act.13
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鳴海先生の即席台本によると、始まりはこうでした。
王子様の口付けでお姫様が目覚め、めでたしめでたしな所で舞台は暗転(またしてもトラブルなのか、既に舞台は真っ暗でしたけど...)
そして私こと早瀬...居眠り姫がセンターに立ち、そこにスポットライトが当たり...。
『...待っていた』
最初の台詞は居眠り姫から。
てっきりお芝居は終わりだと思っていたのか、観客は少しざわざわしています。
私だって予想外ですよこんな事...っ。
まさか居眠り姫が再登場して何やら喋らなきゃいけない羽目になるだなんて...っ。
心臓は破裂寸前で、緊張のあまり涙が出るわ声は震えるけれども。
始まってしまったのだから、腹くくるしかないです。
大丈夫。大丈夫です、きっと。
鳴海先生があんちょこ持たせてくれたから!
フォローの意味はき違えてる感がひしひしと来るけれど、それでも無いよりはよっぽどマシです!
『何年も、何年も。気が遠くなるほどの時を過ごしながら、ずっと。私は王子だけを。眠りながらも待ち続けていた。
この呪いからいつか解放してくれる。そう信じて。...けれど』
観客席からはいつの間にか、ざわめく声が聞こえなくなっていました。
よ、よし。とりあえずはつかみはオッケーですかね...?そう思い込む事にします。
『王子。こんなにも待ち焦がれている私の元へ、貴方が訪れることは無かった。
想いは時を重ねる度に、衰える所か強くなるばかり。...かけられた眠りの呪いを自ら解き、目覚めてしまう程に。
それなのに貴方は、私を選んで下さらないばかりか、他の...っ!』
...どうしてこんな時に思い出すんだろう。
私も、遠い昔。焦がれるように誰かを待ち続けていた日が、あったような気がする。
うつろな記憶がよぎった途端、何故か悲しい気持ちでいっぱいになってしまい涙がこぼれてしまった時です。
誰かが優しく肩を抱いてくれました。
「姫、どうか泣かないで」
『...貴方は...』
「狩人です。白雪姫の抹殺を私に依頼されたでしょう?」
若干トリップ状態だった私を戻してくれたのは、鳴海先生でした。
あ、危なかったです...。
ちょっとうっかり泣いちゃいましたけど、台詞的には涙付きでも違和感無いですよね?
鳴海先生もフォローしてくれたから大丈夫ですよね!?
「姫...あなたはもう、十分苦しんだ」
『え...っ?』
「そのいたいけな心を、憎しみで満たす必要は無い。これからは、私がお側にいます」
『あ...』
唐突に、頭がクラリとしました。めまいのような。
よろけた私を、鳴海先生が支えてくれました。そして私だけに聞こえる声で、ごめんねとささやく声が。
このめまいのような感覚。まさか私、フェロモンに当てられたんですか...?
気付いた時には、既に手遅れ。
撫でるようにして私の頬に大きな手が触れたと思ったら、端正な顔が目の前にありました。
...キスされる。
そう認識は出来たけれども、フェロモンの影響でしょうか?頭が全く働きません。それ所か、力が上手く入らない体を先生に預けきっていました。
頭がクラクラするせいか。雰囲気に流されたのか。思わず目を閉じれば、先生の吐息を感じる程に近づいているのがよく分かりました。
もう、唇が重なってしまう。その時です。
「早瀬...っ!」
『......!』
微かだけれども、私を呼ぶ声が耳に届いて。それが合図だったかのように、我に返ることが出来ました。
き、危機一髪ですよねこれ...!?
声の主を探そうと客席を見ても、スポットライトを浴びているせいで観客の顔はよく見えませんでした。
鳴海先生も予想外の出来事だったのか、目を丸くして呆然としています。
...よし。今なら台詞を続けても違和感無さそうな気がしないでもない!
そう決意して、ここぞとばかりに鳴海先生をゆっくりと突き放しました。
本気になれば、フェロモンなんてこんな少しばかりの距離は関係無いかもしれませんが。
『ありがとう...狩人の人』
「姫...」
『もう、良いのです。呪いの眠りから目覚めてしまったのも、憎しみで心を痛めた事も』
「どうしてですか!そんなにも姫の御心は傷付いてしまわれたのに...っ」
『それはきっと、運命だったのでしょう。心が裂けるような痛みも苦しみも、全ては貴方に巡り会える為の布石』
「...!」
『私だけの王子...やっと見つけた...!』
「姫...っ!」
感動の部類に入るであろう場面で失敬いたします。この後は二人が抱き合って、簡単なナレーションが入り幕を引いて終わりになるんですがね。
さっきの鳴海先生の予定外過ぎる行動のせいで、私、若干トラウマ負ってしまったんですよ。
つまり何が言いたいかって。
狩人に抱かれていた眠り姫は、何故かとても腰が引けていたそうです。
最後の最後でやらかしました、拭いようのない違和感...。
でもまぁ。私がやることですから、この程度はご愛嬌として受け取って欲しいです...本当に。
閉じた幕の向こうからは、鳴りやまない拍手。
突発的なトラブル続きに見舞われたミュージカルは、ようやく終わりを迎えることが出来たようです。