act.13
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「じゃっ、岬先生も来たことだし、僕は一度舞台に戻るね~っ」
「待て鳴海!話はまだ...!」
「これでも僕、監督もやってるから忙しいんだって。後片付けもあるし...」
「じゃぁ何でこんな所で油売ってるんだよ...っ」
「だってガリバー飴で大きくなったままの由香ちゃんを一人にはしておけないからね!」
『鳴海先生...』
私を思いやる言葉に一瞬ほだされそうでしたが、すぐに思い直しました。
騙されてはいけません。早瀬由香。
そもそも諸悪の根源はこのペテン師ですから。
「その点に置いては、岬先生に任せても安心だよねーっ。事情を説明しなくても、察してくれてるっぽいし!」
「そこは説明省くなよ!」
「あ、そうだ。岬先生ちょっと耳借して」
「な、何だ気色悪い。...はぁ!?ちょっ、お前、何言って...っ!」
「じゃっ、ごゆっくり~っ。あー、恋のキューピッドは忙しいなーっ」
『「......」』
何言ってんだコイツ。
鳴海先生を一緒に見送ってしまった岬先生も、同じような突っ込みを入れているに違いないと。何故か妙な確信がありました。
そしてこれも不可解なのですが。耳打ちされた後の岬先生は、顔どころか耳までも真っ赤なのでした。
*
『あの...岬先生?』
「......」
鳴海先生が居なくなった後の控え室は、気まずさを感じる程静かになってしまっていました。
時計の針の音が、いやに大きく響きます。
控え目に岬先生を呼んでも、応答はありません。というか、聞こえて無いんじゃないでしょうか。これは。
今だに赤面状態で硬直しています。
一体何を言ったんですか、あのペテン師は...。
『...岬先生!』
「っ!?うわ...っ」
『ちょっ、よく分からないけど先生落ち着いて下さ...ひぁゃっ』
「あ、危ない!」
『「......」』
結論。気まずいから重苦しい空気に逆進化。私はきっと、選択を間違えました...!
大声で岬先生を呼んだ時点で、もう選択肢的に完璧アウトでした。そしてその後の展開は、何かもう逆にいたたまれないものです。
大声で酷く驚いた岬先生は、勢い余って机にぶつかり。
その上にあったペットボトルやら紙コップやらをゴロゴロ転がした挙げ句に、机から物をガラガラと落としてしまい。
それを拾おうと私が立ち上がってみれば...はい。お約束過ぎて言いたくもありませんが、ドレスを踏んづけこけました。
岬先生が受け止めてくれたので、転倒は避けられたんですが。
いかんせん空気が。空気という名の圧力に、私は潰されそうです。
『ごごご、ごめんなさい...っ』
「いや、その...。大丈夫、だったか?」
『はははいっ、けがとかは全く無く...っ』
「そうじゃなくて、だな」
『えぇえ?えとあの、何か違いましたか』
「劇で、鳴海に...その」
『?』
「き、キス、されただろう」
『...んえぇ!?』
そそんなに頬染めながら躊躇して言われると、こちらとしても激しく照れてしまうんですが...!
というか、鳴海先生が素朴に思ってた疑問が今まさしくここに投下されました...っ。
いたよ、居ましたよ。キスしちゃったと思ってる人がここに。
「俺もあの場に居たのに、あんな事になってしまって...。」
『ぁ、あの、実は』
「本当に申し訳ない!」
『んぇ!?いやいやいや...っ。先生、あのですねっ、』
「いや!いいんだ早瀬、謝らなくてもっ」
『え』
あれ私今謝りましたっけか。
本当はキスは未遂に終わった事を言いたいんですけど...。
すっかり致したと思い込んでしまっている岬先生は、責任を感じているんでしょうか。
語るに落ちています。最早トークは誰にも止められません。
「そもそも俺があの時もっと早くに止めに入っていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに...!」
『あの時?あの時って...いつです?』
「え」
『え?』
「...まさか早瀬、気付いてない、のか?」
『それ鳴海先生も同じ事言ってたんですけど、一体何なんです......あ』
語るに落ちた岬先生のおかげで、やっと分かりましたよ!
問題のキス未遂シーンで私の名前を呼んだ真犯人が!
え、助けてくれた人に犯人呼ばわりとか失礼?
いやぁ、謎が解けると名探偵にでもなったかのような気分なのでつい。
そこまで考えられるなら分かりそうなものだと、呆れ半分だった鳴海先生の言葉も今ならうなずけます。
はい。そりゃそうですよね。だってガリバー飴で大きくなった私の姿を知っているのは、ごく限られているんですから。
一人は鳴海先生。そしてもう一人は...
『劇で私の名前を呼んだのって、岬先生だったんですね!』
「早瀬信じてくれ!他意は無いんだ!」
『は...っ、はい?』
「とっさに呼んでしまったのは、止めようと思ったからであって!他の理由なんて無いんだっ。断じて!」
『ぇ...と』
何これまさかの真犯人自供ですか?
でもまぁ、とりあえずは。
(よく分からないけど)分かってます、岬先生を信じてますと口から出任せを言っておきました。
岬先生の扱いがぞんざい?
あのですね。
そもそも岬先生の登場場面があったせいで、過去を彷彿とさせるような嫌なフラグが立ってるんですから。
変に波を立てないのが無難というものでしょう。普通は。
いい加減な扱いであろうが、いいじゃないですか。だって今の岬先生の顔、安心しきってますよ。
私としてもフラグ回避できそうで何よりです。利害の一致じゃないですか。はっはっはっ。