act.13
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*
『ふ、わあぁーっ、はぁ...。何処か転がってないのかしら?いい殿方は...』
文字通り鳴海先生によって舞台袖まで引きずられた頃には、緞帳はまさに上がろうとしていました。
最早言い訳無用。逃走は不可能。
逝くしか...いえ。行くしか選択肢は残されていませんでした。
うぅ...。まさかこんな満席以上の人前で、居眠り姫を演じる羽目になるとは思いにもよらず。...いえ。
観客の半数は動物ですが。
動物だけどカボチャカボチャと念じても、人前おっかないです。目立つ。怖い。
「猫のようにぐ~たらゴロゴロ~ひなたぼっこにいつもいねむり~。それは美しさもかすむ怠惰という名の眠りの呪い~...」
『何だか少しお腹も空いてきたわぁ。...あら』
声フェロ合唱団はそうおっしゃられますけれどもね。私からは悲壮感が非常にただよっている筈ですよ。
こちとら先程から半泣きでやってるんで。
衣装作成班でミュージカルの練習に長いこと携わっていたのが不幸中の幸いでした...。
そうでなければ、こんなぶっつけ本番でそれらしい台詞を適当に吐き出せたもんじゃないです。
え、台本の台詞と大分違う?幻ジャナイカナー。
『そちらの殿方...何か美味しそうな食べ物を召し上がられているのね?』
チラリと舞台袖を見ると、今の台詞を言うようにとメモってあるカンペを持った鳴海先生がいらっしゃいました。
練習でそんな台詞無かったような気がするのは、勘違いでは無かったようです。
ようはですね。その急きょ追加した台詞でパフォーマンス的なものを披露し、ミュージカルを少しでも盛り上げたい意図があるみたいです。
いやいやいや、気持ちは分からなくは無いですけども...っ。要求するレベルが高過ぎますってばおいてめーこの野郎。
具体的に指示しろや。
...と、意思が通じたのか指示ありました。助かりました...!
えーっと?舞台から直接客席に続く中央の階段に腰を掛けて...こうですか。そしてドレスの裾を持ち上げて脚を組み、前屈みになる...と。
...何だか変な指示ですね。こんなんで盛り上がるんでしょうか?
そして、台詞は...。
『そのお菓子、私にも下さらないかしら?...ね?お願い』
「僕ので良ければ!」
「これどうぞ!」
「いや俺が!」
「いやいや俺が!」
『ひ...っ!ぁぁ、あ、りがとう、ございます...』
一番近くにいた、お菓子持ってる人だけに話し掛けたつもりだったんですけどね。
何故か、大人数の男子達に包囲される結果になってしまいました。え、ちょっ、待って下さい。これまだ人数増えてやしませんか...っ。
ビビり過ぎて思わず素が出てしまいました。というか、これはまた別の意味で怖い。
不安げに舞台袖に目をやると、グッジョブと指を立てた鳴海先生が。
...えーと。よく分からないけど、パフォーマンス成功ですか?
そういえば先生は、フェロモン体質の持ち主でしたね。
それを応用して、こうなるように仕向けたのかもしれません。
...その後。
友情だか特別出演で、心読み君が突然目の前に浮かび上がった時には、それはもう心臓が止まりそうな思いをしたり。
猫のコスプ...いえ。衣装を身にまとった日向君が舞台に上がってきた時には...はい。
舞台どころか、客席全体に及ぶ程のいいたたまれない...とでも言えばいいんでしょうか。
何とも言いがたい、硬直とした空気に包み込まれたりと。
もう色々大変としか言いようが無かったんですが。
何とか終わりにまでこぎ着けることが出来そうだと、半ば安心していたまさにその時。
事件は再び起こったのです...!いや大マジですってば。