの、嫌なのかそうじゃないのか」
「だから言ったでしょー、持ち上げ君。そもそも早瀬さんは踊るのが嫌って...」
「心読みには聞いてねーだろ」
「......」
「...で?どうなんだよ。早瀬」
『え...と...』
何、この修羅場。
何でいきなり二人して怒ってるんですか。
空気がピリピリしているせいで、この場所も非常に居たたまれなくなっちゃったじゃないですか!
しかも私に決断を委ねてくる辺りが、また恐ろしすぎます。
これどんな返答をしても、絶対にどちらかのご機嫌を更に損ねますよね?
私こと早瀬は空気を白けさせる持ち主であると、最近自覚しはじめたので。出来れば黙ってやり過ごしたいんですけど...。
どうしたものかと思っていたら、突然マイナスイオンが発生しました。