act.13
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*
あの場から逃げ出したかったからとはいえ。
後先を考えなかったことを、今更になって後悔しています。懺悔。
「いやー、マジでビックリしたわ。結婚式から逃げた花嫁が俺の所に来たのかと思った。ははっ」
『はは...は』
身の毛もよだつ台詞と、いつ元の姿に戻るか分からないのに第三者に捕まってしまったという現状。
全てが笑えないのに無理矢理口角を上げようとするものだから、頬が不自然に引きつってしまいました。
場所は、高等部第二講堂裏口。
只今私こと早瀬由香は、見ず知らずのヤンキーにめちゃくちゃ絡まれてます。
因みに制服がネクタイなので、恐らく彼は高等部の方でしょう。中等部はリボンですから。
そしてその手は、堂々と煙草をくゆらせています。
私という目撃者に遭遇してしまったのだから、少しは自重していただきたい。
未成年の喫煙、駄目です。絶対。
「へぇー。今年の体質系はミュージカルやったわけね。こんなかわいこちゃんが出るって知ってたなら、俺も見れば良かったな」
『は、はぁ...』
「...ま、ついさっき任務終えて帰って来たばっかだけどな」
はー、疲れたと、ため息と一緒に煙草の煙を吐き出して彼は一人ごちました。
...任務。アリスの能力が高く評価された生徒は、学園から仕事を依頼されることがあります。
でもそれは能力別代表や、幹部生の先輩方のレベルに至らなければ、そうそう舞い込んで来ないお話です。
つまりですよ。
このヤンキーチャラ男さんは、実は凄い先輩なのかもしれません。
そう言っておきながら、あだ名はいかんせん、私の偏見が前面に押し出され過ぎたかもしれませんね。
心の中での誹謗中傷は、最早私にとっては通常運転です。
でもそれすらかすむぐらいに...はい。このヤンキー、チャラそうです。
「ところでアンタ、見慣れない顔だな。高等部生?」
『そ...っ!そそうですヨ!?』
「いや。アンタみたいな目立った顔、一度でも見たらぜってー忘れないって。断言出来る」
『ぅ、えぇっとぉ』
そこは是非とも断言して欲しくなかったです。
これは...まさかの事態。一体どうやって切り抜けたらいいんですか...っ!
と、焦ったのもつかの間。ヤンキーチャラ男さんがどんどこ話を進めていってくれました。いいぞ。もっとやれ。
「あっ、実は俺が学園にいない間に来た転校生とか?結構長い期間任務に出てたからあり得る...な訳ねーか。高校生でアリスが発見されるケースなんてそうそう、」
『あぁああのあのあのっ!そうっ。実は、そうなんですよっ。転校ほやほやっ』
「え、何マジで?いや俺もね。アリスの発覚が遅かったから、中等部からの入学。お仲間はっけーん」
『あ...はははは』
「似た者同士、仲良くしようぜ?...あー。ところで、名前は?」
『え"...っ!!』
ヤンキーそれは喋りすぎだ...!
あのヲトメ先輩...もとい、るいおねーさんの時はうっかり名乗ってしまったけれども。今回は状況が違います。
うっかり本名言った後で、高等部にそんな人いないって分かったら明らかにおかしいですよね?絶対。
これは、ピンチ再来です。
「ん?どうしたー?」
『え、えとその、わ、私は...っ!』
いっそまた全速力で逃走してやろうかと後退り、足に力を込めた時です。
アラームのような機械音が響きました。
多分携帯電話です。もちろん、その音は私からではありません。
「っと...。わり、ちょっと待って」
『いやあの、私、そろそろ着替えをですね...っ、んひゃっ!?』
「すぐだから。...はい」
逃走、したかったんですけど。
ヤンキーチャラ男さんに、煙草を吸っていた手のひらで私の腰をぐっと引き寄せられてしまいました。
そして恐らく利き手とは反対の手で、彼は携帯を操作。(煙草を吸っていた手とは反対なので...)
す、凄い。手慣れてます。やっぱこの人チャラ男だわ...。
というか、逃走不可になった時点でピンチ継続中なんですが...っ。
「...はい。はぁ?本当ですか、それ。...はい。分かりました。すぐに行きます。...はぁーっ」
『...えっと、その。何か、急な用事ですか?』
「そーなの。予定変更で、今からまた外で任務。後夜祭には間に合うかと思ったんだけどなー。ついてねぇー」
『た、大変ですね...』
「もうちょっと話したかったんだけどなー。残念。すぐ行かなきゃなんだわ」
ぃよっしゃあぁぁ!!
思わず心の中でガッツポーズですよ。危機は去りました。
さぁさぁ早くその腰に置いてる手から私を解放して。そして早くこの場から去って下さい。
私に心の平和を。
そう思ったのもつかの間。気が付いたら腰にあった手が、いつの間にか首に回っていました。
こ、この人さっきからスキンシップがナチュラル過ぎますっ!恐ろしい!
『なぁっ!?ななな、 なに...っ』
「おー、ウブな反応。可愛らしいお姫様へのお近づきになりたい印として、これどーぞ」
『へ...っ。あ、ネックレス...?』
「それに付いてる石、俺のアリスストーンなんだ。任務から帰って来た後、アンタを探す時の目印って事で。次会った時は名前教えてくれよな!」
首にネックレスをかけると、それに満足したのでしょうか。やけにキザったらしく、ヤンキーチャラ男さんは去っていきました。
いや、別に(何でも)いいんですけどね。キザでも。見た目はイケメン分類に入るような整ったお顔でしたし。
...いいんですけど。
首元のネックレスに視線を落とすと、彼のアリスストーンがしゃらりと音を立てて揺れました。
アメジスト色の、綺麗な色をしています。
形は何故かナスビなんですが。
残念な...イケメンヤンキーチャラ男...?
この何とも言えないセンスが涙を誘います。
でもまぁ、これで会うことは無いでしょう。能力別授業でも見たことのない顔でしたし。
にしても、ドレスをずっと着てるといい加減窮屈ですね。体の凝りをほぐしたくて伸びをしたら、微かに煙草の香りがした気がしました。
...その後、間もなくして。
鳴海先生によって無事発見され、保護されたのですが。それと同時に、ガリバー飴の効果が切れて元の姿に戻るという...ある意味奇跡的タイミングでした。
そのせいでかなりパニックになって大騒ぎするというひと悶着もありました...。
毎年アリス祭では、店番以外はのんびりまどろみながら過ごすのですが。どうして今年はこんなにも忙しいんですか...?
私、そろそろうっかり倒れちゃいそうなんですけど...。