act.12
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*
「…早瀬。聞いてもいい?」
『うん?』
相変わらずおっかなく感じる歩行だけれども。
それでも先程よりはペース良く歩けるようになった頃。
乃木君が、こんな事を言い出しました。
「早瀬は…棗とは前からの知り合いなの?」
『えぇっ?そんな訳…。……っ?』
そんな訳、ない。
そう言おうとした言葉は、何故か最後まで続ける事が出来ませんでした。
その代わりに浮かんだ情景は…。
…。
私…何かを忘れている?でも思い出せない。
心の何処かがつっかえた、ような。
黙り込んでしまった私を見て、乃木君が慌てて言葉を続けました。
「ごめん。急に変なこと言って」
『…どうして、』
「え?」
『どうして、そう思ったの?』
「棗と早瀬が一緒にいるのを見て、何となくそう思ったんだ」
『……?』
どうしてそれだけで、その結論に至るのかが分からない。
そんな疑問の空気を感じてか、乃木君はまた一つごめんと呟きました。
「何て言ったらいいのか、自分でもよく分からないんだ。
棗とは結構長い付き合いなんだけど…。うん。一緒、だからかな」
『一緒だから…?』
「ずっと一緒にいて相手の事を見てると、段々その人の事が分かってくるって言うか…」
『そうなんだ?』
「だから早瀬と一緒にいる時の棗は、他の子といる時とは何かが違うって。見ていて思ったんだ」
『何かが、かぁ…』
具体的に言葉に出来ないと、何だかモヤッとしますね。
それは乃木君も同じだったのでしょうか。
とにかくそう思ったんだよ!何となく!
…と、最後には半ばヤケクソになってました。
一緒にいると相手の事が分かってくる、か。
そんなものなんですかね?
私には長い付き合いの人がいないので、よく分からない感情です。
そんな事を考えていると、ふと、あの時の…。
安藤先輩との、病院でのあの会話が唐突に蘇ってきました。
(安藤先輩って、何でも私のこと分かるんですね)
(そりゃ分かるさ。北の森で初めて会った時から…)
(由香)
(ずっとお前の事、見てたんだ)
『…っ!』
「…早瀬?」
あの後は、結局茶化されてしまって。
その言葉が本当かどうか、分からずじまいだったんですけど。
乃木君のさっきの言葉…。相手の事をずっと見てると、その人の事が分かってくるってやつです。
それをそのまま当てはめるとしたら。
あの時安藤先輩が言った言葉は、本当って事になるわけで…。
「早瀬、本当にどうした?何か手が熱くなってきてる気が…」
『乃木君…とんでもない、事実が、判明してしまって…っ』
「はっ?」
真っ暗闇にも関わらず、思わず顔を隠すように覆ってしまいました。
安藤先輩と私は、ずっと一緒にいた訳ではないけれど。
それでも、安藤先輩は。
雨の中で泣いている私を初めて見た時から、ずっと。
私の事を、見てくれていたんだ。…ううん。そう言うよりも。
見守ってくれていた、という言い方がしっくりくる気がします。
だからこそ、私の事は何でもお見通し、って…。
『…うぅーあぁぁぁー…っ』
「…変な早瀬」
思わず泣いてしまいそうな、でも、恥ずかしいような。
何とも言いようがない感情に、悶えていたけれども。
乃木君は特に動揺する事無く、軽くあしらっていました。
この人、最近私の扱いがどうも手慣れてきた感じがします…。
それでも、私を支える腕は緩めることなくしっかり連れて行ってくれてたんだと気付いたのは。
お化け屋敷を無事に脱出した後のことでした。